第一章十四話 二人の我儘

「して、メイルの容体は?」

「申し訳ございません。ある程度は回復しましたが、会食には間に合いそうもありません。私が付いていながら……厳罰は覚悟しております」

 膝を付き、深々と頭を下げるミレアの姿を見て、タナトスは息を吐いた。

「頭を上げよ、ミレア。メイルのことだ、大方自分の我儘にお前を付き合わせたのだろう?」

「…………」

 全てお見通しであった。

 あの姫にしてこの王あり、といったところか。

「それに、政務とはいえメイルに負担を掛けてしまった儂にも責任はある。咎められこそすれ、どうしてお前を責めることが出来よう」

「タナトス様……」

「ふむ、しかし弱ったな。さすがに今宵は代役を立てるわけにもいかぬぞ」

「いえ、私にやらせて下さい。せめてもの償いをせねば気が済みません。無論、私に出来る程度のことしか出来ませんが」

「お前の能力を疑っているわけではない。だが、これ以上お前に頼っては王族として示しがつかぬというもの。その気持ちだけで十分だ」

 その時、二人の話に割り込む者が現れた。

「――それはミレアに対して失礼よ、お父様」

「「メイル!?」」

 誰であろう、話題の中心であるメイルその人であった。

 謁見の間はメイルの私室から離れてはいないが、女中も伴わずに現れたことが問題だ。

「どうしてここに!? アンタ、身体は……」

「そんなことより、お父様、ボクからもお願いするわ。今夜の会食、ミレアに任せて欲しいの」

 見たところいつものメイルに見えるが、この短時間で完治しているとは思えない。事実、顔色は青ざめて見える。

 しかし、タナトスはこう答えた。

「メイル、失礼とはどういう意味だ? それに、此度の問題はお前の軽率な行動が原因ではないのか?」

 身内の場ではあるが、タナトスはあえて厳しい態度を貫いていた。こうして公私を弁える部分はまさしく王の器なのだろう。

 メイルもまた口を引き結び、意志の籠った声で言った。

「仰る通りですわ、お父様。全ては我が身の管理不足ゆえ。しかし、恥を忍んで申し上げます。ミレアに……ボクの従者に務めを遂げさせて下さいませ」

 とうとうメイルは膝を付いた。息も乱れている。

 明らかに万全でない様子のメイルを支え、ミレアもまたタナトスへ向き直った。

「タナトス様。私からも願い申し上げます。幼き頃より寵愛を頂いた恩を返す機会を、どうかお与え下さい」

「…………」

 タナトスは神妙な面持ちであった。

 公私を分ければ、メイルを欠席させるべきである。しかし、問題はメイルのプライドである。彼女はこれまでやむを得ない場合を除き、病床にあっても政務を行っていた。ミレアをデコイとしているのも、弱さを見せぬという意地の表れである。

「……引くつもりはないか?」

 はい、と二人の娘達は同時に答えた。

 すでにタナトスの答えは決まっていた。たとえ賢王であっても、愛する娘達の真摯な願いを否定することは出来なかったのだ。

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