第2話
「泣きごと言う暇あんなら、足動かせ!」
リドルの後ろに竜巻が迫っている。ヤバイ! そう思った。
「伏せろ!」
突然、大声が聞こえ、オレは反射的に体を倒した。頭の上を強風が通った。振り向くと、竜巻が消えていた。
「大丈夫か?」
さっきの声と同じ声が上から降って来た。見上げると、サンタクロースがいた。正確には違うけど、サンタクロースを想像して、と言われたら、大体の人が想像する感じの見た目だった。ただ違うとすれば、服が赤色じゃなくて、リドルと同じ黒色の服を着ている事ぐらいだ。
「わーーーーー!!」
後ろから悲鳴が聞こえた。リドルが上から落ちてきた。きっと伏せるのが遅くて強風に巻き込まれたんだろう。
「……ブッ!」
顔面から落ちた。砂漠といっても、あの高さからだと相当痛いだろう。案の定、顔を上げたリドルは鼻血を出していた。
「やれやれ、君はほんとにどんくさいな。」
サンタクロースが呆れながら、リドルに近づき、ハンカチを手渡した。そして、オレの方を向いた。
「君は、人間かな? リドルがまた失敗したんだな……。まあ、無事に召喚されてよかったね。」
……召喚されない方がもっとよかったッス。とは言えないので、オレは頷いた。
「ししょ〜、今日も失敗しました〜。」
「うんうん、見ればわかるよ。私がどうにかしよう。」
どうやら、サンタクロースはリドルの師匠のようだ。取り敢えず、これで無事に帰れそうだ。
「……でも、彼は人間だ。帰すのは勿体無いな。」
……ん? 何だか雲行きが怪しい……。サンタクロースのオレに向ける視線が変わる。ここにいるのは危険だ、頭の奥で警報が鳴る。さっきかなり走ったせいなのか、サンタクロースの視線のせいなのか、すぐに動けない。サンタクロースとリドルに背を向ける。目の前に黒い布が現れ、オレを覆った。途端に、意識が遠のいた——。
次に目を覚ました時、オレは自分のベッドに練習着のまま横になっていた。時計を見ると8時半を指している。
「なんだ、夢か。」
オレは、体を起こした。ドア越しに母さんの声が聞こえた。
「悠也! そのまま寝ないでお風呂に入りなさい! 夕飯は食べるの? 食べないなら、片付けるわよ!」
「食べる!」
オレは、ベッドから飛び降りる。着地の拍子に服から砂が落ちる。ベッドを見るとベッドも砂だらけだ。口の中も砂が入っていて気持ち悪い。この砂が、あれは夢ではないのだとオレに示している。しかし、ここはオレの部屋だ。しかも、さっき母さんの声がした。ということは、あのサンタクロースはあんな事を言っておきながら、オレのことを帰してくれたのか……? よく分からないが、助かったんだろう。安心したのか、腹が空腹を訴えはじめた。オレは自分の部屋を出て、リビングへと向かった。
——この時、オレはまだ知らなかった。サンタクロースがタダで帰してくれた訳ではなかったという事に……。
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