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【世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド】
村上春樹による小説。二つの世界の話が交互に進行する。作中のただ一点で二つの世界の結びつきが見える。アニメ映画『涼宮ハルヒの消失』に一瞬登場する。
―――――
恵美が言うには、その人は彼女の協力者だったそうだ。恐らくは彼女の誕生に関わった組織群と対立していた人物で、利害が一致したので彼女の逃亡に関わっていた、とのことだ。
その人は身分を偽り、この学校の生徒になっている。僅かに明かされたその人の素性は研究所で生まれたデザイナー・ベイビーで、生命になんらかの仕掛けを施されてしまったらしい。その結果、ちょっとした特殊能力が備わっているそうだ。
私は、昼休み中にその人に会えることになった。彼女に連れられてたどり着いたのは部室棟だった。その中の一室に入る。だが、
「誰も居ないじゃない」
恵美は頷きながら壁を手のひらで触る。すると、彼女の手の置かれたあたりが光を帯び、その上部がスライドして開き、中から機械がのぞいた。
「な、なにそれ……!?」
恵美はちょっと待ってて、ということを身振りで私に伝えた。しばらくすると機械風の音声が響いた。
<<合言葉を>>
<<ロケットの夏は?>>
それに恵美が答える
「蜘蛛の糸」
すると壁全体が動き、その一角に扉が現れた。恵美はその中に入り私を招く。恐る恐る入ると扉が閉まり、動き始めた。
「えーと……あの……」
「この部屋と隣の部屋の間には何故か大きなスペースが存在していた。外側からはただ隣り合っているようにしか見えない。中からは部屋の狭さが気にならないようになっている。私達ではない誰かが残したカムフラージュか、単なる設計ミス。何にしても都合がよかったので私達で利用させてもらった。地下に私達の隠れ家を設けている。言ってみれば『秘密の部屋』」
「ほ、ほぉう……」
「この工作はとても苦労した。私達がどうにか得られた資金の8割を投じて作った」
それなら、どこかの部屋を借りればよかったんじゃないかと思うけど。きっと、他にも理由があるんだろう。
エレベータ風の感覚を残して部屋の動きが止まった。目の前の扉が開く。やや大きな空間に出た。目の前には椅子に腰かける一人の少年の姿があった。
「八生渡良瀬風佐海だな」
「え、ええ、そうだけど」
「お前の同好会に入ってやってもいい」
な、なに、こいつ?
「だが、俺に指図するんじゃないぞ。そして、俺の言う事は聞け」
なんか腹が立つ。
「それと、向こうにある俺の部屋には入るな。これを守れるなら上の部屋を貸してやってもいい」
ムカッと来た。
「ちょっと!」
「なんだ!」
やっぱり気圧されてしまう。だが、今なら……
「ま、まず、あなたの名前を教えてもらいましょうか!」
「ふん。いいだろう。俺の名前はメモリー・メリモンだ」
「は……?」
「生徒としての名は『結城秀康』となっている。以上だ」
「いや……あの……」
すると横で恵美が袖を引っ張っている。表情の変化が乏しいと思っていたけど、今は心底申し訳なさそうに私を見ている。私は何となく二人の関係を察した。彼が引っ掻き回したのを彼女が納めるような展開だったんだろう。今までは。
やや腹立たしいが、あっという間に四人もそろってしまった。私は受け入れることにした。とりあえず握手。
考えてみれば、もうSFの世界だ。知らないうちに学校に隠し部屋とエレベータが仕込まれてるって……下手するとホラーだよ。
放課後、私はレインに二人を紹介し、『秘密の部屋』にも案内した。彼女は大興奮だった。
それからしばらく、私達は四人で過ごすことを心掛けた。何だかわからないけど、そうした方が良いような気がしたんだ。あの結城のヤツの態度は気に食わないけど、何だかんだ言って付き合ってくれている。もしかすると、あいつも……? それはいずれわかるか。
しかし、世界の不思議を探す、というのを書いたものの充分不思議と遭遇してしまっているよ。ハルヒは自分に力があることを知らなかったし、世界が不思議に溢れていることも気付かなかった。では、私はどうなんだろう?
とにかく、進んでいけば道は開けそうだった。こんな気分になるなんて思いもしなかった。今まではがむしゃらに進んでいるのがいい気分だったけど、こんなに嬉しい、楽しいって感じることは無かった。もしかしたら私が感じるこれは、生まれて初めてのものなんじゃないかって思うくらいだよ。
放課後に二日連続で映画を観ることもやっちゃったよ。学校でこんなことしていいんだろうか? でも、私はいいと思い始めたんだ。きっと好いんだよ。煙草吸うよりは好いよね?
そのまま5月に突入してしまった。楽しくやっていけそうな予感もした。だが、私の心に不安がよぎることになる。
朝のホームルームで知らされた。生徒四人が昏睡状態になってしまったらしい。原因は不明。その生徒とは、入学式の日に私が襲撃をかけた者達だった。
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