第一章十一話 城下散歩

 エインフィリアという名は国の名であるが、都市の名称でもある。

 象徴である王城を中心に発展した城下町。その人口は五百万人に及んでおり、都市外から訪れる人間を含めれば一千万人以上が日々この都市に生きている。

 これは商業的理由もあるが、それ以上に有名な観光名物がある為だ。

「う~~~~ん、やっぱり素敵! 特に今回の騎士役の女優、伝説のステラ・カルメンを彷彿とさせる名演技だったわ。ミレアもそう思うでしょ?」

「同じ劇を先週観に来たばかりよ」

「甘いわね、ミレア。先週は王族として優待席で観ただけよ。今日は一般席。客席と感動を共有してこその舞台劇! エインフィリアの誇る芸術の体現!」

「わかった、わかったから大声出さないで! ただでさえ目立つんだから」

 興奮したメイルの手を引いて劇場を出るミレア。二人は今しがたまで舞台演劇を鑑賞していたのだ。

 この大劇場に限らず、エインフィリア都市内にはいくつかの劇場施設が存在する。一つ建造するだけでも多額の費用が必要だが、それを補って余りあるほどの収入と活気を国にもたらしている。

 メイルもまた演劇に目が無く、こうして自らの足で訪れるのを趣としていた。

「アンタね、自分が王族ってこと理解してる?」

「あら、どうして隠す必要があるのかしら? ボクは自分が王族だからと誇るつもりはないけれど、潜むつもりもないわよ」

「周りが迷惑するのよ。警備の衛士だって暇じゃないんだから」

 今もメイルの手を引いて早足に歩いているが、ちらほらと姫の姿に気付く声がした。

「あれ、今の?」「え、メイル姫殿下?」「うそ、どこどこ!」

 メイルは公式の場において国民との交流を積極的に行っていた。親しまれているのは良い事だが、今はそれが仇(あだ)となっていた。

「くす、まるで誘拐されているみたいね」

「……舌噛みたくなかったら黙ってなさい」

 一言警告し、ミレアはメイルを膝元から抱え上げ、跳躍した。

「きゃっ、相変わらず大胆ね」

「誰のせいよ!」

 文字通りお姫様抱っこされたメイルだが、その顔は実に嬉しそうだった。


 二人にとってエインフィリアの城下町は庭も同然だ。とはいえ建物の上を乗り継いで行くのは初めての経験であった。

「凄いわ、ミレア! こんなに早く劇場街から王城に着くなんて。商売に出来るわよ」

「はぁ……やりたきゃ一人でやって頂戴」

 さすがのミレアも息を切らした様子だった。とはいえ、この広い都市内を人一人抱えて横断したのだから、息切れ程度で済んでいるなら御の字である。

 王城を眼の前に臨む広場にミレアとメイルは降り立った。ここも人は集まりやすい場所だが、城の傍ならば幾分か安心である。

「さ、もう気は済んだでしょう。そろそろ城に戻らないとまた――」

「むむ! そこにいるのはもしや!?」

「って、言った側からどこのどいつ――あ」

「おりょ? ミレ姉じゃ~ん。奇遇だね~。それに……お姫様?」

 二人の前に現れたのはムーンファミリアの双子衛士、ルクスとミクスであった。

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