第1章 再会

第1話

 不思議な体験をしてから1週間が経った。そして今、また同じ体験をしている。今度は幸いにも砂漠ではない。しかし、砂漠の方がマシだったかもしれない。オレの目の前にはあのサンタクロースがいるのだから……。どう逃げようかと考えていると、

「あっ! 悠也! 久しぶりだね!」

 サンタクロースが立っている隣にある扉からリドルが入ってきた。1週間ぶりだというのに、身長が伸び、少し大人っぽくなったような気がする。

「僕が君を召喚してから1年が経ったのに、君は全然変わらないね!」

 なるほど、どうやら時間の進み方が違うようだ。

「オレにとっては、1週間ぶりに会うのに随分成長したな、って思ったよ。」

 だから、変わってないんだ〜、とリドルは言った。手に持っていた数冊の本をテーブルに置いて、部屋を出て行った。……できれば、ここにいて欲しかった。縋るように扉を凝視していると、サンタクロースが声をかけた。

「あの時、自己紹介をしていなかったね。私はリドルの師のギルだ。突然呼んで悪かったね。……なに、悪いようにはしないよ。ただ、少しだけ手伝って欲しい事があるんだ。決して難しくない。けれど、君にしかできない事だ。……手伝ってくれるかい?」

 嫌だ! 今すぐ帰してくれ! そう言ったらオレはどうなるのだろうか? 言い方は、断っても良い感じの優しさがあるが、目が、雰囲気が、断るな、と言っている。オレに拒否権が無いのは、1週間前——ここだと1年前から分かっていたことだ。

「オレは何をすれば……?」

 サンタクロース、否、ギルさんはオレの言葉にとても嬉しそうにした。

「あとで説明するよ。取り敢えず、夕食にしよう。悠也くんは、お腹空いているかい?」

 オレが召喚されたのは夕食後だったので、オレは首を横に振った。

「そうか、家内の料理は絶品なんだが……、仕方ない、朝食は期待していなさい。さあ、リビングに案内しよう。」

 部屋を出るとき、改めて部屋を見回す。漫画やアニメの見過ぎだろうか、オレの想像だと、壁は黒、部屋は薄暗く、床には大きな魔法陣が描かれていて、壁には天井まである本棚に本がギッシリ入っていて、小さなテーブルには、怪しげな薬や薬草、毒草が置いてある——しかし実際は、壁は白、本棚も魔法陣もなく殺風景、あるのは小さなテーブルだけ。そのテーブルにも、薬も薬草も無く、さっきリドルが持ってきた数冊の本があるだけだった。

 リビングに案内されると、そこにはリドルと女性がいた。歳はサンタクロース……じゃなかった、ギルさんと同じくらいだから、きっと彼女が奥さんなんだろう。背を向けていた奥さんが振り返った。

「あら、いらっしゃい。お夕飯は食べるの?」

 おっとりした上品な女性だ。オレは首を横に振った。あら残念、と言い、キッチンにある料理を運び始めた。

 ——……ここではオレの想像を裏切って欲しかった。食事はしないが、お茶くらいはして欲しいとギルさんが言うので食卓に着いたは良いが、出てきた料理はかなり酷い。見た目が悪いとかじゃなくて、使われている食材が。キャベツと蜘蛛のサラダ、トカゲの丸焼き、ミミズエキス入りのシャンパン。聞いただけで吐きそうだ。幸い、オレの飲んでいるお茶はただの紅茶らしい。例えこの料理が美味しかったとしても、口に運ぶことが苦痛だ。明日の朝食は、こんなものをオレは食べないといけないのか……。


 夕食をとても優雅に過ごし、入浴を済ませ、客室に案内された。

「今日は、もう休みなさい。また明日、ゆっくりと話をしよう。」

 ギルさんはそう言って、客室を出た。オレは、明日の朝食の心配をしながら、ベッドに入った。

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