七章:涼宮ハルヒは二度死ぬ
楽に動ける。それが肝心だ。
1ー1
【獣たちの夜 BLOOD THE LAST VAMPIRE】
押井守による小説。映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』の外伝的作品。音無小夜の姿や活躍はあまり描かれず、彼女を追う者達の姿と共に社会状況や異形の者についての語りが多い。吸血という行為についての興味を大いにそそられた。
―――――
あれからおよそ二年が経った。私は今日から高校生。大きな事件や災害がたくさん起こった。世の中は変わり、人々は変わり、エンターテイメントにも変化があった。あった気がする。何故『気がする』という言葉にするかと言うと、私自身が二年前のあの日に大きく変わってしまい、世の中のことがあまり気にならなくなってしまったからだ。他人がどうなってもいいというわけじゃない。酷い話を聞くと酷い気分になる。いい世界になって欲しい気持ちは変わらない。だけど、世間のニュースへの関心度は今までの100分の1くらいになっている。
さて、二年前のあの日、私に何があったかを少しだけ語っておこう。私は唐突に何かに噛まれた。おぼろげな意識の中、私を噛んだものは人型の男のようだとわかった。意識が回復してから、静かな物陰でそいつと話すことになった。
そいつは「自分は悪魔だ」と言った。自身の状況からして信じられた。空も飛んでいたし。そいつが言うには、私が格好の獲物であったので狙った。そして俺の企み通り、俺に利益と満足をもたらしてもらおう。などと続けて語る。
私は怯えと戸惑いの中、頷いて聞くしかなかった。
そいつは、私に一つの要求を突き付けた。その要求とは、
「黒い雨の女王を探し出し、救え」
というものだ。
お前が大人になる前にそれを成し遂げなければ、お前を殺してお前の全てを喰らい尽くしてやる。と加えた。私は信じてしまった。
黒い雨の女王とは何か? その人はどこに居るのか? そもそも人なのか? 何故私でなくてはならないのか? いくつか聞いたが、悪魔は言った。
「それを探すのもお前の仕事だ。今聞いたことは全て自分で探れ」
私は理不尽な残酷さに震えた。恐怖でも震えた。吐きそうだった。だが、悪魔は指を一本立てて笑った。ニッコリと。
「だが、ヒントはある。お前が見つけたそれだよ」
そう言って、その指で私のカバンをさした。
私は眼で追う。カバンの中の本を見る。タイトルは『涼宮ハルヒの憂鬱』。これがヒントか? これでどうしろって言うんだ? 私は口を開きながら悪魔を見る。それを見透かしたように悪魔は言った。
「言えるのはこれだけだ。あとは自分でどうにかしろ」
私は泣き出しそうだった。漏らしそうだったかも。漏らしていたかもしれない。すると、悪魔は付け加えた。
「お前、ゲーム好きだろ?」
私は頷く。
「RPGやアドベンチャー。頭を働かせるのも重要だが、詰まったらどうする?」
呼吸を何度か繰り返したら、答えが浮かび上がって来た。
「人に聞きまくる。出来ることを試す。総当たり」
「グレイト!」
悪魔はそう言って、ニッコリ微笑む。そして私に背を向け歩いて行った。
「待って!」
何故か叫んでしまった。悪魔は立ち止まり振り向く。
「あんた、名前は?」
悪魔は少し考えてから言った。
「好きに呼べ」
私は最初に浮かんだ名前を言う。
「ベルフェゴール」
目の前の男は微笑みながら、
「じゃあ、またな」
と、言って消えた。
それから二年。私は調べまくった。あらゆるものを。だが、生来の性格や特性が災いして集中が長く続かない。結局たどり着くのは自分の好きなエンターテイメントだった。ところが、それが意外と役に立った。むしろ今ではこれが正解だったと思っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます