神の国最後の住人イスレアの怒り

 さて、ここでは話がかわるが、ここは惑星のマーズである。地球から見れば夜空に輝く遥かなる星空である。その星空の奥の奥でひときわ青白く輝く星雲を見つける事が出来るだろう。地球からでは数百光年も離れた遠い遠い恒星である。その中のひとつの小さな惑星である。その惑星のアジア台地の南の端に突き出た半島である。ここでは南の島(神の国)と呼ばれている。


 その南の島の大部分を占めて中央には大きな湖が広がっている。その湖の中央には小さく浮き出た小島があり、その小島の湖畔のはしけには季節の草花が咲き乱れ、湖の小さなさざ波は絶えることなく押し寄せて楽し気に軽やかな楽譜を奏でている。

 のどかで、大変美しい風景の小島である。

 ここには、せっかちで頑固者で怒りっぽいけれど大変気持ちのやさしいエスレアとその従者である律儀だけどのんき者のモルぺスがたった二人きりで住んでいた。

 ここ神の国の最後の住人達である。

 モルぺスは今日もまた・・・ここで鼻提灯を膨らませて手足を大の字に投げ出し居眠りの真最中なのである。

 日なが、ウト、ウト、この湖畔での居眠りはモルぺスの最上の至福であった。そんなある日モルぺスはしばらくぶりに夢を見たのであった。


 モルぺスも夢を見るのである。しかしほとんど見ない年に数度だそれも全て食べ物の夢しか見ない、内容がない夢なので目覚めるとすぐ忘れてしまうのだ。

 今朝の夢には珍しくイスレア様が出てきた。それに内容があったのだモルぺスは目覚めてからもはっきりとその内容を覚えていた。

 それは、イスレア様が居るはずのないモルぺスの小さい、小さい赤ちゃんを枯れ木のような細い腕にしっかりと抱いてあやしている夢である。

                                      みすぼらしい真っ白なあご髭を赤ちゃんに近づけ頬づりをしている。

赤ちゃんは嫌がりバアー、バアーと両手をさしだしイスレア様の顔を必死でどかそうとしているのだ。

それをモルぺスが嬉しそうに眺めている、そんな夢である。

 そしてイスレア様がおかしなことを言い始める。

(夢の中のことだからおかしくても仕方がないのだが)

「モルぺスよ、お前は結婚してかわいい子を授かることが出来るのだよ、儂達は子を持つことが出来ないがお前には出来るのだよ」


「儂は本当 にお前の子を抱きたかったよ。お前に似てクリ、クリの瞳赤ちゃんは瞳がキラ、キラ輝いているんだよ、儂が毎日抱っこして歩くからお前より儂の方になつきお前はヤキモチをやく、どうだい!」


 得意げに威張っている。モルぺスが何か言おうとするがエスレア様の腕に赤ちゃんは既にいないのであった。

 そして夢はさらに続いている。今度はイスレア様が小さい三角目を吊り上げ真っ赤な顔をして怒っているのである。

 モルぺスに向かい拳を振り上げ、さかんにわめいているがモルぺスに対して怒っているわけではないらしい。どうやら自分達人類に対して怒っているらしい。


「人類は本当に愚かな生命体だ。最悪の生命体だ!なあモルぺス、暴力、殺掠、破壊、幾世代にも渡り何度も何度も繰り返したよ。とうとうあの 碧(あお)き美しい惑星までも愚かな人類達は破壊してしまった。今は細々としか光の届かない薄暗闇の岩山だらけの惑星になってしまったよ・・・」

「とうとう神は怒り人類に最後の審判を下されたよ」


「お前達はこの宇宙から消滅しなさいと」


「お前達はこの宇宙に存在してはいけないと最後の審判を下されたよ」


「わかるかいモルぺス、この神の怒りが・・・」


 モルぺスは取り合えず頷いているのである。このような時は何を言ってもダメである聞いているしかない。    

 永い永いイスレア様とのお付き合いである、モルぺスは夢の中であってもちゃんとイスレア様への対処法を心得ているのであった。

「人類はもはや子孫を残すことは出来なくなったよ。神の怒りに触れた。もはや赤ちゃんを抱くことは出来ないのだよ、ただ消滅するのを待つだけになったのだよ」


「そして子供の声が消滅していく世界になってしまったのだよ・・・」

「おろかな人類の取返しのつかない、とてつもないおろかな悪の行為の報いだよ」


「自分達の惑星を住むことの出来ない惑星に変えてしまったのだよ」

イスレア様は話しながら泣いていた。

「人類は消滅するまでのほんの少しの間をこの惑星の隅っこに置いてもらうしかないのだよ。静かに静かに暮らさせてもらうのだ、それが神に許された我々 人類の最後のことなのだ。それがこの惑星に対する礼儀とも・・・いうものだよ、そうだろうモルぺス」


「しかしあの馬鹿ものどもはそれがまだわからないのだよ!」

 一杯のコーピータイムの後、イスレア様がいつもいつも最後に怒鳴りだす悶々だ、とうとうモルぺスの夢の中まで入り込み怒鳴りだしてしまった。

 イスレア様はさらに続ける真っ赤な顔に唾を飛ばしながら、

「それなのにまた暴力、殺掠、破壊を行っているのだ。この惑星もまたいずれ破壊する気だ破壊への道を歩みだした。最悪の人類の悪の意思が残ってしまったよ」


「残ってしまった最悪の、人類の悪の意思だけは絶対に我々の手で消滅させなければいけないのだよ。この惑星の民のためにだよ・・・人類の最後の責務だよ、わかるかいモルぺス」

 イスレア様はボロ、ボロと大粒の涙をこぼしながら怒っているである。

イスレア様の心の奥底に眠るマグマの様なやりきれない怒りの心情なのであろうか。


 イスレア様は怒りに身を震わせたかと思うと急に宙の果てを彷徨うかのごとく放心なされたり、突然幼子のように無邪気に笑い出したりした。また同じ事を何度も何度もる尋ねられたり繰り返すことも多くなってきていた。

 イスレア様のおそばにいることが本当に多くなって来ているモルぺスであった。

 








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