オウジ達とその仲間達
あの日
日暮れ山で大地震にみまわれたオウジ達5人、実は神に選ばれし運命にある5人の童子達なのであった。そんな事とは露ほども知らずに、オウジ達5人は大地震の後に運命に導かれるように異次元の入り口である日暮れ山の崖下にある洞窟に向かってしまった。
オウジは奇妙な感覚に捕らわれていた。体全体が半透明で透きとおった半分物体であり半分物体でないような
下のほうではデンスケがいた、ハカセもいた、サチ、スエヒロもいる、そして・・・そして自分「オウジ」もいるのである。
宙に浮いたオウジは、
そのことに何ら不思議がる事もなく「お~俺も居るな~」・・・とただボオーとしてみんなを眺めているのである。
下ではデンスケ、サチ、スエヒロが河原の川岸に寄り集まっていた。
「おーい、サチ、スエヒロ!そこに石を集めて囲いをつくっとけよ。川底少し掘るんだぞ!」
「わかった、どの位の大きさこの位でいいの?」
サチは顔の前に両手を広げ直径30cm位の円をつくった。素早く小石を集め円形に石を並べて行ったスエヒロは並べれた石で囲まれた真ん中を掘っていた。
真ん中の小石や砂利を掻き出しては円形並べられた小石の上に敷いた、食器ボール位の小さい生け簀が川岸に出来た。
オウジとハカセはゼンサク達のいる川岸より少し奥まった所にいた。
立木の間に直径2~3mの岩が2~3個あちら、こちらに転がっていて周辺の草花、小木は押しつぶされていた。
「オウチャン、これは日暮れ山から転がってきた岩だな~この辺の草がみんな押しつぶされているよ」
「あんときは凄かったからな、でももっと岩がくづれたはずだあまり無いな~ハカセ、あそこにあるのも落ちた岩だろ!」
オウジの指さす先では、川岸より少し流れに入った所でやはり2~3mの小岩が流れをさいぎりちいさな波しぶきを上げていた。
「けっこう、川の中まで転げたかも知れないね」
「川の中に入ったらわからないよ」
ハカセはあの時の日暮れ山の大地震を思い出していた。
目の前を5~6m程もある大岩がゴロン、ゴロンと転がっていった映画のようなワンシーンである。
「あっ!そうだ、オウチャンあれ、地震どきさでっけい大岩が転がっていったよね、ゴロン、ゴロンと」
両手を大きくまわしながら
「あの大岩はさあ!日暮れ山の道路に落ちたんだよね道路塞いたんだろう・・・どうしたんだろ!村でブルドォザーでも使ってこの河原に落としたんかなー」
「それにしちゃ無いねー、」
「川の中まで転り込んだか!」
「違うな!あれだけの大岩だよ、考えてみなよハカセ、」
「いいか、家の庭の真ん中にさ~あの大岩置いてさ~そして後ろにはでっけい
「もう!けっこういい庭になるよ」
「あれだけの大岩、そうざらに無いよ」
「きっと!どっかの親父がすぐに来てトラックに載せて持って行ったよ」
「今頃は・・・」、「どっかの家の庭に、もうデ~ンとあるよ」
ハカセは、オウジにはいつも感心する。
なんでこんな大人みたいな考えが浮かぶのか。
ハカセなんかはこんな考えは浮かばないし、またそのような大人びた見方は全然できないと思った。やっぱりハカセはオウジにはかなわないと思う中学では番長である番長とは悪ガキ不良なのである。
大体悪ガキは頭が悪いものなのだ、だけどオウちゃんは頭も良いのである。不思議である。ハカセより良い、あまり勉強をしてる気配もない、授業中も窓から首を出したりあまり良い態度でもない。当然先生は注意しない、静かにしていてくれればそれで良い?どの先生もオウちゃんには積極的にかかわりたくないのだ。
中学校は六つの村が集まったから「六合中」と呼び3年生で約200人位いる。毎年4月、10月で定期試験があり成績上位50人が張り出される。オウちゃんは常にその中で15~20番内であるハカセは30番位だ。
ハカセはこの六合中に中学2年生で転向してきた。家の家業「砂利収集業」のせいで1~2年位の間隔で転校を繰り返していたので、どこの学校でも悪ガキ、不良達とかはいたのであるがみんな腕ぷしは強いが頭はからきしダメであった。喧嘩も強いし頭もよいのははじめてであった。
ハカセは体も小さくきゃしゃであった。度数の強い眼鏡をかけ女の子のようなやさしい顔付である当然転校したどの学校でもいじめられた。
弁当箱や靴を隠されたりプロレス技をかけられたりこずかれたりした。一度はお気に入りの赤黒のシンが出る珍しいシャープペンを取られ、返してくれとしつこく追いかけたら頭を数回こずかれた上に崖下の溝に投げ捨てられた。(当然シャープペンは壊れ使えなくなった)
学校に行くのが嫌になり一人で山学校をした時が何度もある。
母ちゃんが心配するから朝普通に家を出て、学校の終わる時間まで山や小川で過ごすのだ、蟻の巣穴を掘り返したり、時には沢に降りて沢蟹を探したり、小川を堰き止め小魚を追い込んだり一人遊びをして無心に時間をつぶすのだ・・・そして「母ちゃん只今・・・」と何事も無かった様に帰るのだ。
この六合中でもそうなるだろうと予想はしていた。卒業まで2年間位なので、何かやられたらいつもの愛想笑いをし弱弱しく振舞い常に目立たないように、そのように振舞っていれば、どうせこいつらは「能タリンのバカばかしだから」と思い我慢してやり過ごそうと思っていた。
「学校生活なんて何の楽しみもない、ガラの悪い狼どものいる檻の中に入れられたようなものだ。そこでオドオドして逃げ惑っているうさぎ見たいではないか、僕は」
「友達も先生もみんな見えない、聞こえない、何もない、そんなふりして逃げ惑う僕をただただ見ているのだ。そして嵐がすんだら何事もなかったかのように寄ってきて僕に微笑むだけだ」
そう思っているハカセなのである。
だがオウジ達は、違った。
ある時、オウジ一向の自転車隊のシンガリを務めるハカセが女の子の様な弱弱しい風貌からかまさかオウジ達の仲間であるとは見知らづに、つっぱり学友が虐めにかかった。
昼時
ヨツオとテルのおバカコンビがニャニヤしながら弁当箱を取りだしたハカセを取り囲んだ。(イヤナ予感がするハカセ)そしたらイへへ、イへへと笑いながらハカセを後ろから押さつけ始めた。そこへおバカコンビの
クラスのみんなは何しでかすんだと注目している。調子にのってしまったアキラはハカセの弁当箱にバッタの死骸をねじ込んだのである。
腹を上にして弁当箱にねじ込まれたバッタの死骸は、白米からギザギザの両足とブッテとした腹部を出していた。
アキラは両手を頭上に掲げチョキチョキしながら笑い転げていた。
「うまいぞハカセ!ほら食べろよ。食べろって・・・」
3人でハカセの机を囲み笑い合うのであった。
ハカセは涙ぐみ弁当箱を抱え込んだ。
「やたらめそめそするな!めそめそするから余計やられるんだ。睨みつけろ!そしてけっして目をそらすな!睨みつづけろ!やった奴は気味悪くなる、そしたら次はなくなる」
そう言ったのは目を吊り上げた、怒ったオウジだった。
「お前ら!ハカセが俺たちの仲間と知っててやったのか」
虐めにかかったツッパリ野郎達はその一言で青ざめたが、飛んできたオウジの右ストレート一発でアキラと呼ばれた調子者の学友は仰向けに倒れ込んだ。
翌日よりハカセにちょかいをだす学友は一切いなくなった。
オウジ達には、デンスケの他にも、トシやん、タハチちゃん、ムロイの3人の仲間がいた。
皆それ相当の悪ガキで誰もが一目置く不良どもでいわゆる番長グループの構成員でもあった。
ハカセが六合中に初登校する前日、ハカセはハカセの母に連れられデンスケの母に挨拶に行った。
「明日から登校するのでお願いします」
母どうしは既に挨拶済らしく、口を手でおさえ「おホホ、おホホ」のひとしきりの挨拶が済むと
「ほら、デンスケ井上君来ているよ、何時に出るの!ほれデンスケ」
「7時半!」
のそっと奥から顔だけ出しハカセをチラッと蔑視してまた奥へ行ってしまった。
「もう、ほんとに愛想悪くてごめんね井上君、7時半位に来ると皆んなで自転車で行ってる見たいだから」
六号中には、ここから村の上の方まで行きそこに広がる中川を渡し船で渡り行く。ハカセは7時前にデンスケの家に行き待っているとデンスケの母さんに急かされ急かされデンスケが出てきた。背丈はハカセ位165位かな、小さいドラム缶のようにパン、パンの体、目がクリッとし睫毛が濃い整った顔立ちをしていた。
「お早う、デンスケさん」
「オウ!行くよ!行く」
と言ったきり、ハカセに目もくれずにデンスケはもう自転車をこぎ出していた。
慌てて後を追うと、家の手前の丁字路を中学には上の方に向かうのに下の方に向かっていた。そしてけっこうの坂をブレーキを踏むことなく下りお墓の下の家の前で急に左に曲がりその家の庭めがけていきなり急ブレーキを踏んだ。
ギギー、そのまま家の庭先に滑り込んだ。ハカセはついてゆくのがやっとだったがそれでもギギーと庭に滑り込んだ。
庭には自転車に跨ったままの3人がいた。みんな大きい170以上はあるようだ、皆背を丸め何やら話し込んでいる、ヤバイ人達ハカセは咄嗟に思った。
学生帽のつばさは皆反り上がり、学生ズボンはみなビザ下が広がっていた、不良独特の流行りのラッパズボンである。
みんなが胡散くさそうな目でジロっとハカセを見た。
「今度転校してきた井上だ!」デンスケがいきなり呼びすてで紹介した。
「あの・・・あの僕、丸山中学より・・・」
「なんだ!ガリ勉のヒロミのやつみていだな!ヤアー」
ハカセの言葉をさいぎりギョロっとした目を向ける。ドスの効いた威圧するような大きな声だ!
顔はガングロで目はギョロとし大きい。睫毛は端の方は擦れたように薄れてない!真っ白い歯がキラリと光った。典型的な運動神経抜群だろうのガキ大将の風体であるトシやんであった。
中学の地区大会では100m走、走り高跳び、幅跳び地区1位、そして野球部の3番打者で守りはサードである。
まるっきりハカセの正反対をいっている最もハカセが苦手なタイプであった。
「オマエ、目悪いのか
「あ!あの、あの眼鏡とると0、3位なので」
ハカセは今までこんなヤバそうな学友と面と向かって話したことが無い。
こんなヤバそうな学友はハカセなんか虫けらみたいで相手にもしなかった。
これはヤバい、ヤバいと思いハカセはどもりながらも丁寧に答えた。
「0.3、0.3ってあの一番上の文字から三つ目しか見えねえのか、」
「あ、あ、あの眼鏡とると見えづらくて、見えづらくて」
ハカセは冷や汗をかきながらも丁寧に丁寧に応対しようと焦った。
この時から井上はハカセになってしまつた。このグループのみならず六号中の全員からだ、そして学校の先生、またグループの母や兄弟までもが全てがハカセと呼んだ。(井上名)はこの時点より後は消滅してしまったのである。
後で知った事だがトシやんはあだ名付けの名手でもあった。
ある顎の出た女の先生はかわいそうに「ツタンカーメン」《エジプトで有名》と名付けられた・・・今でもハカセはあの女の先生の名前を思い出せない、思い出すのはツタンカーメン先生なのだ。
「どこから転校してきたの?」
やはり目がギョロと大きい顎がかくばった少しインテリみたいな雰囲気のムロイであった。当初はムロイさんとハカセは呼んでいたがみんながムロイ、ムロイと呼ぶのでいつしかムロイと呼ぶようになったが、ムロイは凄い頭が良かった。
上位50人が張り出される中で常に10位以内である。またサッカー部の部長も学生会の書記もやっていた。ハカセは番長連合みたいな不良グループ内にいて、頭がよく学生会の役員もやるなんて信じられなかったのである。
ムロイはいつも学帽を深くかぶりギョロとした瞳だけを出し、学生服の下にはピンクのガラ付きのシャツを着ていた。ハカセはひそかにインテリ番長と呼んでいた。ムロイは何事をやっても最終的には勝っていた一番になっているのである。
将棋、トランプ、花札の賭けごとゲーム、卓球、バトミントン、棒高跳びのスポーツ、ムロイは全てにおいて負けるのが嫌いであるだから徹底してやるのである、練習し極めるのである。
「なにごとにも勝て・・・」このころのムロイの作文の題名である。
ハカセは後にこの題名がとても好きになるのであった。
もう一人口数の少ない、温和な顔立ちのタハチちゃんがいた。あまりトシやんとは馬が合わないようだが、タハチちゃんは体が大きい大人のようである。体はドラム缶のようにパンと張り制服のボタンがはち切れんようだし、顔も丸型で大きい、手もでっかい、なにせ凄い力持ちである。温和な顔つきだが怒り出すと手がつけられないらしい、喧嘩は片手で相手の胸倉をつかみ持ち上げ振り回してしまう。相手はバタ、バタと足を動かしすぐさま降参するらしい。
ある時一学年先輩のつっぱり野郎がタハチちゃんの胸倉をつかみ引き寄せ偉そうに脅した。あっという間もなかった。先輩は思い切り持ち上げられコンクリートの階段に一回転して仰向けに叩きつけられた・・・ そしてタハチちゃんはニコニコ微笑みながら、おもむろに傍らに落ちている小石を手にするやそれで先輩の頭を数回こづいたのだったゴツ、ゴツと・・・慌てたムロイが体当たりしてすばやく止めた。先輩は頭から血を流し、大粒の涙をぼろぼろこぼし恐怖で立ち上がることさえ出来なかった。
『さて、この3人の強者(つわもの)であるが、のちにオウジ達が引き込まれた異次元に強力な軍団を率いて姿を現すのである。助けにくるのであるオウジ達の仲間としてやはり神に選ばれた(運命の童子達)であった』
トシやんは台地から台地を渡り歩く傭兵軍団(放浪の狼軍団)の統率者として。
タハチは北海の沿岸諸国より最も恐れられる海賊船団の王として。
ムロイは文明の栄えた国の悩める若き施政官として、数千の空飛ぶ鉄騎軍を率い て。
オウジ達の目の前に姿を現すことになるのである。
この時点では、誰もそんなことになるなんて知るはずもないのであるが。
そんなオウジ達一向は先ず墓下のオウちゃんの家に一旦集まり、自転車で村の上の渡し場まで行き、そこで自転車をおいて学校に行っていた。帰りも部活等で別々にならない限りみな一緒に帰ってきていたのである。
オウちゃんが玄関より出てくると、みんな一斉に自転車にまたがり、ワイワイ、ガヤガヤとジグザグ走行しながら渡し場を目指した。
中学校への道筋ではオウジ一向の自転車隊が来ると、
「オウちゃんトシやんお早う、ムロイ(カズちゃん)お早う等々・・・」
と学生達は笑顔を振りまき道を譲った。
ハカセはこの自転車隊のシンガリを務めた。よくタハチちゃんとは話をした先頭はいつも元気のよいトシやんであった。
ハカセはこの中学校に来て虐められることは一切なくなった。同級生達の間を堂々と歩き、大きな声でしゃべり、話かけ、笑い、冗談も言った。
今までの「井上」からでは信じられないことだった。ハカセはビク、ビクしないで学校生活を送ることがこんなにも楽しいこととは知らなかった。ハカセの母はハカセが明るくなったことにびっくりした。
ハカセが家に寄り付かなくなったことや勉強もしなくなったことにも驚いたし心配もした。
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