第6話 王子は、仕事と宿を手に入れた

 食事を誰かと食べるのはいつぶりだろうか――。

 少し食事の手を休めて考えてみる。

 私が小さい頃に一度、ロータスが部屋に来て一緒にご飯を食べたことが、誰かとご飯を食べた最後の記憶だ。

 

 王宮では、いつも食事は自分の部屋で摂っていた。

 イルドは晩餐や会食で大勢の人と食事をしていたが、私は公には出る事が許されない身であったので、常に一人で食事をしていた。

 

 さすが王宮とあって一流の料理人が作ったご飯は出てくるもの全て、とても美味しかった。

 

 ただ、今こうして、フェヴィルやクレアと笑いながら食事をしているだけで、目の前の食事は王宮では食べたことのない美味しさを感じた。

 

 理由はもう、わかっている。

 私は憧れていたのだ。

 

 人は憧れていたものを手に入れると格別の幸せを感じる。

 今まさに、この状況が私の憧れそのものであった。

 だからこそ、この料理はどんな料理よりも美味しく感じるのだろう。

 

「……ル、……イル、メイル!」

 そんな事を考えていると目の前に座ったフェヴィルから名前を呼ばれた。

「は、はい」

 慌てて返事を返す。

「いきなり黙り込んでどうしたんだ? どこか体調でも悪いのか?」

「いえいえ。少し考え事をしていました」

「そうか。ならいいんだ。冷めちまうから早く食っちまいな」

「はい!」

 

 食事も終わりに近づいた時、フェヴィルが私に問いかけた。

「そういやメイル。仕事を求めて来たっていってたが、仕事は見つかったのか?」

「いや、実はまだで……」

「そりゃ大変だな。どんな仕事を探してるんだ?」

「特にやりたい仕事もないので、街を歩いて決めようと思ってます」

「なるほど。今日の宿は取ってあるのか?」

「あっ……忘れてました……」

「あら大変。もう遅いから宿の受付も終わっているわ」

 クレアがフェヴィルの顔を見ながらそう話した。

「そうだな。メイル。今日はうちに泊まっていきな。2階の部屋が空いているからそこを使いな」

「いいんですか?」

「ああ。今日の礼だ。遠慮なく泊まっていってくれ」

「ありがとうございます!」


 食事も終わり、店の片付けに入る。

 クレアは今日の売り上げの計算、フェヴィルは皿洗い、私は客席の机を拭き終えた後、皿洗いを手伝うことにした。

 

「なあメイル。さっきやりたい仕事は特にないって言ってたよな?」

 隣で皿洗いをしながらフェヴィルがそう尋ねた。

「はい。与えられた仕事を一生懸命やろうと思っています」

「ほう。そりゃいい心構えだ。なら、うちの店で住み込みで働かないか?」

「えっ?」

 突然の問いかけに戸惑い、思わず聞き返してしまった。

「なあクレア。いいよな?」

 フェヴィルは入口の勘定場で売り上げを計算しているクレアに聞こえる様に同意を求める。

「ああ。私は構わないよ。最近お客さんも増えてきて、そろそろ誰かを雇わないといけないと思っていたからね」

 クレアはあっさりと同意した。

「よしきた! メイル。どうだ? 働いてくれるか?」

 

 今日働いてみて、料理屋での仕事もいいなと感じていたので迷うことは無かった。

 それに、フェヴィルとクレアも私を雇ってもいいと思ってくれているのだ。これ以上のことはない。

 

「はい! もちろんです。よろしくお願いします!」

 私はすぐに返事を返した――。

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