悪寒(洞穴の危険)
そのころ、宙に浮いたオウジは上向きで肩肘を立て頬杖をつくような恰好でフラ、フラしていた。
時折足先がポワ~んと上がってしまうと天井の岩石の間に溶け込んでしまう。
足先がホワ~んと上がるたびに岩石に溶け込んだ足先に妙な悪感がはしり、オウジは上向きの姿勢から腹バイの姿勢に向きを変えた。
悪感は天井の岩石全体が右に左に微妙に本当に微かに揺れているかのような、言い換えれば全身の血管の中の血液が左右に揺れているような悪感だ!
下を見ると、岩底の水たまりに写った青白い光や金緑色の光も揺れが大きくなってきている気がして、オウジは早々と洞穴を退去しょうと狭い入り口に向かい浮遊しだした。
下のオウジ達一向も、嫌な悪寒を感じはじめていた。洞穴の壁や天井に写しだされる青白い金緑色の光のオーロラの揺れが依然より大きくなっているとハカセは感じ取っていた。
誰かが水溜まりを足で揺らしているのかと足元を見るが、その場で動くことなく皆話し込んでいるだけである。
ハカセは性格が律儀で、何かあってもそれはこういう事が原因で起こると仮説をたてるのである。そしてその原因を確かめる対応策をとる的な科学者みたいな思考行動を取る。
今回も誰も光の写り込む水溜まりを揺らしてないなら
(あのオーロラの小さな揺れはなんだ・・・)
(え!まさかこの洞穴全体がハカセ達一向が気付かない位に微妙に微妙に・・・)(揺れているのか!)
(・・・て事は!)
ハカセの思考はこれらに関連することを一瞬の内に思考した。
「オウちゃん、」
ハカセは、今の事をわかりやすく簡単に、簡単に素早くみんなに説明した。
聞いたオウジやサチはその事をすばやく飲み込んだ。デンスケとスエヒロはすばやく理解するとまではいかなかったがアブナイ、危険だと言う事はわかった。
一向はすぐに、狭い入り口に向かい歩き出した。
こんな狭いところの洞穴で、大きな揺れが来たらオウジ、ハカセ、サチは気が気ではなかった。デンスケは本能的にこれは危険だなと察知しはじめていた。
スエヒロは、しがみ付いたデンスケの体より発せられる大きな焦りに危険を感じとっていた。
みんな岩底の滑りに気をつけながら出来るだけの早足で出口に向かった。
まずデンスケが身をかがめて狭い入り口より脱け出した。
そしてサチ、スエヒロが続いた、スエヒロの背を押すようにしてオウジが出、最後にハカセが狭い入り口から転げ落ちるように頭から脱け出した。
ハカセは、入り口を抜けようとしたとき背後に洞穴のあの青白い光や、湿った閉塞感が迫ってきた感に襲われ思わず後ろを振り返ってしまった。
洞穴内はただ、ただ薄暗闇に静まりかえり奥の方にはかすかにあの青白い光が静かに一点をさしていた。
青白い一点の光は、ハカセを操つりハカセの足を右に左に一歩、一歩あの青白い洞穴奥の広場にまた押し戻そうとしていた。
洞窟内へ転げ出て洞穴から脱出したハカセは、明るい光、パァ~とひらけた視界、鼻筋を通したような呼吸感を味わい大きく大きく深呼吸した。
ようやくあの青白い光の呪縛を洞穴の奥へ奥へと押しやることが出来たと思った。
デンスケとサチ、スエヒロが洞窟奥の清水の湧き出るあたりで手にすくった清水をおいしそうにゴクン、ゴクンと飲んでいた。
ハカセも異常に水を飲みたくなった、あの塩のたっぷりかかった川エビをたらふく食べじっとりした洞穴内に暫くいたのである相当に喉も乾いていたのであろう、あわてて清水を喉奥へとガブ、ガブ押し込んだ。
「あれ!オウちゃんは、」
オウジは、洞窟の奥の天井より転げ落ちた大きな削岩の横で両肩をダランと落とし頭を前のめりにして座り込んでいた。
相当に疲れているなとハカセは思った。
みんなのリーダだから
(何かあってもオウちゃんがなんとかするだろう)
最終的にはオウちゃんにみんなが頼っているけらいがある。自分では気づかないが何か起こると相当な重圧に襲われるのだろうとハカセは思った。
そういうハカセもあの微妙にゆれていた洞穴を脱け出すときでさえ
(最後にはオウちゃんが何とかするか)
位の危機意識しか持たなかったのである。
オウちゃんはこの洞穴をみんなが無事に脱け出してくれて・・・本当にほっとしてしまったんだろうなとハカセは思った。
「オウちゃん、水おいしいよ、飲まないの」
とハカセ。
「ああー、飲むか、スエヒロ旨いか!」
「旨い、アンちゃん」、「旨いよ喉にしみるぞ」
口元を拭いながらデンスケ達がオウジのいた大きな削岩の廻りに戻ってきた。
ハカセは水を飲むオウジのそばに行き、
「オウちゃん、この洞窟までは揺れてないみたいね、」
そっとつぶやいた。
オウジは、
「この中は大丈夫だな、揺れが来てもすぐ出られるし」
「デンスケ、サチ、スエヒロらは忘れているな・・・言わないでおこう」
と頷いた。
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