哀
「また一体、次に一体。数で攻めることしかできないのか」
紫色の粘液が体に纏わりつく。
とても目障りだ。
私は側にあった、金属の塊を手に取った。
襲ってくる爬虫類と魚類が混ざったような生物に向け、それをぶつける。
その瞬間、その生物の頭部は爆散する。
血を拭い、返り血のついた金属を投げるようにして手放した。金属は近くにあった壁に勢いよく突き刺さる。
「俺タチガナニヲシタトイウンダ!! ナニヲ!! ナニヲ!!!」
産まれた時からこいつらの言語しか聞いていないせいか、言葉はすぐに聞き取れるようになった。
だが、こいつらは侵略者だ。私とは違う。
殺すことに何の感情も持たない。もともと……兵器として産まれたから、その感情が欠落しているのだろうか。
「でも、悪いとは思わないな」
躊躇なく、顔面に拳をぶつける。
相手の頭が吹っ飛び、またもや返り血がシャワーのように空から降ってきた。
侵略者がやってきて早一年。
人類の残したものは、ほとんど侵略者によって乗っ取られてしまった。
廃墟をそのまま再利用しているためか、見た目だけは殺風景なコンクリートだらけだが。
因みに、科学者は私に死ぬ前にこう言った……『つくりたくてお前をつくったわけではない』と。
最期まで自らの過ちから逃れようとしていたのだろう。私に言ったところで、どうにかなるわけでもないのに。
そして、私と似たような存在が全部で12人いることも聞いた。
私の目的はその12人と出会うこと。
……この世から侵略者を滅ぼし、12人で新たな文明を築くこと。
そのためには、近くにいる奴らからでも根絶やしにしなければならない。
侵入者に敵意を向けている者、怯えて隠れている者、友好的に接してみようとする者。
――全員殺す。
私は剣を抜く。そして、斬る。
産まれて初めてプレゼントされたこの剣は、どんなものが相手でも斬り捨てることができる、唯一の相棒だ。
その時についでに名付けられたわけだが……なんだったっけ。アリサだった気がする。
だが、そんなことはどうでもいい。
今考えるのは、どうやってこの場にいる侵略者を根絶やしにするか。それだけ。
まずは敵対してくる者から斬る……と思わせて、逃げ出す者の首から次々と跳ねていく。
敵対してる奴らの相手をしている間に逃げ出されると、後々探すのが面倒だからだ。
これは、最初に奴らを根絶やしにしたときに気づいた。
「イヤダ! イヤダ! マダシニタクナイ!!」
侵略者の悲鳴が聞こえる。
だが、私の耳にそれが届くことはない。
首が跳ねると同時に悲鳴も少なくなっていく。
侵略者たちが失せるまであと少しといったところか。
私は最後に敵対する侵略者たちに目線を向ける。
普通なら、殺したとき……どのような感情を持つのだろうか。私は、何も思わない。無だ。
楽しいとも思わないし、苛立つこともない。嬉しいわけでもない。
感情が欠落している。それは私にもわかる。
だが、何が……どの感情が足りていないのか、それが私にはわからない。
「ユルサナイ……ゼッタイニユルサナイぃぃ!」
後ろから飛んできた光線銃が私の白銀の長髪に触れる。
だが、髪が焼き切れる前にそれを払い、光線銃を持った侵略者の目の前まで一瞬で間合いを詰める。
仲間が殺されたことで荒れ狂った侵略者は、私にその感情をぶつけているようだ。
太く力強い豪腕が私の頭上を通過する。
その豪腕を両腕で掴むと、掴んだまま身体を捻る。
「ウギャアぃぁぁあ!」
侵略者の悲鳴と共に、捻れた腕は胴体から切り離される。
その爬虫類のような見た目なら、いずれ生えてくるだろう。地球に住んでいるトカゲなどの爬虫類は尻尾を切断しても時間が経過すれば元どおりになる。
腕が生えてくるかは知らないがな。
光線銃を奪い、侵略者の額に標準を定める。
「殺スナラハヤク殺ッ……」
言い終わる前に、光で焼き切るような銃声が鳴り響き、侵略者はそれ以降動かなくなった。
使い終わった光線銃をその場に捨て、他にも迫ってくる侵略者に身体を向ける。
――剣を抜き、なぎ払うようにして一閃。
斬られて悲鳴をあげる間も無く、侵略者の身体は上下に分かれ、地に堕ちていく。
もう何も聞こえない。この土地には何もいない。
私以外の誰にも……。
だが何も感じない。ここで感じなければならない感情は、私にはないのだから。
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