第18話 落下殺
五月にしては暑い日だった。
彼女は寝苦しさで夜中に目が覚めた。クーラー使おう。
ベランダの窓を開けっ放しだったのを思い出して、いやぁマンションで女の一人暮らししてんのにこれじゃ不用心すぎるだろう、と自嘲しながら窓に手を伸ばす。
網戸がカラリと開いた。
「え?」
異様に痩せこけた老人が立っていた。
腕を掴まれていた。
鎖のように冷たい手だった。
「きゃあっ!」
と叫び、身体は逃げようとするのだが、掴んだ腕の力は強い。グイグイと引かれる。老人は風に吹き飛ばされるようにふわっと柵を越えた。
彼女の身体は柵にぶち当たり、ぐるん、と反転した。
全身が無重力感につつまれる。
時間がゆっくり感じる。
ゆっくりと、死に向かっていることを実感する。
思考は止まっている。
三階だったからか、立木にひっかかったからか、駐輪場のルーフに落ちたことがよかったのか、とにかく一命はとりとめた。
ただ右腕に麻痺が残った。
倒れた彼女の近くに老人の姿はなかった。
老人はつい見つからなかった。
そのマンションは事故物件でもなく、彼女はなにか憑かれるようなことをした覚えもないそうだ。
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