第4話 美味しいご飯は、人助けの後に

 女性に肩を貸しながら、なんとか料理屋の前まで辿り着く。まだ開店前なのだろうか店の扉には「CLOSE」の看板が掛けられている。

 

 店の扉を開くと、厨房に居る男性から声が掛かる。

「クレア。遅かったな……ってあれ? どうしたんだ?」

 この女性はクレアというらしい。そして厨房に居るのが夫だろうか。驚いた様子で声を掛けてくる。

「さっき転んで腰を打ってしまって、この人が立てなくなった所を助けてくれたんだよ」

 女性は、夫に何が起こったかを簡潔に説明する。

「なるほど。帰りが遅いと思ったらそういうことだったのか」

 そういうと男性は厨房を出てこちらに向かってくる。

「俺はフェヴィル。こちらは妻のクレアだ。助けてくれてありがとう」

 フェヴィルはそういうと右手を差し出したので、こちらも右手で握り返す。

「私はメイルといいます」

 握手を終えると、フェヴィルはクレアの肩を持ち、クレアを厨房近くの客席に座らせた。

 

 フェヴィル……。どこか見覚えのある名前と顔だった……。

 そんな事を考えていると、クレアから声を掛けられた。


「そういやメイル君。もう朝ご飯は食べたかい?」

「私の事はメイルと呼んで下さい。朝ご飯は、実は――」

 私は2人に朝ご飯をこの店に食べようと思っていたことを話した。

「なんだ。それはちょうどよかった。ご飯食べていきな!」

 フェヴィルは二カッと笑いそう言った。

「そうだね。助けてくれたお礼だ。ご馳走するよ!」

 今度はクレアが笑いながらそう言った。

 

「さて。開店準備だ! すぐにご飯を作るから、メイルはそこに座って待っといてくれ」

 フェヴィルは空いているテーブルを指さし、私はそれに従い客席に座る。

「そうだね。私も準備を……イタタッ!」

 クレアも準備のために席から立ち上がろうとするが、腰がまだ痛いのかその場でうずくまってしまった。

「クレア! 大丈夫か!」

 フェヴィルが駆け寄る。

「ああ、平気さ。」

 そう答えたがクレアは本当に辛そうだ。

「今日はもう店を休もう」

 フェヴィルはクレアにそう告げた。

「何言ってんだい。お昼になったら、うちのご飯を楽しみにお客さんがお腹空かせて来てくれるんだよ。休む訳にはいかないよ」


 このお店は、朝市で聞いた話しでは、美味しくて常に繁盛している店だということだった。

 常連も多いらしく、フェヴィルやクレアの人となりの良さも人気の理由だという。

 

「そうはいっても、そんな体で料理は運べないだろう」

「少し休めば大丈夫さ! アイタタ……」

 立ち上がろうとして再びしゃがみこんでしまうクレア。

 クレアは強がっているが相当我慢をしているように見える。しかし、お店を休みにすることはどうしても避けたいという思いが伝わってきた。


 私ができる最善のことは何か。こんな事になったのも何かの縁だろう。

 よし決めた――。

 

「あの。私に店を手伝わせてくれませんか?」

「んっ!?」「えっ!?」

 フェヴィルとクレアが同じタイミングでこちらを向く。

「クレアさんに休んでもらって、お店も開く。こうなったのも何かの縁です、私に手伝わせて下さい!」

 

 私がそういうと、2人はしばらく何かを考える様にお互いを見つめあう。

 そして、何かを決意したのか、フェヴィルがクレアの目を見て頷いた。

「メイル。本当にいいのか?」「忙しい仕事だけど大丈夫かい?」

 フェヴィルとクレアは心配そうに尋ねる。

「ええ、もちろんです。その代わり、終わったらとびきり美味しいご飯をご馳走して下さいね!」

 私は2人の心配を吹き飛ばすような笑顔で、そう答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る