スエヒロの秘密の基地
そんなハカセは学校が終わるとほとんど毎日、オウジ家に直行するのが日課になっていた。
家にはカバンを投げ込むだけだ。ハカセの母ちゃんが、
「タモツ・・・タモツちょと、ちょと待って・・・」呼ぶ間もない!
もう既に自転車をこぎ出しているのだ。
ハカセの母ちゃんは、今までのハカセが、勉強好きで、何かあってもすぐに「母ちゃん、母ちゃん」とついてまわっていた優等生のハカセが懐かしかった。
だが今のハカセも頼もしかった、急に男らしくなったと思えて仕方がなかった。
(母ちゃん、何かあったら僕が面倒見るからね)
そう言ってくれそうで将来が楽しみになったのである。
デンスケはと言うと、もっとひどい。
学校のカバンがオウジの玄関の上り口にポ~ンと投げ込まれるのだ!・・・自分ちの玄関先ではないのだ。
もう既にデンスケの母ちゃんには飽きらめられ・・・さじを投げられていた。
時々オウジの家に泊まってしまうのだ、仕方なくデンスケの母ちゃんはオウジの母にひそかにデンスケの着替えを渡している始末だ。
そんな状況だから、オウジ、デンスケ、ハカセは良く一緒に遊ぶこととなる、自然にサチもスエヒロもついてくる事となる。
今度も可哀想に運命の糸に導かれるように、だんだんと異次元の入り口に近づいていくのであった。
日暮れ山の麓には町に通じる道路が一本はしり、その下は10m位の垂直に切り立った崖であった。あの大地震では日暮れ山からは何個かの崩れた大小の岩が道路を越して転がりその下の崖下の河原まで落ちていたのである。
その岩が転がり落ちた辺りは、崖の前を流れる中川が大きく蛇行する辺りの為、崖すれすれまで急流が迫り、水流が蛇行時に川底をえぐり出すのでいきなり水深も深くなり水の流れも速く波立っている。
この川と崖幅の最も狭い所を過ぎた辺りに蛇行する急流が運んだ小石や砂利の河原が5~10m幅で細長く出来ていた。この河原は行くのが危険なため誰も行かない。
ある時この河原を見つけたデンスケ、オウジ、ハカセがスエヒロを連れて冒険だと、一度来たことがある。
崖すれすれまで急流が迫っていたので崖に斜めに根づいた小木の根の間をデンスケがスエヒロを背負い渡った。河原に着くと、崖はみやげるばかりに垂直に高くそびえ立ち、崖から斜めに幹を生やした木の枝にツタややぶが絡みついていた。その下のほうには山百合が咲き岩の上に白く群生している。
この河原には崖にホッカリ開いた洞窟があった。絡み合った藪ササをかかき分けた所でスエヒロが見つけたのである。幅5~6m、高さは3m、奥は15~6m位である。奥からは岩の間から清水が湧き出し洞窟の底を流れ川岸までチョロ、チョロと流れていた。
洞窟の天井や壁はツルンとした岩盤で、所何処ろに大きな岩が突き出ていた洞窟底には岩盤の割れ目に小石や削岩が入り込み湧き水が流れていたので沢蟹が沢山いた。後でスエヒロの良い遊び相手となった。
そびえ立つ崖と蛇行する急流に挟まれたこの河原は小石や砂利の浜と白い砂場があり、崖の真下辺りには季節ごとに多種の草花が生い茂り、意外と小木も多く群生し、白、黄色、赤の花もつけていた。その小木の根元には蛇行する急流に運び込まれたのか、小動物の骨や頭骸骨が真っ白に漂白されてさらされていた。俗世間を離れたような風景であり、雰囲気はまるで別世界のようだ。
スエヒロは大変気に入り、ここを「スエヒロの秘密基地」と名づけた。
ここが、異次元の入り口である。地球からでは数百光年離れた惑星マーズへの入り口である。何も知らないオウジ達は運命に引きずられるように、とうとうこの異次元の入り口にまた来てしまったのである。
大地震の後、「スエヒロの秘密基地はどうなった」と再三せがまれたデンスケがオウジ達を無理やり誘い出しこの河原に来ていたのであった。
デンスケは川岸の岩がゴツ、ゴツ張り出した所で顔を岩肌に張り付けながらしきりに岩のまわりを廻り両手を岩の下に差し込み、へばりつく水草をかき分けながら時折手を岩下から引き抜くと、
「おーい!サチーサチ」
叫ぶ。
デンスケの手からは、数匹の大きな川エビが、川エビは、サチ、スエヒロの廻りに投げ落とされれ、スエヒロの作った生け簀でエビは飛び跳ねた。
「デンちゃん、凄い、けっこう大きいよ、まだいっぱい居るの!もう10匹だよ!」
「まだイルナア!、あと10匹は取るからな!」
「サチ、エビ逃がすなよ!」
「大丈夫、大丈夫、だけどこのエビ凄く跳ねるねー」
「ねえ、デンちゃんスエヒロもそっち行っていいー」
スエヒロはエビを取りたくて取りたくてショウガナイようだ!
「ダメだ!危ないーーー!流れ早いから、足取られたら大変だデンスケ絶対ダメだからな!」
あわててオウジは川岸の奥から叫んでいた。
空中に浮いていた空中浮遊中のもう一人のオウジは、下のオウジの頭上6m位に顔、腹面を下にして浮遊していた。
「さあーこれからはエビを焼くのか・・・そうしたら奥の洞窟にでも行くのかな」
ただ、ただぼんやりとした意識だけが浮遊していた。
下では、
「なんだサチ、塩まで持って来てるのか!」(笑)、(笑)
「だってデンちゃんが持って来いって」
サチは笑いながらデンスケの焼くエビに塩を振っていた。
中腰になり、けっこうな高さより八の字を描くように塩を振るその仕草はまるでイッパシの料理人のようであった。
急ごしらえのカマドは小石を半円形に積み、その上に平たい岩の欠片が乗っていた、その岩の欠片の上では、川エビが真っ赤にそまり、身がギュッと反り返えった・・・香ばしい香が一面に漂った・・・食べごろである!塩気の効いた新鮮なエビだ、おいしい、皆一目散に口に運んだ!
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