怒
何もない、誰もいない土地を、ただひたすらに歩く。
この広い世界で、私と同じ存在はたったの12人。
会えるかどうかはわからない。だが、会ってみたいという気持ちがどうしても私にはあった。
侵略者を滅ぼせば、いつか会えるだろうか……、殺してる最中に会えるだろうか。
「ネエ、君」
ふと声をかけられた。
形は人と同じだが、皮膚の色が真っ赤だ。こいつも侵略者。
何やら地図を持っている。この都市の地図を見だろうか。
疑問に思いながらも、再び侵略者の方へと顔を向ける。
「僕マダコノ土地ニ慣レテナクテサ……、ヨカッタラ道案内シテクレタラ嬉シイナッテ」
彼は苦笑しながら私に地図を渡す。
お礼に、私からは彼の首へ斬撃をお見舞いしてやった。
侵略者と和解することなど、できるわけがない。
彼らが私と同じなわけないからな。
「地図……か」
侵略者が持っていた地図を広げ、見てみるが、全く内容が把握できない。
文字なんて今まで書いたことも読んだこともないからか、私には理解不能だった。
これではこんな紙切れ、荷物になるだけだ。
私は地図を捨て、剣を収める。
科学者は言っていた。同じ種族の者同士は、必ず導かれるのだと。
必ず……、出会うことができる者なのだと。
「あれが本当なら、必ず他の仲間にも会えるはず」
「そうだね、会えた。だが君の行動には賛成できないな」
ふと、背後からの声に、私は驚く。
すぐに、声の主から距離を取り、警戒態勢へと移行した。
私の背後を取ることなど、余程の隠密性がないとできる技ではない。
落ち着いたところで、彼の方へ顔を向ける。
白銀の短髪に、白い肌……、私と似た雰囲気をした姿をしていることは一瞬でわかった。
「いくら侵略者だからって……殺すことはないだろう」
彼はそう言うと、側にあった死体に近寄る。
そして、見開かれた眼に手をかざし、そっと瞼を下ろした。
「侵略者は敵だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「和解する気はないってことか」
少年は無表情なまま、ジッと私を見てきた。怒っているわけではない。だが、許しているわけでもなきようだった。
「君は、侵略者と友好を築きたいとでも思っているのか」
「うん、少なくとも……殺しあうよりはその方がマシだと思ってる」
「ずいぶんと御立派な考えをしているようだな。侵略者が私たちを排除の対象にしていないとでも?」
腹が立った。
私たちの土地には踏み込んできた奴らと仲良くすることなど、私にそのような考えは理解できない。
彼の考えだと、騙されて殺されるのがオチだ。それなら戦って死んだ方がいい。
「過去に何があったのかは知らないけど、君は侵略者を全員同じだと思ってる……、今近くにいる侵略者はみんな……」
「私は……私の居場所を守るために戦う。私の居場所を奪う輩は誰であろうと許さない」
彼は、私とは意見が合わないことを悟ったのか、ふぅ……と一息つき、再び私と目を合わせた。
「君が居場所を守るなら、僕はここで居場所をつくるよ」
少年は、そう言って私に背を向けた。
自分は違う生き方を歩むと、そう言い聞かされている気分だった。
種族が同じだからといって、考え方まで同じだということはありえない。わかっていたつもりだったが、ここまで意見が相違するとは思っていなかった。
私は無言で彼を見送る。
彼は振り返ることなく、そのまま歩き、去っていく。
私は、ふと空を見上げた。
プロペラが風をきる音が聞こえる。
その音はだんだん近くまで迫ってき、その正体が目でも確認できた。
「おい! 君! 逃げ……」
私が叫んだときには、既に上空からの爆撃は行われていた。間に合わなかったのだ。
私たちの姿を確認した侵略者による爆撃。
途轍もない爆発音が聞こえた後、彼の姿は何処にも見当たらなかった。
あれだけの集中砲撃、改造人間であろうと、耐え切れるはずがない。
私は、無表情なまま、空を見上げた。
……こいつらと、どう和解しろって?
できるはずがないだろう。
侵略者たちにとって私たちは害虫だ。殺らなきゃ殺られる。
怒りの感情が、心の奥底から込み上げてくる。
これ以上私の居場所を傷つけるな。立ち入るな。住みつくな。立ち去れ。
剣を取り、空中に浮くプロペラ型の機体に切っ先を向ける。
どうやら侵略者たちには、一般人と兵隊のような戦闘型と分かれているらしい。今目の前にいるのが、その兵隊のような輩。
私たち人工人間を排除の対象としているみたいだ。
だが……、それはこちらも同じ話。
「根絶やしにしてやる」
剣を真上に振り上げ、地面から衝撃波を放つ。
大地を切り裂いて飛び上がったそれは、空中に浮遊している機体を見事に貫いた。
一瞬の間も無く機体は爆発し、ゆっくりと墜落していく。
私は剣についた砂埃を振り払い、鞘へと戻す。
……そういえば、彼は死んだけど、こういうときどう感じればいいのだろう。
仲間が死んだ。それはわかる。
だがわからない……。憎さ? 怒り? それは侵略者たちに対してだ。
彼に対しての感情が、全くと言っていいほど私にはなかった。
Mortal intruder 〜感情がくれた世界〜 ちきん @chicken
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