さようなら、オレの日常

虹室 桜智

序章 はじまり

第1話

 目が覚めたら、砂漠にいた。——……落ち着け。確かオレは、部活を終えて帰宅し、そのままベッドにダイブして……。うん、きっと寝たんだ。これは夢だ。そうに違いない。例え、日差しが強くて動いてないのに汗が吹き出てたとしても、そのせいで喉が乾いたとしても、頰を思いっきりつねって痛くても、これは夢だ。

「……っ。」

 今気づいたが、オレの隣に人が倒れていた。全身黒い服に身を包んでいる。オレは、部活をやっていた時の格好だから、半袖短パンだ。日差し的には、隣の奴の方がいいが、暑さ的には、オレの方がいいだろう。服装を足して2で割ればちょうど良さそうだ。隣の奴が起きた。そしてオレの方を見て、驚いた顔をした。ちなみに、オレも驚いた。フードを被っていたから気づかなかったが、髪が真っ白で、目が片方ずつ色が違った。右目は青、左目は赤だった。おそらく、中学生くらいだろう。

「うわ〜、黒髪なんて珍しいね。ねえ、君は誰?」

「人に名前を聞く時は、まずは自分からって教わらないのか?」

 言葉が通じたことに安堵した。

「ああ、そうだったね。僕は、リドル。で、君は?」

「オレは、悠也。なあ、リドル。ここが何処か知ってるか? 気づいたら、ここにいたんだ。」

 そう言うと、リドルはまた驚いた顔をした。何か変なことを言っただろうか?

「何言ってるんだよ。僕が君を召喚したんだよ。あんまり強そうじゃないけど、成功したんだし、まあいいか。」

「お前こそ何を言っているんだ。オレはお前に召喚される覚えはないぞ。」

 大体、召喚ってなんだよ。リドルは、何処からか分厚い本を取り出し、開いた。目を左右に数回動かし、オレを見た。そして、本と地面を見比べ始めた。

「……魔法陣、間違えた。しかも、呪文も!」

「大丈夫かよ……。で、オレは帰れるのか?」

「もももも、もちろん!」

 声が裏返っている。目も泳ぎまくってるし、不安しかないんだが。リドルは深呼吸すると、オレを見てにっこり笑った。

「安心して! 僕、召喚は苦手だけど、帰すのは得意だよ!」

「ああ、なら早く帰してくれ。」

「ただ、100回に1回くらいしか成功しないけど!」

 それを得意と言っていいのだろうか……。99%は失敗するんだろ? 苦手な召喚は一体どのくらいの成功率なんだろう?

「召喚はね、25回に1回くらい召喚出来るよ。」

「そっちの方が成功率高いな。」

「ただね、片腕だけとか、頭だけとか、部分的にしか召喚されないんだよね〜。今回は、初めて全部召喚出来たの!」

 一気に血の気が引いた。もし、片腕だけここに来ていたら、家にいるオレはさぞ悲惨な事になっていただろう。途端に、こいつに帰されるのが怖くなった。成功したとしても、部分的にしか帰れないかもしれない。オレは、魔法陣を描き始めたリドルを止めた。

「なあ、リドル。お前よりすご〜〜く魔法が上手い奴はいないのか?」

「いるけど、すご〜〜く性格悪いよ。」

「お前じゃないなら、性格悪かろうと、臭かろうと、デブだろうと、ブスだろうと、構わない。」

「ヒドくない⁈」

 酷いものか。こっちは生死に関わるんだぞ。しかし、そろそろここから移動しないとこれはこれで生死に関わりそうだ。

「とりあえず、この砂漠から離れたいな。どっちに行ったらいい? 見渡す限り砂漠だけど。」

 リドルは、あっち、と指をさした。示された方を向くが、何かあるようには見えない。

 突然、後ろから、ゴウッ、と音とともに風が吹いた。振り向くと、竜巻が起こっていた。しかも、こちらに近づいてくる。オレとリドルは、全力で走り出した。

「悠也、君は走るのがとても速いね!」

 リドルは、走り始めて数十秒で減速し始めた。

「陸上部、舐めんな! リドル! もっと速く走らなきゃ巻き込まれるぞ!」

 そうは言っても、今走っているのは砂漠だ。うまく足に力が入らない。力を入れれば余計に体力が持っていかれる。前を見るが、何度見ても建物は見当たりやしない。何処まで走れば安全なのかわからない。不安が余計に走りにくくさせているように感じた。

「そうだ! 竜巻を消す魔法を使えばいいんだ!」

 あるなら、さっさと使ってくれ! リドルは、呪文を唱えた。すると、竜巻が消えた。オレ達はその場に倒れ込んだ。

「お前にも、出来る魔法があるんだなー。」

「どういう意味だよ〜。」

 しかし、そんな休憩は一瞬だった。強風が吹いた。恐る恐る見ると、竜巻がまた起こっている。今度は、2つだ。

「……あ、分裂の魔法だったかも。」

「ふざけるなーー!」

 オレ達はまた走り出した。判断が少し遅かったせいかさっきより竜巻との距離が縮んでいる。

「わーん! 誰かー!」

 泣きたいのは、こっちだ! バカやろうー!

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