第2話

 朝、リドルの悲鳴で起こされた。カーテンを開けて外を見ると、庭を暴走しているホウキとそのホウキに必死に掴まっているリドルがいた。1年経っても魔法はあんまり上達してないのだろうか……。すると突然、ホウキが急上昇したと思いきや、この家の屋根あたりまで上がり、力尽きたのか落ち始めた。

「ひゃ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「リドル!」

 この高さから落ちたらひとたまりもない。オレは急いでベランダに出た。身を乗り出してリドルに手を伸ばす。リドルもオレに気づいて手を伸ばすが、あと少し足りなかった。掠ることも無く、俺の目の前をリドルが上から下へ通り過ぎる。

「止まれ!」

 下からギルさんの声がした。見下ろすと、リドルは地面にぶつかる事なく、宙に浮いたホウキに掴まっていた。

「は〜〜、よかった……。」

 オレはベランダに座り込んだ。朝から心臓に悪い……。

 少ししてオレは立ち上がり、一階のリビングに向かった。リビングではリドルが奥さんにめちゃくちゃ怒られていた。罰として、朝食抜きらしい。説教が一区切りついたところでオレはリビングに入った。奥さんが俺に気づいて、朝食の準備に戻った。

「おはようございます。」

「おはよう、悠也くん。よく眠れたかい?」

「はい。」

 奥さんが、朝食をテーブルに並べ始めた。オレはこの時ほど自分の記憶力を恨んだことはない。忘れていた、昨日の夕食を。食べれなそうなものが出たら、怪しまれないような嘘をつこうと昨日考えたのに、さっきのリドルのせいで考えていた嘘が全て飛んでしまった。しかも、この瞬間まで、ギルさんの呪文がそのままだったなぁ、とか、そんなしょうもない事を考えいた。

「さあ、座って。お口に合えばいいのだけれど。」

 奥さんの笑顔に罪悪感を感じる。出てきた料理を見ると、テーブルの真ん中にバスケットに入ったパン、それぞれの席にデーブルクロスが敷かれていて、その上にコップ、プレートにスクランブルエッグ、サラダ、ベーコン。夕食よりも見慣れたものが出てきた。唯一つ不安なのは、ベーコンが何の肉かという事だ。

「このベーコンは、とても美味しいのよ。」

 奥さんの期待の眼差しに負け、恐る恐るベーコンを食べる。食べ慣れた味がする。

「美味しいです。」

 そう答えると、奥さんはとても嬉しそうな顔をした。結局、恐ろしくて何の肉かは聞かなかった。

 朝食を食べ終え、リドルと一緒に洗い物をやっていると、ギルさんが来た。

「リドル、今、ザルシャから電話があって、今から来て欲しいそうだ。」

「ザルシャさんが⁈ いいいい行きます!」

 リドルは急いで手を洗い、家を飛び出した。……あんなに急ぐ必要があるのか? 唖然としているオレにギルさんが苦笑いを浮かべながら、困ったものだね、と言った。

「あんなに急がなくても大丈夫だと思うけどね〜。悪いね、悠也くん。洗い物を任せてしまって。終わったら、昨日の部屋においで。」

 ギルさんはそう言ってリビングを出て行った。


 オレは残った洗い物を終え、ギルさんのところへ向かった。ノックをすると、部屋から声が聞こえた。ドアを開け、中に入る。部屋には椅子が2つ追加されていた。1つの椅子にギルさんが座っていて、向き合うようにもう1つの椅子が置いてある。ギルさんはオレに座るよう言った。オレが座るのを確認してからギルさんは、

「——さて、約束の話をしようか。」

 と、笑顔で言った。


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