第一章二十二話 黒犬と幼女
城から次々と転がり出てくる貴族達。
ドレスが汚れるのも構わずまろび出てくる異様な光景に、周囲の衛士達は即座に異常事態を察した。
入口近辺を巡回していたミクス、ルクスの二人もすぐに異変に気付いた。
「ちょいちょい、ルー兄。なんかヤバくない?」
「ああ。こんなことは初めてだ。とにかく会場へ急ぐぞ、ミク!」
「ストップ! あの人波に突っ込むのは無理だよ。行くなら裏口」
ルクスとミクスはパニックの収束を他に任せ、裏口へ向かった。
そうして辿り着いた場所で見つけたのは、眼を背けたくなる凄惨な死体であった。
「なっ!? この二人は城内警備の……。なんと惨い」
「喉を斬られてる。これ、素人の仕業じゃないよ。とにかく中に――ルー兄、危ない!」
咄嗟にミクスがルクスの腹を蹴り飛ばした。
「おぐぁっ!? い、いきなり何をおおぉっ!?」
「これ、お城の番犬……なわけないよね」
引き攣った笑いを見せるミクス。視界には現実味のない光景が映っていた。
先程までルクスとミクスが立っていた場所に、巨大な頭部が蠢いている。犬のようでもあるが、数メートルの体躯を持ち、頭部が二つも存在する黒犬など見たことがない。
その大口から、グチャグチャと耳障りな咀嚼音が漏れていた。
「な、なんだこの怪物は!? それに、死体を食べているのか?」
「うぇ……さっきご飯食べたばっかりなんですけど~」
「怪物? このドクター・アトラスの愛犬『ポチ』を怪物とな? 実に嘆かわしいのう」
犬が喋った、わけではない。
視線を上に向けると、巨大な犬の背中に小柄な少女が乗っていた。
「こ、子供? 迷子だろうか?」
「そんなわけないでしょ。ルー兄、食べられかけた自覚ある? 状況から見て飼い主さんだと思うよ」
二人はいつもの調子だったが、距離を取りつつ腰から剣を抜いていた。今の状況が問答をしている場合ではないと本能で理解しているのだ。
一歩間違えば、今頃咀嚼されていたのは自分達だったかもしれない。そう考えるだけで思わず全身に寒気が奔った。
そして、そんな異常な環境を際立たせている奇怪な少女。大きな白いマスクで口元覆っているが、間違いなく二回りは歳下だろう。
だが、そんな見た目に似合わぬ老獪めいた口調で少女は嗤った。
「カッカッカ、無礼じゃが物分かりはよいと見えるのう。ポチよ、この者等はまさに……あ~、ん~、思い出したぞ。めいんでぃっしゅ、というやつじゃ。残さず食べるのじゃぞ。でないと、ワッシのように大きくなれぬぞ」
「どうしよう、ルー兄? 突っ込みどころが多過ぎるよ~」
「じ、自分に訊くな! とにかくこの場を切り抜けるぞ!」
身構える双子へ、黒き巨犬が襲い掛かった。
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