第19話 化百足

 彼が去年、実家に帰ったとき。

 ひさしぶりに二階の自分の部屋で過ごした。持っていかなかった漫画を久々に読んでいたら止まらなくなった。深夜三時を過ぎている。

 うーん、流石に寝るか。

 一階の洗面台で歯を磨こう。

 明かりをつけず階段を降りる。

 足が止まった。

 階段下の廊下をが走った。

 はくねくねと這って進み、戸も開けず玄関から出ていってしまった。

 姿を説明するのは難しい。

 「全員クビのないムカデ人間が、ワニみたいに走ってく感じ」だそうだ。

 怖いというよりあんまりビックリして吹き出した。

 思わず玄関の扉を開けに行って、途中で「ばかばか、何してんだ俺は」と恐怖が帰ってきたそうだ。

 家中の電気をつけて家族を叩き起こしたが「夢でも見たんだろう」と言われて、また笑ってしまった。

 まさか怪談の定番のセリフを本当に聞く機会があるなんて、と。

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