同夢(死の槍)

 さてここは、碧き美しい惑星地球。

その地球の一部の小さな小さな、米粒よりも小さな霧の一点の粒よりも小さな、とある場所である。・・・5人の子供達が寄り集まって騒いでいる、オウジとデンスケとハカセとサチとスエヒロである。


 大きな声ではしゃぎまわっているこの子達・・・ずっとずっと彼方の夜空に輝く星よりもずっとずっと、ああ~気が遠くなるような、本当に本当に彼方の星屑の星雲の彼方より・・・碧い光の一点が物凄い速さで、瞬きするまに地球を10000回転もする位の速さで地球に近づいている。


 大きな声で無邪気にはしゃぎまわっているこの子達の運命を変えようと碧い光の一点が近づいているのです。


 ある日、何台ものダンプカーが止められているハカセんの砂利収集現場に遊びに行ったオウジ、デンスケとサチにスエヒロ。


 タモツ(ハカセ)の友達が遊びにくるというので喜んだハカセの母ちゃん・・・何せ、ハカセが友達を連れて来るなんて、女の子もしかも小さい子までいるなんてめずらしい事なんでえらいハッスルしてしまった訳である。


 わざわざ町まで出かけ、沢山のお菓子やジュースそれとスイカまで買え揃えてしまった。何せハカセの母ちゃんはお嬢様育ちの社長夫人である。一般的な適度と言うことをわきまえていないのだ、山の様なお菓子袋に色とりどりのジュース缶をごっそり買い込んで来てしまった。


 さすがに呆れてしまったハカセが


「母ちゃん、もういいから・・・もういいからちょっと遊びに来ただけだから」


その場に居座り続けたい母ちゃんを何とか家奥に追いやったのである。

 


 それから山のようなお菓子とジュースとスイカを目いっぱい腹に詰め込んだオウジ達・・・いつしか瞳がまどろぐ。


 そのまどろぐ瞳の中で数本の矢がシューとオウジ達の脇を掠めていった。

オウジが傍らのサチのおかっぱ頭を素早く瓦礫の奥へ引きづり込む。

 そして気づけば、いつしか前方には山の様な城塞が聳え立ちその前の広い中庭には70~80体のけものの頭のおぞましい姿の獣人達が待ち構えていた。

 腕や首筋には血しぶきが飛び、剣には血のりがへばり付いている。それがが遠目にも見て取れるのだ。

 城壁の奥には丸や四角の塔がいくつかあり、その塔の半円形の窓よりはオレンジ色のランタンの灯りが宵の迫る中庭の崩れ落ちた石壁の山を照らしている。


 隣にはデンスケとハカセがいた。

デンスケとハカセが前方の庭に向かって瓦礫の山をよじ登るや飛び超えた。

前方の城塞の胸壁に並んだ獣人の弓兵がデンスケとハカセにめがけ一斉に矢を放った。黒い矢が帯となりデンスケ、ハカセに向かう。


 ハカセが両の手を胸先に掲げる・・・その手の平よりは緑の靄が沸き立ち身体を覆った。放たれた矢は緑の霞に突っ込むやフラ、フラと頭上に舞い上がりヘナ、ヘナと地上に落下してしまった。

 

 デンスケが右手平の上に左手を重ねる。まるでちょと大きめのおにぎりを握っているような恰好だ。右手と左手の間に鉛色の大きな球体が浮かびあげる。

 デンスケは半腰に立ち上がるやその鉛色の球体を前方の胸壁の弓兵の獣人達に向かって投げつけた。同時に獣人達もデンスケに向かい再度矢を放とうと身構えた、

 だが獣人達は2度目の矢をつがえる事が出来なかった。デンスケの投げつけた鉛色の球体が城塞の胸壁にぶち当たるや爆裂したのだ。壁は粉々に飛び散った。そして数体の獣人も肉片を辺り一面に撒き散らし粉々に飛び散った。


 「今だ、続け!」


 オウジが叫び、黄金の筒カンを振り上げ前庭に向かって瓦礫の山を飛び越えた。

オウジに続くように、甲冑に身を固めた数十名の人族の兵士達がいきなり現れ長槍、平刀をふりかざし瓦礫の山を飛び越えトキの声をあげるやオウジに続いた。


そんな中、

 サチが瓦礫の山の隙間に真っ赤なコウモリ傘を閉じたまま差し込む、そして前方の獣人に狙いをつけ念を込める。真っ赤なコウモリ傘はまるで機関銃の銃身のようにガタ、ガタと振れた。コウモリ傘の先端よりは赤色に輝く熱線が稲妻のように振れながら直進し、その進路の全ての障害物を溶かし消滅させた。

 獣人の差し出す槍、盾、甲冑の鎧全てを溶かし獣人の腹部のど真ん中にまでどでかい空洞を開けたのである。


 サチの隣横に陣取ったスエヒロは、右手に握ったパチンコを斜めに構え左手で器用に腰のベルトより深緑色の球体を抜き取り、パチンコにつがえるやパツ、パツと

放つ、こちらは遠方の四角い塔の半円形の窓辺りを狙っているようだ。

 放たれた球体(弾)は相当の距離を一直線に飛び、オレンジ色のランタンの灯りがひときわ輝くと爆裂した。色とりどりのガラスの欠片がはじけ飛び、数体の獣人が地に落下した。


 オウジは既に幾人かの人族の兵士達と中庭の獣人達の渦中にいた。

目の前に飛び出してきた獣人達めがけ黄金の筒カンを振り下ろした。獣人の握る槍、平刀の頭がまるで稲の穂先を切り取るように一気にスパッと落ちる。

 間髪を入れずに左右、後方の獣人にも筒カンをふるい切り捨てた。

黄金の筒カンは黄金色にギラ、ギラ輝き、触れる物全てを消滅させたのである。

 (反物質光線)に覆われているのだ、オウジの手以外、触れる物全てが物質からミクロの原子に変化してしまう消滅してしまうのだ。

 周囲の獣人を切り捨てたオウジは、城塞の胸壁の前に立ちはだかるや黄金の筒カンを何度となく壁に打ち付ける。黄金の筒カンの内部はウィン、ウィンと音響と共鳴音を発しいまにも破裂しそうに揺れた。

 オウジはその筒カンの先端を壁に向けるや、数メートル後づ去りし両足を踏ん張り気を放った。

 黄金の筒カンよりはバキ、バキバキと眩ゆい黄金色が発し一直線に壁にぶち当たった。壁は一切の振動もまた飛び散る炎も焼け焦げた臭いも煙もなかった、ただ黄金色に触れた部分が円形に大きく消滅した。空洞の大きな大きな穴が開いた。

 暫くすると雷鳴のような音と共に城塞の壁は崩れ落ちた、4~5メートルの瓦礫の山が出来、今度は黒い土煙がもうもうと沸き上がりオウジに押し寄せてきた。


 その黒い土煙の中、オウジは背中に焼けるような痺れを感じた。

土煙の中に潜んでいた獣人がオウジの背中に長槍を突き立てたのだ。

 すぐに身体が焼けるような熱さに襲われ筋肉がハガネのように硬直した。倒れる!その瞬間、オウジの気は飛んだ。


 「アンちゃんが死ぬもんか・・・」


 「絶対いに嫌だ!」


サチとスエヒロは何度も何度もつぶやいた。

 アンちゃんが死ぬはずがない。死ぬもんか、死ぬもんか、絶対に死なない・・・

サチとスエヒロと同じように、デンスケとハカセも死ぬもんか、死ぬもんかと頭の中で繰り返していた。

 それを繰り返せばオウジが立ち上がるのではないかと思うがごとくだ。だがこれは希望や期待からの叫びではなかった、もうただただ祈りだったのである。


 「アンちゃん、アンちゃん、」


 「オウちゃん・・・」


 「どこをやられた?・・・」


サチ、スエヒロの声がした、デンスケ、ハカセの声がした。

そして最後に訳の分からない甲高い声がした。デブ猫の声である。

 驚いて目をあけるとサチがスエヒロがデンスケがハカセが見下ろしていた。

デンスケの肩口にはやけにデブの猫が乗っていた。


そんな場面でオウジは目覚めた。

 目ざめたオウジの身体には一切の血のりも傷もなにも無い。寝転んで居るところは戦場でもなかった。

 これは幻覚だったのか、それとも夢か、いやに生々しい夢だった。


 そんな同じ夢を(戦場の夢)をデンスケもハカセも、サチもスエヒロも見ていた。

 獣人との戦闘だ。みんなが各々の武器を使い獣人達を倒すのだ。そしてその戦闘の中もうもう立ち昇る土煙の中でオウジが背に槍を受け倒れ込んだのだ。デンスケもハカセもサチもスエヒロも一瞬、時が止まった。

 長槍、平刀、盾のこすれ合う金属音も怒号と悲鳴と崩れ落ちる瓦礫の音も、燃え盛る炎と立ち昇る黒煙の豪風も聞こえない、全てが一瞬止まった。

 恐怖も身の危険もなにもかも一瞬吹っ飛んだ。目前に迫りくる矢も宙に浮き止まったかのようだ。

 デンスケ達は一斉に瓦礫の山を飛び越え転げるように土煙漂うオウジの元に駆け寄った。


 オウジから遅れること、ほんの数秒である。デンスケもハカセもサチもスエヒロもこの夢から目覚めた。

 目覚めた先は砂利収集現場の河原に置かれた4トントラック(ダンプカー)の荷台の上だった。

 ダンプカーの荷台には散乱した沢山の菓子袋、オレンジジュースの細い缶、珍しい三ツ矢サイダーの缶まであった。スエヒロを真ん中にオウジ達はこのお菓子の箱のようなダンプカーの荷台で目覚めたのであった。


 仰向けに寝転ぶみんなの上空には真っ白い雲がモクモクと沸きあがり流れながら至る所でぶつかり合っている。その度に白い糸状の小雲が立ち昇り霞んでは消える、まるで炎が立ち昇り黒煙を撒き散らす天上界の戦場のごとくだ。


いやに生々しい夢だった。

 オウジ達は今の今まで、真っ白き雲がモクモク沸き上がる、炎と黒煙の天上界の戦場に居たかのような錯覚に陥っていた。トカゲや狼の頭を持つ獣人から振り下ろされる平刀、撒き散らす生臭い吐息と咆哮、生臭い血臭までもがいやに生々しくオウジ達の脳裏に焼き付いていた。

 恐ろしい夢だった。

だが、デンスケもハカセもサチもあの幼いスエヒロまでもがそれを口に出すことはなかった。

 「今おっかない夢を見た、嫌な夢を見た。000が死ぬ夢だった」

みんなが同じ夢を見ていたなんて誰も知らないから・・・今000が死ぬ夢を見ていたなんて誰も言えなかった。

 そしてオウジも額に大粒の冷や汗をかき、はあ~、はあ~、ゼエ、ゼエ~と喘ぎ苦しんでいたが「今嫌な夢を見ていた」とは言わなかったのである。


「何で、みんな一緒にこんな生々しい嫌な夢を見るんだ?」


誰か一人でもこの夢のことを口にだしていたら・・・今後のことが少し変っていたのかも知れない、でも誰も口に出さなかったのである。


 このお菓子の箱のようなダンプカーの荷台で見た夢(同夢)が、異次元に飛ばされるオウジ達への最初の予兆であった。

 オウジ達の運命は少しづつ少しづつ嫌な方向に傾き始めるのでした。 

 



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