ストレイト・ドリイムス ─盲目─

彼女の世界は「真っ直ぐ」だった。どんなに曲がったものでも、彼女の視界を通せば全てが寸分の狂いもなく真っ直ぐに映った。それは正しいものだったのかもしれないが、その「真っ直ぐ」という事実がどれほど歪んでいるのかを、彼女は知らなかった。

彼女の「真っ直ぐ」は、人の歪んだ心をも「真っ直ぐ」に見せていた。

そして――己が心も。

ゆえに、彼女の歩む道は、どんなときだって常に「真っ直ぐ」だった。たとえそれがどんなに曲がりくねっていようとも。

彼女にとっては、全てが「真っ直ぐ」であり、疑いようもなく「正しい」ものだった。


「本当に正しいものなんて、この世にはないんだよ」

「それはただ、貴方にとって正しいものであるに過ぎないんだ」

そう言われても、彼女には理解することができなかった。

彼女はどこまでも真っ直ぐで、この上もなく正しくて、それ故に限りなく歪で、致命的なまでに――歪んでいた。

そして、彼女はそのことに気づかない。気づくことはない。


彼女は己の見たものを、何の疑いもなくありのままに信じてしまうほどには純粋だった。

だから、彼女はこんなことを言う。

「神様がね、優しい優しい神様がね、あなたの生命をとりなさいって言うの」

何の悪意も殺意もなく、憐みもなく悲しみもなく、ただ無感動にこんなことを言う。


彼女の世界。

人は誰しもどこかで曲がっていく。右に、左に。

しかし彼女の世界は曲がらない。曲がることを知らない。ただどこまでも真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに進むだけ。

彼女にはその道が見えている。在るべきものが存在せず、在るはずのないものが存在する。

彼女の前では。


在らざる道が。

彼女の前に。

――続いている。


堕ちていく意識。

その最中でも、彼女の世界は真っ直ぐだった。

ただまっさかさまに、堕ちていく。終わりの見えない道を、ただ真っ直ぐに堕ちていく。

救われる岐路もなく、戻り得る退路もなく、ただひたすらに奈落への道を突き進む。

終わりが来ることは明白。逃れられない宿命であることも明白。何もかもが真っ直ぐでしかない世界に生きる、それしか術を持たない彼女に、もはや生きる道などない。

いつまでも、真っ直ぐではいられないのだ。


それでも。

彼女は。


「そこが、私の辿り着くべき場所なの」


そう言って、何かを諦めたかのように微笑んだ。

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