第2話 旅立ちの日、本日は晴天なり

 最低限の荷物を込めたリュックを背負い、王宮の最も落ち着ける場所である自室を後にした。

 20歳になった昨日の夜に、イルドから街に出ろと言われてから実感の湧かぬまま今日を迎えてしまった。

 とりあえず挨拶の為にイルドの執務室へと向かう。

「父上。メイルです。おはようございます」

 扉の前で一声かける。

「メイルか。入りなさい」

「父上。おはようございます」

 今度は顔を合わせて挨拶をする。

「準備はできたのか」

「はい」

「そうか。街での暮らしは大変なこともあるだろう。もし、どうしようも無くなったら王宮に戻ってきなさい」

「ありがとうございます」

 国王イルドである前にイルドは私の父だ。この言葉は国王の言葉ではなく父の言葉なのだと感じた。

「それでは父上行ってきます」

 しっかりと身を正し頭を下げ、執務室を出る。


「メイル。おはよう」

 執務室の扉を開けると、見慣れた顔の男に声をかけられる。

「ロータス。おはようございます」

 この男はロータス。国王イルドの側近として、政治や国王の職務のサポートを行っている人物だ。ハルシュ軍の将軍でもあり、イルドが最も信頼している側近であると言ってもいいだろう。

 ロータスは初老で背が高く精悍な顔つきで、将軍に相応しい風貌をしていた。

 私の剣技を教えてくれていたのもロータスで、小さい頃からの付き合いになる。


「国王より街に出ると聞いてな。渡したいものがあったのだ」

 ロータスはそういうと小さな箱を私に渡した。

「ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「もちろんだ」

 箱を開けてみると……中には私の名前が彫られた万年筆が入っていた

「書くものはいつでも必要になろう。持っていきなさい」

「ロータス。嬉しいよ。ありがとう」

「元気でやるんだぞ」

 そういうとロータスは手を差し出す。

 私もその手をしっかりと握り、ロータスへ微笑む。

 

 ロータスと別れ、王宮の裏門へと向かう。

 さすがに正門から一般庶民(本当は王子だが)が出てくるのは不自然なので、王宮への荷物搬入などに使われる裏門から出ることになっていた。

 

 裏門の憲兵にも話が通っていたようで、すんなりと外に出られた。

 いままで何度も夢焦がれた王宮の外に、こんなにあっさりと出ることができ、どこか夢のようだと思っていたが、太陽の光は容赦なく降り注ぎ、体全体に熱を感じているので夢ではないだろう。

 

 まずは、生活の基盤となる家や仕事を探さなくては。最初は宿に泊まりながら家や仕事を探すことになるだろう。

 王宮の裏口から表へと回る道を歩きながら考える。

 

 とにかく今日は、街をゆっくり歩いてみることにしよう。

 自室から見ていると小さく感じていた街は思っていたよりも広そうだ。

 

 それにしても、旅立ちの日の天気としては十分すぎる、よく晴れた日だった――。

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