嵐のような人
ページを捲る音だけが響いている。図書室は相変わらずの静けさを保っていて、しかしそれが寂寥感だとかを感じさせることは無かった。その心地よい空間で活字を追う時間は、私の荒んだ心が落ち着いていくのを実感させた。
【貴方に、私の気持ちが分かるはずないでしょう!?】
「そりゃそうだ」
ガタタッ
「ぅうおわぁ!?えっ、え、??」
しー、と人差し指を立てて口に当てる定番のポーズをとり、何事も無かったかのように隣の椅子を引く。あっ本取られた。いやそうじゃなくて。
「…いなかった、よね?」
「んー、今忙しいから話はまた後でにして」
なんだこいつ、と口には出さずとも顔とオーラは物語っていたと思う。
いきなり現れて人の読んでいた本を取り、挙句の果てに会話を放棄とは。我儘と自由奔放を極めてるな…と好感度をマイナスに振り切らせていると、いきなり会話を始めた。何もかもが突飛である。
「他人の気持ちなんてそりゃ分かんねーよなー。自分のだっていまいち分かんねぇ時があんのに」
それは、主人公の男の子が憧れのお姉さんの気持ちに寄り添おうとして失敗し、キツい言葉をぶつけられる今開いているページのシーンについてだった。
「…そうだね。」
妙にホッとした。かなり不思議な人だから、人の気持ちぐらい読んでいてもおかしくない。でも、今の言葉に安心した。それは多分、自分と同じ思春期の人間だということをぼんやりとでも認識できたからだと思う。
「お前、今日は歌ってなかったな。」
「本の中身、入ってこなくなるし」
きょとん。そして笑い出す。
「理由それだけかよ!」
なぁ、お前何組?名字は分かるんだけどさー、フルネームは分かんねぇ。あ、俺の名前は──
なんだか、どっと疲れた。結局あの後自己紹介をして満足したみたいで、すぐどこかへと去っていった。私は学年でも目立つ方ではないから、名前を知らないと言われても特に不快だとは思わなかった。むしろ、分からないことを誤魔化さずに素直に聞いてくれたことは好感が持てた。
「あ、俺の名前は
「…」
「ほら、相手が名乗ったら名乗り返すのが礼儀じゃないんかー?」
「…
よろしく。
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