第3話

「……でも、彼は人間だ。帰すのは勿体無いな。」

 リドルは自分の師の言葉に驚いた。悠也が人間である事を知らなかったのだ。

 この世界には、ごく稀に突然変異で、魔力を持たない子供が生まれることはあるが、純粋な人間はいない。大昔に衰退した人種なのだ。

 師匠の服が悠也を覆い、次の時には悠也は居なくなっていた。

「あれ? 帰してしまうのですか?」

「ああ、だが、印を付けた。彼が必要になったら、また呼べばいい。」

 さあ、帰ろう、と師匠が歩き出した。リドルは立ちあがり、後を追った。

「あの……、悠也が必要になる時というのはいつですか?」

 師匠がリドルの方を見下ろし、フッと笑った。

「それは勉強不足だよ、リドル。実技に力を入れるのは結構だが、試験には筆記もあるのだからね。」

「……はい。」

 リドルは、家に帰ったら調べようと思い、必死に頭にメモをした。きっと3分もしたら、忘れていそうだが。


 歩き始めて15分、砂漠に不自然な旗が刺さっている。この旗に、自分の魔力を少し流す。それが入国手続きのような役割を果たしている。手続きが完了すると、自国の門番係が自国まで瞬間移動させてくれる。ちなみに、歩いて帰ろうとすると2週間はかかる。この砂漠は練習場所としてはとても良いが、帰るための魔力を残しておかないと帰れなくなるのが難点だ。リドル達は自国に戻り、それぞれ帰路に就こうとした時、声をかけられた。

「おーい、ギルとリドルじゃねーか! 久しぶりだな〜。」

「ザルシャさん! お久しぶりです!」

 振り向くと、大柄な男が手を振っていた。ザルシャは、リドルの憧れであり、リドルの師匠——ギルの同期生であり、かなり歳ではあるが、今なお現役で働く魔法使いだ。

「ギル、暫く見ない間に老けたか? 俺と20は違く見えるぞ!」

「私が老けたんじゃない。お前が若すぎなんだよ、ザルシャ。」

 確かに、知らない人が彼らを見たら、60代と40代が話しているように見えるだろう。……老け顔と童顔が並ぶとこんなにも見た目年齢が違く見えるのか、とリドルは思った。

 ザルシャは、ガハハ、と豪快に笑い、ギルの肩を叩き、そして肩を組んだ。ギルは叩かれた勢いで少しふらつき、ザルシャを睨んだ。

「なあギル、2ヶ月の長期勤務を終えて、1ヶ月の休みをもらったんだ。今度、ゆっくり酒でも飲もうや。……取り敢えず俺は、風呂に入りてぇから、帰るわ。じゃあな!」

 ザルシャはそう言って、リドルの頭を乱暴に撫で、帰っていった。

「相変わらず、嵐のように来て、嵐のように去っていくな。……さあ、私たちも帰るとしようか。リドル、ちゃんと勉強もするんだよ。」

「はい。さようなら。」

 リドルはギルに頭を下げ、帰路に就いた。ギルは、リドルが見えなくなるまで見送り、そして、振り返り歩き出した。





 ——憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!

 おれとあいつの何が違うというんだ! 何故あいつなんだ!! どうして、おれが認められない!

 でも、まあいい。あれが手に入った。これで、おれは、あいつに勝てる。そして、世界中に認められるんだ! ——

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