第22話 イルガード、実地研修

 研修の2日目は、イルガードの活動の拠点となる支部の見学や、街の探索を行う実地研修だった。

 

 昨日と同じ時間に料理屋を出て、イルガードの本部へ向かう。

 

 昨日、研修が終わり帰り際にアマリアから「明日は、今日と同じ時間に本部の前に来てほしい」と告げられた。

 その際に、今日の実地研修も教えられた。


 朝市で活気のある中央広場を抜けて、本部へと向かう。

 中央広場から少し歩くと本部が遠くに見えてきた。

 

 かすかに見えた本部の前には2人の人影があり、何か話しているようだった。

 

 その内の1人がこちらに気づいたようで手を振ってくる。

 

「あっ! メイルさーん、おはようございます!」

 その姿、その声は間違いなくリーラの声だった。

 その隣に居るのはアマリアだろうか。


「リーラ。アマリアさん。おはようございます」

 本部の前で待っていた2人に挨拶をする。


「おはようございます。メイルさん」

 アマリアはそう言いながらニコっと笑う。

 

 いつも思うがアマリアの笑顔は本当に綺麗だ。

 

「2人は今日は私服なんですね」

 本部ではいつもかっちりとした制服姿の2人だが、今日は2人とも私服だった。

 

「はい。今日は街を歩くので動きやすい服がいいかと思って」

 そうアマリアが告げると、履いていたスカートの裾を両手で少し上げておどける。

 

「なるほど」

 そういや、昨日アマリアから「明日は歩きやすい服装で」と言われていた。


「今日は結構歩きますからね。メイルさん覚悟していてくださいね!」

 こちらはズボンを履いリーラがその場で腕を振って足踏みをしている。


「メイルさん。今日はこれを持っていて下さい」

 そういうと、アマリアは持っていた手提げかばんから地図を取り出し渡してくれた。

「これは?」

「イルガードが作っている団員用の地図です。各支部の担当エリアや、支部の場所など、活動に必要なことはこれに全部載っています」

「そんなのあるんですね」

 手渡された地図を見てみると、支部の担当エリアごとに色分けされた地図だった。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「「はい」」

 リーラと私は元気よく返事をした。

 

 まず一番最初に、本部から最も近い南支部のエリアを巡ることにした。


「南支部は、スプリンとリッシュの街境を担当している支部になります。本部も南支部のエリアの中に入っていますが、本部の周辺は本部に所属する団員が担当しているので、本部周辺を除いた街境で起こる事案を担当しています」

 

 歩きながらアマリアが説明してくれる。

 

 スプリンとリッシュの街境は直線のため、南支部の担当エリアは横一線に広い。

 また、スプリンとリッシュの民は、元来仲が悪いらしく、度々争いを起こしているのだと教えてくれた。他の支部からは「ケンカ仲裁支部」と呼ばれているらしい。

 

 その後、支部の拠点の建物の場所を確認して次の場所へと移動する。

 

「いま歩いているエリアが、西支部になります。西支部は、労働者が多く居住しているエリアなので、中心地に比べると治安は悪くなります。そのため、西支部はイルガードの中でも2番目に忙しい支部だと言われているんですよ」


「2番目ってことは、1番忙しい支部ってどこなんですか?」

 率直な疑問を投げかけてみる。

 

「やっぱり朝市や人が多く集まる、メイルさんが所属する中央支部ですかね~」

 アマリアの隣を歩くリーラが答えてくれる。

「なるほど……」

 心のどこかでは思っていたが、どうやら私は1番忙しい支部に配属されるらしい。

 

 西支部の拠点の建物の場所を確認し、次の北支部へと向かった。

 

 北支部は王宮にいた時窓から見えていた貴族街が担当の支部らしい。

 拠点になる建物も、貴族街に馴染むよう他の支部よりも豪華な建物だった。

 

「この北支部は、王宮の後ろ側に広がる貴族街を担当する支部になっています。この支部は、貴族街ということもあって治安はとても良いです。ただ、飼い猫の捜索や、野生動物の駆除など、普通ではあまりない様々な依頼が舞い込んでくるので、忙しいといえば忙しいですね……」

 アマリアは苦笑いしながら教えてくれる。


「他の支部からは貴族の雑用係なんて言われてるといないとか……」

 リーラも苦笑いしながら噂話を教えてくれた。

 

「北支部も大変なんですね……」

 北支部の団員達の苦労が目に浮かぶ……「次、王宮に帰ることがあれば貴族達の態度を改めさせなければ……」

 

 私は心の中でそう呟き、固く誓った――。

 

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