第23話 ゴールと、ピンバッジと、スタートと。

「それじゃあ、次は東支部に向かいます。でもその前にお昼ご飯にしましょうか」 

 北支部の担当エリアを、東支部に向かい歩きながらアマリアがそう告げる。

「そうしましょう」

 アマリアの提案に私も同意する。

 太陽はすっかり天に昇り、時刻は13時を少し過ぎたくらいだろうか。

 

 東支部に向かう途中にあった料理屋で昼ごはんを食べる。

 食事が終わり、少し休憩をして店を出る。

 

 店を出るときに見た時計では、時刻は午後2時前になっていた。


「それでは、改めて出発!」

 リーラが元気よく言う。

 北支部のエリアから東支部のエリアまではあと少しだ。

 

 このハルシュという国は楕円形で、立てた卵のような形をしている。そしてほぼ真ん中の所でスプリンとリッシュの街が分かれている。なので、スプリンの街だけみると半円の形をしている。

 

 半円の直線部分の南支部のエリアから西支部、北支部と国土の外周をなぞるように歩いてきて、残すは東支部と中央支部だけだ。

 

 料理屋から少し歩くと、東支部のエリアに入った。


「ここから東支部の担当エリアになります。東支部のエリアは、近隣諸国と繋がる街道の入り口があり、他国との貿易の拠点になっています。行商や物資の運搬などで他国の人が多く訪れるので、宿泊所なども多く存在しています。ここの支部では、国境を警備するハルシュ軍と共に、主に、パトロールなど治安維持のための活動をしています」

 アマリアが簡潔に説明をしてくれる。


「あとは、観光や貿易でくる他国の人の案内所の役割もあるんですよ」

 今度は、リーラがそう教えてくれた。


「そうなんですね。さっきから行商人が多いと思ったらそういう事だったんですね」

 東支部のエリアに入った時から、背中に荷物を背負った行商人とすれ違うことが多かったので気になっていた。


「せっかくだから、街道の入り口も見に行きましょう」

 リーラが提案する。

「そうね。ここまで来たし、見に行きましょうか。メイルさんもいいですか?」

 アマリアがリーラの提案に同意し、私に聞いてくれる。

「ええ、もちろん。行きましょう」

 私もリーラの意見に賛成した。

 

 そこから歩いて20分ほど歩くと、大きな門が見えてきた。


「あそこに見える門が、街道の入り口です。門の所では軍が入国の検問を行っているんですよ」

 アマリアが指さした先では、軍人が入国者の荷物などのチェックを行っていた。

 

 ハルシュの国の周りには複数の国があり、そのなかでもハルシュは、イルド王が貿易を活発に行うようにしたので、行商人などが多く訪れているらしい。

 人の流れが活発になると、それに比例して治安も悪くなっていくので、軍は力を入れて念入りに入国者を監視しているようだ。

 

「おや。アマリアにリーラじゃないか」


 街道の入り口を見ていた3人に、突然後ろから声が掛かる。

 3人がほぼ同時に振り向くと、男性が数人立っていた。

 その胸にはイルガードのピンバッジが付けられていた。


「こんにちは、スパーラさん。お疲れ様です」

 アマリアがぺこりと頭を下げる。

 

 話しかけてきた男性はスパーラというらしい。

 

「メイルさん。こちらは東支部スパーラ班の班長、スパーラさんです」

 リーラが紹介をしてくれる。

 スパーラは私を見て会釈をしてくれた。


「はじめまして。メイルといいます」

 私も頭を下げる。

 

「それで、今日はどうしたんだい?」

 スパーラがアマリアに尋ねる。

 

「メイルさんが、この度イルガードに入団されて、中央支部のギース班に配属されるので、実地研修をしていました」

 アマリアが簡潔に説明してくれる。

 

「なるほど。ようこそイルガードへ。配属はギースの所なんだね。隣の支部だし仲良くやろう」

 そういうと、スパーラがにっこりと笑って握手を求める。

 

「こちらこそ。よろしくお願いします」

 私も笑顔で握手を返した。

 

「それじゃあ、パトロールに戻るよ。メイル君。また会おう」

 そういうとスパーラは班員を連れて歩いていった。

 

 アマリアによると、中央支部と東支部は仲が良いらしい。

 特に、ギースとスパーラは仲が良く、お互いの班が忙しい時は、助け合ったりする仲なのだそうだ。

 

 ―—その後、東支部の拠点の建物を見学し、いよいよ最後の中央支部のエリアへと向かう。

 時刻は夕方の4時を示そうとしていた。

 

「次は、いよいよ最後の中央支部の担当エリアを回っていきます。ここはメイルさんの担当エリアになるので、念入りに見ていきましょう」

 アマリアが少し気合いの入った声で話す。

 

 東支部の拠点から歩いて20分ほどで、中央支部の担当エリアへと入った。

 

「ここ中央支部は、王宮の城下街として、中央広場や軍のスプリン管理局がある商業の中心地です。人が多く集まるので、日々様々なトラブルにイルガードが対応しています」

 アマリアが説明をしてくれる。


「イルガードが対応する案件の中の半分近くは中央支部で起こっているんですよ~!」

 今度はリーラが教えてくれる。

 

「そうなんだ……」

 一番忙しい支部だと聞いてはいたが、さすがに具体的に聞くとちゃんとやれるか不安になってくる。

 

 スプリンの管理局の場所や班長ギースの居酒屋などを紹介してもらいながら中央支部の拠点へと向かう。

 時刻は5時を少し過ぎようとしていた。

 

 フェヴィルからは拠点がどのあたりにあるかは聞いていたが、実際に行くのは今日が初めてだ。

 

「ここが中央支部の拠点になります」

 中央広場から歩いて少しの場所に拠点の建物はあった。

 普段、朝市の時と本部に行く以外はあまり街を出歩かなかったので、この付近に来るのは初めてだった。

 

 拠点になる建物は、表の看板に「イルガード中央支部」と書かれており、その下にある小さな看板には「お気軽にお入り下さい」と書かれていた。

 

「それじゃあ、入りましょうか」

 アマリアが言う。

「はい」 

 他の支部でも、各拠点に入って、団員に挨拶をしてきたので、中央支部のこれから仲間となる団員に挨拶だ。

 

「それじゃあメイルさんどうぞ!」

 リーラが扉を開けてくれる。

 

「失礼しまっ……」

 入口から一歩足を踏み入れた瞬間のことだった――。


「「「メイル!!! ようこそ中央支部へ!!!」」」


 中から沸き起こる拍手と歓迎の声。

 私は一瞬の出来事に驚いたが、すぐに状況を理解した。

 

 建物の中には、先日の剣の稽古で出会ったギース班の班員達や、本部で出会ったギース班長、そしてフェヴィルも居た。

 

「メイル、遅かったな。待ちくたびれたぜ」

 フェヴィルが二カっと笑う。


「メイル。ようこそ中央支部へ」

 今度はギースが歓迎の言葉をかけてくれる

 

「驚きました。皆さんが居るなんて……」

 後ろを振り向くと、アマリアとリーラが笑っている。「最初から予定されていたんだな」と、その時気付いた。

 

「実地研修も、もう終わりだろ? そして、実地研修の最後はメイルの歓迎会だ」

 ギース班長がニヤリと笑う。

 この実地研修が終われば、いよいよ本格的に活動を始めることができる。

 

「ギース。歓迎会の前に大事なことがあるだろ?」

 フェヴィルが笑いながらギースに話す。


「わかってるよ。アレを持ってきてくれ」

 ギースが班員に何か指示をする。

 班員の1人がギースに箱を持ってくる。

 

「全員整列!」

 フェヴィルが号令をかけると班員達は整列をする。

「メイル。そこへ」

 フェヴィルは、私に立ち位置を指示し、整列に加わる。

 

 私は言われた場所に立ち、ギースと相対する。

 

「これより、メイルのイルガードへの入団式を行う。メイル。貴殿をイルガード中央支部ギース班への所属を許可する」 

 ギースがそう宣言すると、班員達から拍手が起こる。

 一緒に居たアマリアやリーラも整列に加わり拍手をしている。

 

「そして、メイルにはイルガード団員の証であるピンバッジを授与する。これからの活躍に期待しているぞ」

 ギースは手に持った箱からピンバッジを取り出し、渡してくれる。

 

「ありがとうございます。精一杯頑張ります」

 突然、サプライズで始まった入団式だが、無事にピンバッジを貰い、ギース班の仲間入りをすることができた。

 

「メイルさん、おめでとうございます」

「いよいよイルガードの仲間入りですねっ!」

 アマリアとリーラが声を掛けてくれる。

 

「2人ともありがとう。しかし驚いたよ」

 そういうと2人は笑って、

「フェヴィルさんから、メイルの歓迎会を兼ねた入団式をするから、ここに来るのは一番最後にしてくれって頼まれまして。他の新入団の方は簡単にバッジの授与だけ行うことが多いんですけどね」

 なるほど。フェヴィルが企画していたのか。

 

「歓迎会を始めるぞ! 酒は店から持ってきた。好きなだけ飲んでくれ」

 普段は、居酒屋を営むギースが、歓迎会の開会を宣言する。


「さあ、メイル、アマリア、リーラ。そんなところで立ってないで座った座った」

 フェヴィルが私達を席に着かせる。

 

「それでは、メイルのイルガード入団を祝して、かんぱーい!」

「「「かんぱーい!!!」」」


 スプリンの街を一周する実地研修のゴールは、ここ中央支部だった。

 そして、この中央支部で、団員の証であるピンバッジを貰うことができた。それと同時に今日、私のイルガード団員としての生活がスタートした――。

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