序の二

 変化球につきあってもらったので今度は正真正銘の「怪談」を紹介したいと思う。ところで、ここまで読んでいただいたらわかったと思うが、私が言う「正真正銘」など怪しいものである。思い込みかもしれないし見間違い、幻、勘違いのようなものが記憶の中で都合よく組み合わさり一つの出来事として再構成されているかもしれない。

 従って私たちは話を選ぶさいに「証拠」らしきものを欲する。例えばこんな具合だ……


 毎晩、死んだはずの人間に襲われる夢を見る。

 私は夢の中で逃げ惑う。

 ある晩、とうとう意を決して立ち向かおうとするが、死者の力は強く、私は腕を捕まれ、首を絞められる。

 このままでは死んでしまう、と思った時、誰かが助けてくれた。

 目が覚める。

 首、そして手首に締め付けられたようなアザがあった。

 風もないのに、死んだ父の写真が倒れていた。


 私たちにとって重要な部分は前半の恐怖体験だけではない。「アザ」と「倒れた写真」だ。これは何かの証拠のように感じさせる。幽霊や怪奇現象が実際に存在するのだという証拠のように。


 大方の怪談話はこの「証拠」「証明」は欠かせない。私にしてもそうだし(そうでないと、妄想話か胡乱な思い込みばかり集まる)読む人にとっても大事なものだ。

 というわけで、私はあえてなんら証明も証拠もないような話も取り上げてやろうと思う。天邪鬼なのだ。まあそれでつまらなかったら「ほら、やっぱりね」と言ってくれたらよい。

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