惑星マーズの戦い

@yasuo310

(第1部)伝説、プロローグ

 伝説

 数千年の時空を超え

 東国の峰々に北斗の光みつるとき

 黄金の杖に導かれし童子あらわる

 大地をおおう暗黒の闇を切り裂き

 万物の頭上に光輝かせん

 大地に笑みの心きざまんために


        伝説、どこから、いつから始まったものかも、

        正確な意味についても、誰もしらない。

        しかし、伝説はこの台地では幾世代にも渡り

        代々語り継がれてきた。 


              プロローグ

 大きな湖だ、さざ波が白く泡立って次から次へと湖岸に押し寄せている。そのほとりは草が畳を敷いたように青く青くどこまでも茂っている。

 時より吹き抜ける風に、ザザァ~ザザァ~と草頭が彼方までなびいては消えてゆく。

 そして彼方に目をやれば暗い森が高い山々の麓を果てしなくどこまでも覆っていた。

 ピュ~と一陣の生臭い風が吹き抜けるや、湖上の水鳥が一斉にバサ、バサバサと逃げ去るように飛び立った。

 

 彼方の暗い森では黒い霧が森の奥からにじみ出るように漂いはじめるや、湖岸へ続く道筋一帯を覆い流れだした。その黒い霧はさざ波が白く泡立って押し寄せているあの大きな湖の湖岸へと一直線に向かっていたのである。


 黒い霧の中では何者かが・・・得たいの知れない何者かが・・・おぞましい何者かが・・・モゾモゾとモゾモゾと何体も何体もうごめいていた。



 あの大きな湖の湖岸はとうとう流れる黒い霧に覆われだした。そして得たいの知れない蠢く何者かも迫って来ていた。薄暗くなったその湖岸では一人の少年が両手を胸の高さに掲げ両足を踏ん張り手の平を天に向け仁王立ちになっている。小柄だがガッシリとした少年だ。

 

 クリッとした両の目を吊り上げ、唇を真一文字に結び一心に念を込めている。

両の手の平よりは鉛色の靄がモヤモヤと立ち昇り始め、それはユラユラと揺れ次第に鉛色の2個の球体に変貌を遂げたのである。

 その2個の球体はソフトボール大の大きさになるや少年の両の手の平の上で上に下に小刻みに振ている。

 

 湖岸を覆っていた黒い霧がうっすらと晴れていった。あの得たいの知れない蠢く何者かがとうとうその姿をあらわした。

 少年の鼻先には生臭さにドブの臭いが混じったような獣臭とトカゲ臭が先ず襲ってきた、少年は思わず鼻先を捻じ曲げるようにおさえるや身をせり出しうっすらと晴れいく前方の霧の合間を見据える。


 霧の合間にはグロテスクな異様な風貌が次々と浮かびあがってきていた。  

そいつらは人体の上にオオトカゲの頭が載っていた。かたや人体の上に狼の頭が載っていた。なんともおぞましい風体だった。あの黒い霧の中でモゾモゾと蠢いていたバケモノだろう。(これからはこいつらを獣人と呼ぶことにする)

 それらがみな甲冑の鎧に身を固め平たい両刃の剣を振りかざし、真っ赤な瞳をランランと輝かせ、舌を垂らし、生臭いあらい吐息を吐いている。

 そして仁王立ちの少年を囲むかのようにして何体も何体も現れるやジリ、ジリと少年との間合いを詰め始めたのである。

 今にも少年に飛びかからん勢いだ。

 

 少年は気合を入れる、恐怖心を吹き飛ばすためだ。

 (俺は強い、俺はバケモノなのだ、俺の鉛玉はなんでもぶっ壊す、俺は一番強い!俺はバケモノよりも強いバケモノなのだ)

 

 ザァザァ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ一気に間合いを詰めた獣人達。

 ウオ-・・・キェ~・・・ウッ、ガァ~

鋭い咆哮一閃!

 平刀を振り上げた獣人達は宙に舞い、少年の眉間めがけ一斉にその剣を打ち下ろす。

 一瞬身をかがめた少年の両手が、前後左右に八の字を描き大きく踊った。その両手の踊りに・・・自由自在に操られるヨーヨーのように鉛色の2個の球体が激しく宙を舞う。

 ガツ、ガツ、ガッン・・・ガシン

獣人達の平刀は一瞬の内に右に左に上に下に激しく、跳ね返された。

 ゴッ~ン、ゴキ、ガキ~ン・・・バキ

 獣人達は第二打の体制を取る間もなかった。

平刀を跳ね返した鉛色の2個の球体は一瞬の内に蛇の鎌首のように獣人達の懐に潜り込むや、獣人の顎、肩、頭を打ち砕いた。

 バタ、バタ、バタとその場に倒れ込む獣人達。

 

 もう一人の女の子のように優しい顔つきの少年が、

両の手の平を腰先に突き出し身構える。濃緑色のかすみが両の手を包む。回転させるや頭上に突き上げた・・・濃緑色の靄が獣人達に迫った。

 平刀を振りかざし地を蹴った獣人達は・・・濃緑色の靄に包まれるや、ふわふわと少年の頭上10~15mにも舞い上がった。

 一瞬の内に獣人達の重力が奪われたのだ。そして一瞬の内にまた重力がかけられた。(反重力波を巧みに操ったのである)

 バキ、バキ、ベキ・・・ドシン

頭上10~15mよりすざまじい勢いで地面に叩きつけられた獣人達、首を折った、背骨を折った、起き上がることはなかった。

 二人の少年の廻りには7~8体の獣人が倒れ込んだ。ピク、ピクと身体を硬直させるや動かなくなった。

 

 第二次攻撃の獣人達の半円が二人の少年に向かいゆっくり、ゆっくりと迫る。今度は多い、10数体以上の獣人だ、みな生臭い吐息を吐き腰の平刀に手をかけた。

 

「ヤバイ・・・多すぎる」、(逃げるか、走るか)ガッシリとした(デンスケ)が女の子のような(ハカセ)を見やう。

 

「デンちゃん、逃げよう多すぎるよ」、(走るよ、走る)ハカセの瞳が怯えて答える。

  

 その時だ、第二次攻撃の獣人達の半円をかき分けるようにして細身の獣人が姿を現した。一瞬周囲の空気が固まる。周りの獣人達は直立不動にてその場から引きさがった。

 細身の獣人は獣人ではなかった。頭はトカゲでもオオカミでもない、人間だ。

モスグリーンのふっくらとした髪を背まで垂らし一つに束ねている。女性だ。

 青銅の様な碧い艶を持つ透き通るような肌。

 エメラルドグリーンの射すくめるような瞳。

 恐ろしい程の美形である、美人である。

 細身の獣人は、ガッシリとした少年と女の子の様な少年にチラッと目をやるや、ガッシリとした少年に向かい歩みだした。


 ガッシリとした少年は両の手を胸の高さに掲げたままだ、硬直したままだ。

あまりの美しさに少年の脳までもが硬直してしまったのだ。見とれてしまっているのだ。  

 細身の獣人はゆっくりとその腰元から鎖条のムチを引きぬき、前方に放つ。

カシャ、カシャ、ピチ、鎖条のムチは八の字状に地を這うや、円錐条の先端の突起がユル、ユルと蛇の頭のように鎌首をもたがけた。

(おそろしい武器、蛇口ジャコウである)

細身の獣人がガッシリとした少年にニッコリほほ笑むや、その右手がピクリと動いた。

 ユル、ユル揺れていた円錐条の鎌首がいきなり少年めがけピュッと飛んだ。少年の右半分の鼻先、顎がえぐれ飛んだ。

 

 そう思った、その刹那である「ウォ~」物凄い叫び声と共に何者かが少年の身体にぶち当たった。

叫び声の主と少年は勢い余り、地面を4~5回転して地に伏せた。

叫び声の主は素早く立ち上がるや地を蹴り4~5mの高さまで飛び上がり、数個の煙幕弾を細身の獣人に向け放った。

 全ての煙幕弾は細身の獣人の蛇口に一瞬のうちにことごとく弾き返された。

緑色の煙幕が一瞬の内に辺りを覆う全ての者の視界が一瞬閉ざされた。

 

   「逃げろ!逃げろ!」

 

 煙幕弾を放った者がガッシリした少年(デンスケ)を助け起こすや叫ぶや、四つ足で走りだした。

 慌てたデンスケが転がんばかりに続く、女の子の様な少年(ハカセ)も続いた。

四つ足で先頭を走るのは芝犬位もあるデブ猫だ。しかし早い、デンスケ、ハカセの10m先を駆け飛んでいる。

 デンスケもハカセも必死だ。デブ猫の後を心臓がブチ切れんばかりに駆け飛び追いかける。


 数十本の矢がデンスケ、ハカセを追う・・・その矢は二人の耳元をかすめる。

 先頭を走るデブ猫は、笹竹の群生地を駆け抜けるやその前に広がるブナ林に横飛びに飛び込む。


 波打つ笹竹の笹面には放物線を描いた矢が何本も何本も吸い込まれる。

 遅れたデンスケ、ハカセも笹竹を駆け抜けるや頭からブナ林に飛び込んだ。

ハア~、ハア~、ゼイ、ゼイ~喘ぎと心臓の鼓動が止まらない・・・

 どうやら獣人の追跡はないようだ、逃げ切れた。      


・・・ここは、深緑色のバカでかいタンク(戦車)の中・・・

 

「この馬鹿デンスケが、女戦士の前で見とれて立ち尽くしやがって、儂(わし)がブチ当たらなかったら今頃は顔面の半分吹っ飛んでたぞ!」

 

「わかっているのか!まったくの馬鹿デンスケが!」


 デブ猫が後足ですくっと立ち口から泡をはき怒鳴り散らしている。

デンスケは苦虫を嚙み潰したような顔をして下をむいたままだ。その頬にはうっすらと赤い筋が斜めに走っていた。

 

「え!デン、頬の傷その時の傷か、そりゃヤバイぞ危なかったぞ、気抜いたら本当に死ぬぞデン本当に気ぬくな」

 

 オウジだ。オウちゃんと呼ばれる細身で長身の少年だ、面長の顔に芯の強さを秘めた瞳を持っていた。

 

「でもオウちゃん、凄い女戦士だよ、緑色の瞳で見られた時一瞬ゾクとしたよ、デンちゃんでなくても一瞬動けなくなるよ」

 

あの女の子のようなハカセが助け舟をだした。

 

「デンちゃん気をつけてよ、可愛い子と美人にはからきし弱いんだからもう・・」

 

 黒髪を後ろで一つに束ねたサチと呼ばれる利発そうな少女だ。しっかり者らしく素早くデンスケの頬の傷に軟膏を塗るや貼物を張り付けた。

 

「ねえ!ねえ!ミケ何があったの、どうしたの、デンちゃんその傷どうしたの」                                                                   まだ、まだ子供のようだが9歳超えるか、心配そうにデンスケを覗き込む。

 

「スエヒロ、デンスケ見たいにボォ~としていたらダメだからな絶対にハカセや姉ちゃんと一緒にいるんだよ」


デブ猫ミケもスエヒロには優しい口調だ。

                                   

 そして「それから、あれは」で、

 デブ猫ミケの長い長い演説が始まった。

 

「ダーク帝国の人族司令官ダイアナだ!女だてらにダーク帝国軍兵士の内の二万人以上を束ねダーク帝国の4司令官の内の一人だ。それに冷酷非道で蛇口という鎖のムチを操る最強の女獣人だ!それから闇の帝国ダーク帝国はなあ~・・・」

等々だ。


 デブ猫ミケは、とうとう皆の食事テーブルの上に上がりだし胡坐をかいて前足を胸先に組んでえらそうに語りはじめてしまった。

 デブ猫ミケの長い長い演説は終わりそうもなかった。


 ここは惑星マーズのアジア台地であり、これはそこの出来事の一コマである。

遠い遠い恒星「我々の住む太陽系とは別の太陽系」に一つの惑星が存在する、地球とよく似た惑星である。

 この惑星を「マーズ」と呼ぶことにする。

これは、そこで起きた戦いの物語である。惑星マーズの大陸の一部(アジア台地)において繰り広げられた闇の帝国(ダーク帝国)とその野望を打ち砕こうと数千年の時空のかなたをやってきた神に選ばれし輝ける童子達とその仲間達の壮絶な戦いの物語なのである。


 

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