第17話 黎明の告白
冷たく澄んだ空気が一呼吸ごとに肺を満たす。
漆黒の闇と星々の瞬きが中天を埋める中、地平線の向こうが微かに明るみを帯びてきた。時刻は二エルト(午前四時頃)を少し回った、朝と呼ぶにはまだ少し早い時間。カエトスは王城アレスノイツの中郭へと至る階段を上っていた。
いくら周りが暗いからといって王城内をこうして堂々と歩いているのだから、単独行動ではない。
カエトスの視界には、滑らかな歩調で淀みなく階段を上る引き締まった下半身が映っている。濃紺の制服に包まれたその主は、親衛隊ヴァルスティン隊長のミエッカだ。
(昨日、カエトスと戦った後遺症はないようだな。女にしてはやるじゃないか)
カエトスの頭に直接声を響かせるのは、いつもの定位置であるカエトスの右肩に座る小さな女神ネイシスだ。例のごとく、姿を消しているため目視することはできない。
(伊達に隊長を務めてはいないってことだな)
カエトスは女神に相槌を打ちながら、つい先刻のことを思い返した。
彼女がカエトスにあてがわれた宿舎の物置に突然やって来て、これからナウリアと打ち合わせをすると告げたのが数ルフス前のことだ。
もともとナウリアはミエッカを交えた話し合いの場を設けると言っていた。それがようやく形になったということなのだろう。それを歓迎したい反面、カエトスの脳裏にはいくつかの懸念が渦巻いていた。
その一つが昨晩、入浴中に見たイルミストリアの内容だ。
それによればカエトスは今日、ほぼ同時刻に異なる二つの地点で危機に陥るミエッカとナウリアの二人を助けなければならないのだ。ネイシスとおおまかな対策を考えてきたものの、それが上手く機能するかはまだ何とも言えない。なぜなら、守る対象であるミエッカとの関係が未だ好転したとは言えないからだ。
守ろうとする者に嫌悪されていては、護衛の難易度は跳ね上がる。近づけば避けられ、身を案じての進言は断られ、そしてさらにはカエトス自身が護衛対象に攻撃されかねない。特にミエッカはかなり攻撃的になることが想像される。このような状況下で、正体不明の脅威にも目を配らなければならないと思うと、明るい展望がまるで見えなかった。
しかもカエトスは昨晩の稽古において手加減したものの、結果としてミエッカをかなり手酷く痛めつけてしまっている。
物置にやって来たミエッカの態度や口調は硬いままで、以前と大きな変化がないように見えた。しかし嫌悪していたカエトスに何度も吹き飛ばされて、感情が悪化していないということは考えられない。ゆえにカエトスが早急にやるべきことは、どの程度ミエッカの敵意が増したのかを確認することだった。そしてどのような対応をとるべきか、速やかに決めなければならない。
カエトスは階段を上りながら、慎重に話しかける機を窺った。
持ちかける話題は、王女のことは避けるべきだ。カエトスとミエッカの双方が接点を持つ人物ではあるが、王女がカエトスに対して見せる親しげな態度が彼女の神経を逆撫でしているからだ。体調を尋ねるのもまずい。昨晩の稽古を思い出させてしまう。無難なところで、やはり天気のことがよいだろう。それならミエッカも答えやすいし、語調や表情から彼女の機嫌を見るにはうってつけだ。
カエトスが意を決して声をかけようとすると、ふとミエッカの歩調が緩んだ。階段の中間地点にある踊り場に到着したところで、転落防止用の木製の手すりに歩み寄り、そのまま足を止める。その視線は明かりもまばらな眼下の王都と、暗くて今は薄っすらとしか見えないビルター湖に向けられている。
ミエッカはカエトスに用があるようだった。無言の背中からそのような雰囲気がじわりと伝わってくる。
(昨日負けた腹いせに、ここでお前を亡き者にするかもしれないぞ。気を付けろ)
ネイシスが物騒な警告をする。ミエッカの激しい気性から考えて大いにあり得る。むしろそれを否定する理由がない。しかもいまこの踊り場にいるのはミエッカとカエトスのみ。ネイシスは彼女には見えないのだから、凶行に及ぶ障害とはなり得ない。
カエトスはいつでも飛び退けるように身構えながら、ミエッカの斜め後ろに静かに立った。
二人の間にそこはかとない緊張が漂う中、ミエッカがゆっくりと振り返った。
「……昨日の晩、私を着替えさせたのは、貴様か?」
その口から出た言葉はカエトスの想定外のものだった。睨み付けるように問うミエッカの意図が読めない。
カエトスは警戒を緩めないまま、慎重に言葉を選んだ。
「まさか、そんなことはしていません。隊長殿を宿舎まで運びましたが、その後はアネッテ殿に任せましたから」
おそらくアネッテがやったのだろうと言外に含ませながらカエトスは答えた。
ミエッカがずいっと一歩迫る。
「じゃ、じゃあ私をどうやって運んだ?」
「それはこのように背負って──」
カエトスが身振りでそのときの状況を表現すると、いきなりミエッカが胸倉をつかんできた。
「わ、私の体をまさぐったのかっ?」
カエトスはそこでようやくミエッカの質問の意味に気付いた。彼女は自分の意識がない間に、カエトスに良からぬことをされたのではないかと疑っているのだ。
カエトスは女とは思えない握力で襟を締め上げるミエッカの手首をつかみながら必死に抗弁した。
「そ、それは不可抗力というやつですっ。眠ってしまった隊長殿をあんなところに放置するほうがまずいと思ったんです!」
「ぬぐっ。……そ、それもそうだな」
ミエッカは一度呻くとカエトスを解放した。間近で見るとその頬がほのかに赤らんでいるのがわかった。
カエトスの視線に気付いたのか、ミエッカは顔を背けながら手すりをぐっと握り締める。
「くそっ、また思い出してきた。この私が手も足も出せずに負けるなんて……!」
「いえ、あれを負けと数えるのは適当ではないでしょう。隊長殿はリヤーラを使わなかったんですから」
歯軋りが聞こえそうなほどの悔しさに満ちた声で言うミエッカに、カエトスは率直な感想を告げた。ミエッカのご機嫌取りという意味合いが多分に含まれてはいたが、これは紛れもない本心でもあった。
決闘のときのようにリヤーラの生み出した熱を刀身に纏わせていたなら、剣を打ち合わせて音を出すどころか、そのまま剣を破壊されていたことだろう。いかに神鉄製の剣とはいえ、鉄が蒸発するほどの熱には耐えられないからだ。そのまま敗れていたかどうかは、やってみないことにはわからないが、同じような形で勝利を収めることは確実にできなかった。
「実戦じゃないんだ。使わないと言ったものを使えるわけがない。そもそも、貴様は剣術で圧倒しなければ意味はない」
ミエッカは渋面を作ると、ずいっと一歩近づいてきた。人差し指でカエトスの眉間をびしっと差す。
「いいか。私が勝つまでは絶対に逃がさない。他の誰かに負けるのも許さない。貴様は私が強くなるための糧になるんだからなっ」
(なかなか無謀な女だな)
カエトスが思わず体をのけ反らせていると、ネイシスが呆れたように言った。
(カエトスはミュルスの力なしで互角に渡り合ったんだから、実力差は歴然だ。それがわからぬほど馬鹿ではないだろうに。そこでだ、私はあれから考えてみたんだが、この女、叩きのめされるのが好きなんじゃないか? だから勝てないとわかっていながら、こうしてお前に勝負を挑んでいる。昨日戦っている最中に笑っていたのも、そう考えれば辻褄が合うというものだ)
(……なるほど。その可能性もあるかもしれないな)
ネイシスの意外にして鋭い指摘に、カエトスは内心頷いた。
人の性癖というものは外見からではまるでわからないものだ。他者を痛めつけることに悦びを覚えそうな雰囲気のミエッカが、実はその逆の性質を持っていても何の不思議もない。
カエトスは早速尋ねてみた。
「隊長殿。もしかしてあなたは、いじめられるのが好きなのですか……?」
「ば、馬鹿者っ! ち、違う、私にそんな性癖はないっ!」
「ですが昨晩は楽しそうに笑っていましたし、もしそういった欲求を満たしたいのでしたら、協力することにやぶさかではありません。もちろん、このことは誰にも漏らしません。さすがに女性を痛めつけることには気が引けますが、隊長殿がそれをお望みなら心を鬼にして──」
「だから違うと言っているっ!」
ミエッカは顔を赤くしながら誰がどう見てもわかるほどに激しく動揺していた。再びカエトスの襟に手をかけながらぐいぐいと喉を締め上げる。
「で、ではなぜ笑っていたんでしょう?」
ミエッカの腕をつかんで必死に呼吸を確保しながらカエトスが問うと、ミエッカは言葉を詰まらせた。手を離してぷいっとそっぽを向く。
「それは……貴様が強かったからだ」
そう言ってすぐさまカエトスに向き直った。
「か、勘違いするなよ。別に貴様を褒めているわけじゃないからなっ。ただ……貴様の強さは本物だった。私が全力で打ち込んで倒れなかった奴など初めてだ。しかも私だけミュルスの力を借りていたのに、私の剣を見切って反撃までしてくるなんて……」
褒めてはいないと言った通り、ミエッカの口調はカエトスを責め立てるものだ。だが顔は心なしか紅潮していて、口元には昨日の稽古のときに見た笑みが浮かんでいる。それに気付いたのかミエッカは口元に手を当てて、再び渋面を作り出した。
「つまり貴様は、私の前に現れた壁だ。貴様をこの手で倒したとき、私はさらに強くなれる。笑ったのはそういう意味だから、変な誤解はするなっ。それともう一つ、貴様は私が勝つまで絶対に逃がさない。この先も付き合ってもらうからなっ」
カエトスに人差し指を突きつけるミエッカの瞳は爛々と輝いていた。
まるで肉食獣を思わせる眼光の中にあるのは真っ直ぐで純粋な向上心。それは猛々しくもあり、いまカエトスを包む朝の空気のように爽やかでもあった。
どうやら昨日の稽古を経て、カエトスに対する敵意が大きく払拭されたことだけは確かなようだった。
それに安堵しつつも、カエトスは次のことに思いを馳せていた。
格好の稽古相手という立場で終わってしまっては意味がない。ミエッカとはそのさらに先の関係を築かなければならないのだ。
レフィーニアとナウリアについては、幸運にも相手から関係構築の申し出がありそれに乗ることができたが、ミエッカにそれは望めないだろう。カエトスが積極的に行動を起こすしかない。
そう決意しながらもカエトスには躊躇がある。レフィーニアとナウリアの二人と結婚につながる約束を交わしているという事実がカエトスの心に重くのしかかる。しかも彼女たちはミエッカの姉妹なのだ。もう引き返せない道に踏み込んでおり、先に進むしかないとわかっているのに強い罪悪感が込み上げる。
それを抑えつけて、カエトスは冗談めかした口調で尋ねた。
「隊長殿。それは遠回しな求婚……ではないですよね?」
「な、何でそうなるっ!?」
ミエッカがカエトスを異性として意識しているのかいないのか。
それを探るための一言に、ミエッカは途端に狼狽を露わにした。戦闘中とは打って変わった慌ただしい足取りで一歩退いて、カエトスに動揺塗れの声をぶつける。
「いえ、勝つまで付き合えということは、つまり勝てない限り付き合い続けることになるわけで、その辺りを察しろとかそういうこと……ではない?」
「ないっ! き、貴様は一体何を言っているんだ。ほ、ほんとに訳がわからないなっ」
カエトスに詰め寄りながら、力強く断言するミエッカ。肩をいからせながら腕を組むと、再びそっぽを向いてしまう。
(ほう、上手い具合に突っついたな。でもどうやら、お前のことは全然何とも思って……ん?)
「た、ただ、貴様が私をそういう目で見ているのなら……こっちもそれなりに見てやらないこともないぞ」
悲観的な感想を述べるネイシスがふと言葉を切った。
ミエッカはカエトスに右肩を向ける形で、明かりのほとんどない王都の夜景に目を向けていた。腰の剣を左手でもじもじといじり、横目でちらちらとカエトスの様子を窺う。
「わ、私はもともと、夫にする男は自分より強くなければならないと思っていたし、ここまで負けたことなんて父上以外には、貴様が初めてだし、その点からすれば貴様は条件を満たしているわけで……その気があるのなら、まあ、夫の候補の一人として考えてやらないこともない」
口調そのものは居丈高ではあったものの、態度はこの上ないほどに遠慮がちだった。カエトスがどのような反応をするのかという不安が所作の端々に見て取れる。
昨日、練武場で命からがら退けた人物とは思えない仕草に、カエトスは茫然と見入ってしまっていた。
「な、何だ、その顔はっ!」
猛然と噛みついてきたミエッカに、カエトスは慌ててあんぐりとだらしなく開けてしまっていた口を押さえた。ここまで好意的な反応が返ってくるとは夢にも思っていなかったのだ。
「も、申し訳ないっ。私は隊長殿に嫌われているものと思っていましたし、昨晩は何度も反撃してしまいました。その上、一昨日は隊長殿を侮辱するような発言もしていたので、まさかそういった言葉を返されるとは……予想外でした」
ミエッカの変化が劇的過ぎて頭が追いつかない。脳裏には何かの陰謀ではないかと危惧する声すら上がってしまう。
「た、確かに、貴様を殺してやりたいほどに嫌ってはいた。昨日の稽古の前までは。そして稽古の最中も。でも、何度挑んでもはね返されるうちに、貴様が出まかせを言っていないことが実感できて、そうしたら、そんな後ろ向きな感情はどこかにいってしまって、逆に貴様自身のほうが気になったというか、何というか……って、何を言わせるんだっ、あと笑うな、馬鹿っ」
「は、申し訳ありませんっ。あれほど勇猛な隊長殿に、こんなに女性らしい一面があるとは夢にも思わず、つい……」
カエトスは謝罪しつつ頬を引き締めた。
顔を赤くしてカエトスを睨むいまのミエッカは、色恋沙汰をからかわれてむくれる少女のようだった。武人然としていたミエッカが見せる初々しい仕草は、全く想像していなかっただけに驚きも大きく、そして微笑ましくて可愛らしい。このような姿を見せられて笑みを浮かべずにいられるわけがなかった。
「き、貴様は失敬な奴だなっ。だ、だいたい、私だって人並みに結婚願望くらいあるんだ。それなのに、これまで私より強い男なんて一人もいなかったんだから……貴様のような人間だとしても、気になったって仕方ないじゃないか」
激しく動揺しているのか、ミエッカは自分の心情を包み隠さず吐露してしまっていた。
「そ、それで貴様はどうなんだ。別に、貴様がなんとも思ってないなら、これまでの話は全部忘れてくれていいんだぞ」
そう言いながら、再びカエトスの様子を横目でちらちらと窺う。腕を組んでつんと顎を上げるその仕草は、明らかに強がっているとわかるものだった。誰が見ても期待と不安がその内にあると看破してしまうことだろう。それは人の感情の機微に疎い女神も例外ではなかった。
(カエトス。もしかしてなんだが、この女はお前に惚れている、という状態なのではないか?)
そう尋ねるネイシスの判断は的外れではないだろう。頬を染めてカエトスの様子を窺う様は、恋する乙女のように見える。しかし話を聞く限り、ミエッカはこれまで色恋沙汰とは縁遠い生活を送っていたと想像がつく。そのために反応が初々しいだけなのであり、普通なら態度や仕草、言葉の端々に忍ばせる好意の欠片を、駆け引きとか戦略などを無視して率直に伝えているだけなのだ。
つまりカエトスに対する感情は改善したものの、それが惚れているという段階にあるかといえば、そうとは限らないというわけだ。
(ほう、そういうものなのか)
カエトスの思考はネイシスに筒抜けだ。それを読み取ったネイシスが感心したように呟く。
ただ一方のカエトスはそう判断しつつも、自分自身が平静ではないと自覚してもいた。
鬼神をも切り伏せそうなそら恐ろしい剣技を振るう女戦士に、そこからは想像すらできないしなやかで初々しい一面が宿っているという巨大な落差が、カエトスに鮮烈な印象を刻み付ける。猛々しく凛々しい姿との対比で、可愛らしさが一層際立って見え、それをいま自分だけが目にしているという事実に心が高揚する。
カエトスの心中に、ミエッカとより深い交流を持ちたいとの欲求が湧く。
ミエッカの話を断るのはあり得ない。自身の中に芽生えた感情もそれを強く後押しする。しかしそれを止めるものもまた内にあった。
ミエッカの話の先には無論、結婚がある。つまりこれを受けてしまうと、期せずして三姉妹それぞれと結婚へ至る道に立つということになる。それはイルミストリアが示した道程であり、歓迎すべきことではあったが、カエトスは全く喜べなかった。心の深奥にくすぶる罪悪感がそれをさせないのだ。
相反する感情のうねりにさらされる中、カエトスは口を開いた。自身が望み、そして望まない答えを返す。
「忘れられるわけがありません。私は蛇蝎のごとく忌み嫌われていると思っていましたし、隊長殿のような美しい女性にそのようなことを言われたんです。忘れたくてももう無理です」
カエトスの一言にミエッカの耳がぴくっと動いた。まるで小動物が天敵を警戒しているような仕草で尋ねる。
「それはつまり……貴様も私のことを……という意味でいい、のか?」
カエトスは精いっぱいの誠意を込めて頷いた。
期せずしてミエッカと視線がぴったりと合う。その状態だったのはほんの数瞬だった。
先に目を逸らしたのはミエッカだ。動揺をごまかすように襟を何度もばたつかせて胸元に空気を送り込みながら、口を開く。
「そ、そうか。で、でも別にまだ結婚とかそんなことは決まってないんだからな。そこまで行くには、貴様はまだまだ信用がない。きちんと親衛隊としての務めを果たすんだぞ」
「もちろんです。これからの私の働きに注目していてください。隊長殿に相応しい人間だということを証明してみせましょう」
「それなら、今日の霊獣討伐はいい機会だな。きさ……いや、カエトスのことをしっかりと見させてもらうから」
ミエッカは照れ臭そうにカエトスの名を口にすると、上へと続く階段へそそくさと向かった。心なしか、以前よりも歩調が速い。と思ったら最初の段でいきなり躓いた。転びそうになるが、さっと手をついて事なきを得る。
「べ、別に動揺なんてしてないし、貴様の言葉が嬉しかったなんてこともないんだからなっ。す、少しばかり平常心じゃなくなってるだけだからっ」
支えようと後ろから手を伸ばしたカエトスが声をかけるより早く言い訳じみた宣言をして、早足で階段を上っていく。
(……人は見かけによらないとお前は言っていたが、まさにそれを体現しているような女だな)
(俺もこんなに激しく印象が変わる人間は初めてだ)
ネイシスが呆れたような感心したような思念をカエトスに伝えてきた。
ミエッカは剣を持っているときもいないときも、強烈な個性を持つ人物だった。カエトスが受けた衝撃は三姉妹の中で随一かもしれない。
(ほかにも驚いたのは、痛めつけることで親交が深まる場合があるということだ。多少なりとも愛情というものをわかってきたつもりだったが、まだまだ理解には遠いということを思い知らされた)
(安心してくれ。俺も理解なんかしてない)
カエトスはため息をつく女神に慰めの言葉をかけた。
ミエッカたち三姉妹に対して誰が一番とかではなく、全員を幸せにしたいと思ってしまっている自分自身が一番理解しがたいのだ。それが彼女たちに対する裏切りであると知っているのに。
(いずれにしろ、一番の懸案が前進したわけだから、順調ではあるな。ここまでは)
ネイシスの最後の一言が、高揚と葛藤の狭間を揺れ動くカエトスの心を現実に引き戻す。
ここまでも難題だったが、次はさらに難しい試練が控えているのだ。
そこで必ずミエッカとナウリアを守らなければならない。
それは本に記されているからやるのではない。自分自身の意思で成し遂げるのだ。
カエトスは決意を新たに階段に足をかけた。
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