第12話 模擬試合、2回戦

 模擬試合2回戦の最初は、フェヴィルとグリークの試合から始まった。

 

「ウォリャー!」

 20代後半で、がっちりとした体形のグリークが、気合いの声を上げてフェヴィルへと模造剣を打ち込む。

 その攻撃をいとも容易くフェヴィルは左にかわす。

 そして、かわした勢いそのままに、素早く右手でグリークの右脇腹へと寸止めした。

「そこまで! 勝者フェヴィル!」

 審判が叫ぶ。


 剣の名手であるフェヴィルにとっては造作もないことかも知れないが、やはりその剣さばきには目を見張るものがある。

 

 2回戦を勝ったフェヴィルは、上位4人に入ったため、1番乗りで来月のイルガード班別対抗武道大会へ出場することになった。

 まあ、大方の予想通りというところだろう。

 

 その後2試合が終わり、2回戦最終戦の私の番がやってきた。

「では、2回戦最終戦はフーゲル対メイル」

 フェヴィルがそう告げると、私とフーゲルは円の中へと入る。

 

 フーゲルは私と同い年くらいで、剣の腕はギース班の中でも上位に入ると、先ほど受付から中庭へ帰ってくる途中にフェヴィルが教えてくれた。

 一見、好青年に見えるいでたちだが、1回戦では激しい攻撃を見せていた。

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

 フーゲルは微笑みながら握手を求める。

「ああ。よろしくね」

 返事をしてフーゲルの手を握ると、強く握り返してくる。

 微笑みの下で絶対に負けないという思いがあるのだろう――。

 

「準備はいいな。それでは始めっ!」

 フェヴィルが模擬試合の開始を告げる。

 

 開始の合図とほぼ同時にフーゲルが突きを繰り出してきた。

「ウッ!」

 一瞬対応が遅れたが身体を捻り、かろうじで回避する。


 その後も、フーゲルは何度も突きや斬撃を繰り出してくる。

 手数の多さに押され気味ではあるが、冷静に対処する。

 

 以前、ロータスから剣技を習っていた時、間合いの大切さを教え込まれた事を思い出す。

 相手からの攻撃に押されている時は、冷静に間合いを取り相手の隙をつく。数少ないチャンスをものにすることが剣技には求められるそうだ。

 

「セヤッ!」「ハッ!」

 フーゲルは休む間もなく攻撃を続けてくる。

 フーゲルが攻め、私が守る。そんな膠着状態のなかで、私は思い切って動きに出ることにした。

「イヤッ!」

 フーゲルが次の斬撃のために模造剣を振り上げた一瞬、私は後ろに1歩下がった。

 そのまま振り下ろされた剣は空を切る。

 

 1歩下がることでフーゲルと間合いができ、フーゲルの連続攻撃も止んだ。

 そして互いに模造剣を構えながらのにらみ合いになる。

 

 次の一手はもう決めている。

 

 にらみ合いにしびれを切らしたフーゲルの手元が僅かに右側に動く。

 そして次の瞬間、フーゲルは何も言わず間合いを詰めて斬撃を繰り出した。

 私が斬撃を模造剣で弾き返すと、フーゲルはすかさず次の一手を出そうとした。

 

 これを待っていた。

 次の一手を出すした後、この一瞬の隙がチャンスだ。

 

 フーゲルは私の右肩に向かって斬撃を繰り出す。

 寸止めだから当たることは無いが、模造剣は相当な速さで振り下ろされていた。

 そして、私はそれを素早く左にステップしてかわし、模造剣を叩き落すように上から弾く。

 

「なっ!……」

 フーゲルが驚きの言葉を出した時には、すでにフーゲルの模造剣は床に落ち、首元に私の模造剣があった。

 

「そこまで! 勝者メイル!」

 一瞬の隙をついた勝利だった。

 

「なぜだ。完全に僕のペースだったのにっ!」

 悔しそうにフーゲルが話す。

「ただ攻め続けるだけでは勝てないということだ。メイルは冷静にお前の隙を狙っていたんだよ」

 審判のフェヴィルがフーゲルにそう告げる。

「次があれば絶対に負けない……」

 フーゲルはそう言うと、団員達が作る円を抜けて本部の建物へと入っていく。

 

「よし。これで武道大会に出るメンバーが決まったな。俺と、ガラン、ディルシーそしてメイルだ」

 そうフェヴィルが告げると、団員から拍手が起きる。


「あと、メイルは先ほど入団申請をしてきたから、武道大会までには正式に加入できる予定だ。ギース班への配属も決まっているから、みんな色々と教えてやってくれ」

「「「はい!」」」

「改めて、よろしくお願いします」

 私は団員に向かって頭を下げる。

「メイル。よろしくな!」「分からないことは何でも聞いてくれ!」「武道大会頑張ってくれよ!」

 再び拍手が起き、団員から口々に歓迎の言葉を浴びせられる。

 

 王宮では決して触れることの無かった、この街の、この国の民の温かさに触れた瞬間だった――。

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