第3話

 リドルは、自己最速でザルシャの家まで走った。ギルの家からここまで約10km。息は全く乱れなかった。持久力には自信がある。……勉強の持久力は全く自信がないが。

「ザルシャさん! おはようございます!」

 ザルシャの家は何故かインターホンがない。リドルは家の前で声をかけた。

「勝手に入っていいぞー。」

 お邪魔します、と言って扉を開ける。バタンッ、と勢いよく扉を閉めた。そして、恐る恐る扉を開けた。……見間違いではない、家が汚い。まるでゴミ屋敷だ。足の踏み場がなく、何処に足を置いたらいいのかわからない。

「何やってんだ、リドル。……ああ、相変わらず飛行魔法は苦手か?」

 1番手前の部屋から顔を出したザルシャは、リドルの状況を見て、ガハハ、と笑いながらリドルに魔法をかけた。すると、リドルの体が宙に浮いて、ゴミの上を移動した。

「ほれっ!」

 ザルシャが自分のいる部屋にリドルを下ろした。その部屋は玄関と廊下とは違い、綺麗だった。どうやら、この部屋はリビングのようだ。

 ザルシャの家は、『日本家屋』という建物らしい。詳しい事は分からないが、ある種の人間が住んでいた家らしい。リドルから見れば、火炎魔法を使ったら、一瞬で無くなりそうな建物だが。

「今日来てもらったのは、この家の掃除を手伝って欲しくてな……。」

 ザルシャが恥ずかしそうに言った。

「掃除って……、魔法で一発じゃないですか。」

「いや、そうなんだが……。——実は、その手の魔法は苦手で……。」

 優秀なザルシャにも苦手な事があった事を驚くべきか、尊敬し、憧れているザルシャに少し失望するべきか……。

「良ければ、僕がやりましょうか? 掃除の魔法は得意ですよ?」

「いや! 悪いが遠慮する! お前の得意は信用するなとギルから耳にタコができるぐらいに言われてるからな。」

 ……強く否定できないのが悔しい。

 結局、2人でゴミを片付け、掃除をする事にした。

「ザルシャさんが帰ってきたのって、1週間前ですよね? どうしたらこんなにゴミばっかりになるんですか⁈」

 リドルは、キレ気味で聞いた。それもそうだろう。50代になってもなお、現役で任務に就いているのはザルシャくらい。大体はギルのように、弟子を取って教育したり、得意な魔法を活かして、店を出したりしている。今はもうほとんど無いが、昔は隣国と仲が悪く、外での任務は危険なものが多かった。その中でも、特に危険なある任務を任されたのはザルシャだった。この話は教科書にも載っている有名な話だ。ザルシャはその任務を遂行し、国の英雄となった。しかも、その任務が遂行された事により、隣国との仲が改善され、今では友好関係にある。——そんな偉大な人が1週間で自分の家をゴミ屋敷に変えるのだ。しかも、掃除魔法が苦手と来た。文句の1つも言いたくなる。

(少しでもザルシャさんに近づきたくて、師匠に弟子入りしたのに……。こんな所は知りたくなかった。)

 リドルは、静かにため息をついた。


 掃除が終わった頃には辺りは暗く、時計を見ると夜の8時になっていた。そんなに部屋数はないから、すぐに終わるだろうと思っていたが、とんだ見当違いだった。

「いや〜、助かった! ありがとな、リドル! ……そうだ! 礼も兼ねて、夕飯食ってけ!」

 ザルシャにそう言われ、ご馳走になる事にした。ギルに連絡をすると、迎えに行くから、帰るときは連絡するよう言われた。しかし、空腹が満たされ、疲れたせいか、夕食後ザルシャの家で寝てしまった。

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