オウジ達、陥没穴に堕ち込む
「さあ~そろそろ帰るとするか」
だが運命はオウジ一向を捉えて離しはしなかった。
可愛そうに運命の糸に引きずられるように異次元の入口である扉は開いてしまうのであった。
帰り支度のオウジ達が立ち尽くす洞窟の岩底では変化が起こり始めていたのである・・・ゆっくり、ゆっくりと・・・
オウジがあの真鋳の筒カンからペンダント型紋章を取り外そうと、シルバーの細い鎖のつなぎ目であるオスメス型ねじを回しオス型のネジを抜いた時から!
洞窟の深い深い岩底では、無数の小さな岩盤がカタ、カタと時計の小さな歯車のように小さく動き出した!
オウジが紋章型ペンダントを首にかけようと、今度はオスネジをメスネジに回し込んだその時から!
洞窟の浅い浅い岩底では、多くの大きな岩盤がゴッン、ゴッンと時計の大きな歯車のように大きく動き出した!
神の力により、オウジ達を運命の地へ送り届ける準備が今まさに開始されようとしていたのです。
「あれ、何か音するね」サチ、デンスケがオウジの傍に来た。
怪訝そうなオウジに
「オウちゃん、そのペンダントからじゃないか?」デンスケ、サチがオウジの胸元のペンダントを覗き込み
「竜の目、赤く光っている、点滅してるなあ~」
オウジは、慌ててペンダントを引き寄せると確かに竜の目は赤く点滅を繰り返しヒューン、ヒューンという電子音をペンダントは発していた。
竜の目の赤い点滅が激しくなり、ヒューン、ヒューンの電子音はかなり大きくなってきた。もう耳障りなくらいに大きくヒューンと鳴りだしていた。
まずオウジが焦った。ペンダントを外そうとシルバーの鎖の継ぎ目を捩じったが捩じれない、おかしい回らない。見ていたデンスケ、サチも焦りだした。6つの手が鎖の継ぎ目を捩じろうとした。
もつれてよけい捩じれない。デンスケがオウジの頭から鎖ごとペンダントを引き抜こうとペンダントを思い切りオウジの頭上に引く。
「痛い、痛い、無理だデンスケ。毛が挟まっている」オウジが悲鳴を上げる。
ヒューン、ヒューンの電子音はますます大きく鳴る。鼓膜をやぶりそうだ!異変に気ずいたハカセ、スエヒロがこちらに寄ろうとする。
その時である。デンスケが思わず口をついてしまう。
「これ爆発するんじゃないか!」
「バカ言うなよデン!いいからこれ早く引きちぎれよ!早くしろよ」
オウジはイライラして怒鳴りちらす。
「爆発するんじゃないか!」の一言に、ハカセは思わず2~3歩後ずさりをしてしまった。
デンスケとサチはオウジにしがみつくようにして夢中で鎖を引きちぎろうともがいていた。
その光景にハカセはものすごい嫌悪感に襲われる。
(やっぱり僕はオウちゃん仲間とは違う、なんだかんだ言ってもデンちゃんはオウちゃんの本当の仲間だ生粋の仲間だ。いざとなると態度が違う)
爆発するの一言に無意識に逃げようとした自分、危険を顧みず何とかしようとその場で頑張る二人、恥ずかしかった後ずさりしたことが。
(誰も見てなかったか?)
そんなずるい考え事が頭によぎること、後ずさりしてしまったこと、何とか忘れようと理由づけをしょうとハカセはスエヒロの傍に歩みよりそっと肩を引き寄せた。
僕は危険だと後ずさりをしたのでない、何かあったらスエちゃんは僕が守ろうと後ずさりしたんだ。ハカセは自分にそう言いきかせた。
だが、もう一人のハカセは
(オウちゃんの事はデンちゃんとサッちゃんが何とかするだろうよ・・・)
と焦りを感じない冷めきったニヒルな傍観者でもあった。
ハカセはこのもう一人のハカセがとても嫌だった。だがこのもう一人の冷めきったニヒルなハカセは時々顔を出すのであった。
その時、洞窟全体が突然に本当に突然にだ。グラ、グラ、グラと揺れた。
踏ん張る足元では砂利がズズーと横滑りし、天井からは岩の欠片がパラパラと降ってきた。
一瞬時が止まり、まわりの空気が一気に凍り付いた。
「あー、地震、地震だ」、「地震」
「キヤーキャー」、「ウォー、オオ~」
「ヤバい!、ヤバい!」
「つかまれ、伏せろ、動くなー!しゃがみこめ!」
デンスケ、サチ、オウジは悲鳴と同時に目の前の大きな削岩にしがみついた。ハカセとスエヒロは削岩から離れたところで四つん這いに臥せた。
しがみ付く削岩はグラ、グラ揺れる。今にも横倒しになり転がり出しそうだ。
削岩の廻りでは必死にしがみ付く6つの瞳がギラ、ギラと交錯しあった。そして6つの瞳は削岩より少し離れて伏せたハカセとスエヒロに向かった。
ハカセはスエヒロをしっかりと抱きしめその頭を抱え込んでいた。そしてオウジ達のギラ、ギラした6つの瞳に応えた。
(わかっている!この揺れが少しでも弱まれば逃げ出すんだろ!)
ハカセは少しでも早く立ち上がれるようにとスエヒロを抱きかかえ四つん這いから腰を浮かした。
もう一度グラ、グラ、グラと大きな大きな横揺れが来た・・・そして間髪を入れずに今度はドスーンと大きな縦揺れが襲った。
デンスケ、サチ、オウジがしがみつていた削岩が一瞬宙に浮き、ガスーンと落ちた。削岩は洞窟の岩底を一瞬の内に陥没させた。削岩はその陥没した穴に凄い勢いで吸い込まれていった。
削岩にしがみついていたデンスケ、サチ、オウジもキャーと叫び声を上げる間もなかった。陥没した穴に頭から並んで吸い込まれていった。
宙に浮いていたオウジも、ものすごい勢いで穴に吸い込まれて行った。
ハカセは、オウジ達が頭から一回転し穴に吸い込まれていくのをスローモーションのように一瞬垣間見た。
陥没穴は漆黒の泥沼のような大きな口を開けていた。そしてその口元がどんどん崩れていくのである。周辺の岩、小石、砂利を飲み込み口元はますます大きくなり崩れていく。
天井からはハカセとスエヒロの頭をめがけるかのように岩の欠片がバラ、バラと降る。
ハカセは落ちて来る岩の欠片をさけようと無我夢中で腹ばいから仰向けに姿勢を変え天井を見据える、そして傍らのスエヒロを引っ張り込む。
スエヒロは片手で頭を抱え片手でハカセの腰にしっかりとしがみついていた。
漆黒の陥没穴はハカセとスエヒロを追って来た。
いきなり縦にギザギザの亀裂を発生させるや、ヨダレを垂らす野獣の口のようにそれはパカ~ンと大きく割れ、小石、砂利を飲み込む。
ハカセは仰向けのまま必死に両足で岩底砂利をガツ,ガツ蹴ったいていた。だが足は固まり思うように動かない。それでもハカセは両足で必死にグイ、グイと蹴る。
陥没穴はさらに大きく口を開け、ガシャ、ガシャ、ガシャンとスエヒロの腰あたりまで迫った。
そしてその漆黒の陥没穴からは真っ黒くか細い手がニョキっと出、スエヒロに絡みつき伸びた。
『ハカセ!』一瞬、スエヒロが叫んだような気がした。
ハカセが必死に握りしめていたスエヒロのシャツの肩口が破れた。かすかにスエヒロの手がハカセの手に触れたように感じた・・・スエヒロは大きな瞳をまん丸に見開いたまま・・・仰向けで真っ暗な陥没穴へ吸い込まれていった。
漆黒の陥没穴からはか細い真黒な手が何本も何本も出、クネクネと伸び今度はハカセの手に足に腰にそして頭にまで絡みついた。
もう、手の支えが効かない足の踏ん張りも効かない。
ハカセも腰から漆黒の陥没穴に吸い込まれていった。
ハカセは大きくて暗い穴の中をまっすぐに落ちていった。暗闇はどこまでも続きハカセはくるくる回りながら落下していった。
顔には凍り付きそうな冷たい風が吹き付け息もできない、ハカセの脳裏でにっこり微笑えむ母が『タモツー』と呼んだ。
『かあちゃん・・・』ハカセの意識は遠のいた。
みんな、みんな光も音もない世界、壁も天井ない世界、暗い、暗い陥没穴に吸い込まれて行ってしまった。
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