変化と成長

「最近よく本読んでるけどどうしたの?」


頻繁に言われるようになった。「変わったね」と。最初に本を貸し出されてからすでに二ヶ月が経っているが、未だに先生は私に本を貸してくる。ジャンルはバラバラだったが、どれもまぁ普通に面白いと思う。以前は水泳一本で読書なんてそれに関するものぐらいだったから、頻度も合わさって珍しいのだろう。


そして、もう一つ。

「逢坂いる?」

「逢坂ちゃーん、呼ばれてるよー」


教室に、あいつ…原田が来るようになった。教科書を借りに。そしてそれに伴って、


「逢坂ちゃんって原田と仲良かったの?」

「いや、全然…」

「あ、そうなの?やっぱそうだよねぇ、二人、対極って感じだもんね!」


こういった探りを入れられることも多くなった。今私に話しかけてきた女子は前年度に原田と同じクラスだった子だ。そして、原田と噂をされていた子でもある。もちろん恋愛事の。


多分、原田にはそのつもりは全く無かったのだろうが、その女子は原田と接する中で迂闊にも恋心を抱いてしまったのだろう。

私とは関係ない所で勝手にやっておいてほしい…。こっちにはそのつもりなんて皆無に等しいというのに、牽制をかけられるとは何事か。


「はぁ…」

「幸せ逃げるぞー」

「誰のせいだよ…」

「え、まさかの俺?」


ということで、直接言うことにした。これを人目がある廊下などで話してしまっては噂の餌食となるだけだということぐらいは私にも分かる。なので、必然的に図書室で話すことになるのだが…


「教室に来ないでほしいんだけど」


一言言うだけなのに、口は縫われているかのように開かない。以前なら、気にもしなかったことが気にかかるのだ。それを言ったら傷つけてしまうかな、とか、どんな風に思うだろう、とか。言い方を変えればいいかな、でもどう言えば傷つけずに伝わるだろう…。


「なんかお前、変わった?」

「え…」


最初に会った時、と話し始めた。


「お前はなんかこう、幼い気がしたんだよ。思ったことがそのまま口に出てる感じで。でもなんか最近は考えてるっていうか…なんだろ、んー、考えすぎ?に近いかも」

「(幼いって…)」

「本読むと変わんのかな?とにかく、最近のお前は相手のことを気遣うようになった!」


…そうだろうか。いいことなんだけどちょっとなー、と頬杖をついている原田を呆然と見つめる。


「ぼんやりしてる」


そうかも。ついさっきまでたくさん考えてたから疲れたのかな。


「はぁ…もういい」

「何がだよ」


体を縮めて押し殺すみたいに笑う原田は、私よりもよっぽど相手のことを考えているように見えた。


「私、変わったのかな」

「悪い変化じゃねーよ、多分。成長だと思うけどな」

「そっか。本のおかげかな?」

「さぁな。そしたら逢坂、先生に頭上がんねぇなー」

「そうかも。お礼言いに行かなきゃ」


二人して机に突っ伏しながら、くすくすと笑う。

出会って二ヶ月とちょっと。初めて、二人で笑いを共有した日だった。

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