私はまだ未熟だった
「先生、ありがとうございました。」
図書室で原田と笑い合った次の日、早速先生にお礼を言いに行った。
「あらあら、お礼なんていいのよぅ!殆ど押し付けたみたいだったから鬱陶しいと思われてないか心配だったの!ごめんね、気分を悪くさせていたら謝るわ」
「いえ!あの、むしろお礼を言いたくて…。本を貸していただいて読むようになってから、その、自分で言うのも恥ずかしいのですが、相手の気持ちを考えられるようになったというか…今まで出来ていなかったというのも情けないんですけど、あの、えっと、」
「そっか、そっか!よかったわ、ちゃんとおまじないが効いてくれたみたいで!」
うふ、と口に手を当てて小さく笑う。
「まだ、心はしんどい?」
「…いえ、もう大丈夫です!」
満足げににっこり笑って頷くと、先生は私の頭に手を乗せた。
「水泳をしていたときの自分以上に好きになれる新しい自分が、早く見つかるといいわねぇ」
応援してるからね、という言葉をいただいて先生とは別れた。自分の中に、エネルギーが渦巻いているのを感じて、早くこれを消化させたいと思った。
そこでふと気付く。先生は区切りを感じたのか、今日は本を貸してこなかった。であれば、図書室に行く理由も無いのでは?今までは本を読みながら原田と共にのんべんだらりと過ごしていたが…。せめて原田には言うべきだろうか。「今日は図書室に行かずに帰る」と?いやいやいや、別に原田は私に会いに来ていたわけではないだろう。彼氏彼女の関係でもないのにそれを伝える必要があるだろうか。
「いや、ないな。」
原因不明な少しの罪悪感を抱えながらその日、私は家に帰った。
事件が起こったのは、翌日の朝休みだった。
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