第20話騎士登録記念祝い

「それでは皆さん、エミリーの騎士登録記念を祝いまして、……ちょっとグラス持って。かんぱーい。」


リリィの掛け声で4人はグラスをコツンと合わせあい、飲み会は始まった。

ミキエルは蟹を食べるのに夢中だ。エミリーはその隣でお酒のはいったグラスを嗅いでいる。リリィは銘酒『吉幾三』を手に持って抱きながら、お酒を飲んでいた。



僕はと言うとリリィから少しもらった『吉幾三』の匂いを嗅いでいた。


うーん。嗅いだことのない匂いだ。アルコールの匂いがするな。リリィは美味しそうに飲んでいるが、実際に美味しいのだろうか?


「リリィ、変な匂いするけど美味しいのか、これ?」


その時リリィは立ち上がった。



「ま〜だ飲んでなかったの。キモ〜い。いいから飲んでみなさいよ。美味しいんだから。あなたはこれから黒炎龍の餌食になるのよ。」



……。もう酔っているのだろうか?



「酔ってないわよ。まだまだ飲めるわ!!」



試しに飲んでみるか。黒炎龍の餌食は嫌だが、美味しいんだったら……。


「うーまい!!なんだよ。スッと飲めるじゃねーか。こんなに美味しいものだとは思わなかった。」



「お、マサルも味が分かるのか。もう黒炎龍の餌食ね。これでこそ違いがわかる男ね。」



リリィなりに褒めているのだろう。『吉幾三』……、これは美味しい一品だな。



「えー。これ、美味しいんですかー。匂い嗅いだら変な匂いして飲んでないんですよー。」



エミリーが『吉幾三』のお酒をクンクンと匂いつつ、警戒している。



「あなたも飲んでなかったの?飲みなさい。美味しいわよ。」



「それでは飲んでみるのですー。いただきますー。」



エミリーはクイっと良い飲みっぷりで飲んだ。



「いい飲みっぷりわね。気に入ったわ。もう一杯飲みなさい。」



リリィがエミリーが飲んだばかりの空のコップにお酒を入れる。



「ありがとぅうなのですー。ほれはおいちいものなのですー。」


ん?なんだ。急にろれつがおかしくなったぞ。それにさっきまでとの雰囲気が……?。



ゴクゴクと飲んでいる。大丈夫だろうか?


「ぷはー。うーん。おいひいです。ところで、マヒャルさん、もっと尻尾触ってくだじゃいよー。」



なんだ?酔っているのか?エミリーを見ると顔が真っ赤になっている。



「もっと尻尾触ってくださいー。もっとぷにぷにしてくださいよー。」


もうキャラ変わってるじゃねーか。こいつはお酒を飲んだらキャラが変わるのか?



「おーい!!リリィ。助けてくれ。エミリーがおかしいんだ。」


エミリーが僕にせまってくる。リリィならなんとか……。



「うーん。美味しい。ん、あん、邪魔したら殺す。」


なんか怖いんですけど。殺気感ばりなんですけど。



「マヒャルさん、早く、ほら、はひゃく。」



うぉーーーう。めっちゃ接近してくる。お酒でこんなに変わるのか。くっ童貞の僕には厳しいものが。誰か助けてくれ……。ん?



『バタン』とエミリーが倒れこんだ。



「大丈夫か?おい?」


急に倒れ込んだエミリーは「ムニャムニャ」と言って寝ている。酔って寝てしまったようだ。一向に動かない。



仕方ないので布団をかけてやり寝かしつけた。

エミリーは寝言で「尻尾……。」と言っていたのだが、夢の中でも酔っているのだろうか。


飲み会に戻ると、相変わらずリリィは右手に一升瓶と左手にコップと1人で個人プレイをしていた。

そんなリリィを放置し、僕は残っている蟹の方に向かった。その奥でミキエルは蟹を夢中で食べている。



「美味しいな。お。身がプリプリしている。」



「身よりも蟹味噌の方も美味しいよ。」


ミキエルが蟹の頭をペロペロしている。まるで犬だな。天使の風上にもおけない。本当に天使なのだろうか?



「何よ、そんなかわいそうな子を見るような目で見て。なんなのよ。」



察したらしいミキエルを無視し、僕はリリィからくれた『吉幾三』のお酒をちびちび飲む。


「うーん。美味しいけど、ゴクゴク飲むとすぐ酔いそうだ。」



「何それ、美味しいの?お酒?ちょっと私にも飲ませてよ。」


お酒の存在に気づいたようだ。なぜか悪い予感でしかないのだが……。まぁちょっとぐらいなら。



「おう、美味しいよ。少し飲んでみるか。」



「え!!良いの?蟹も飽きてきたから、ちょうど良かったわ。」



飽きたんかーい。と心の中でツッコミを入れてから、ミキエルにお酒が入ってあるコップを渡す。


「ありがとう。私お酒初めてなの、クンクン……。」



匂いを嗅いだ瞬間、ミキエルは黙り込んだ。


「?。あのミキエルさん?」



「はっぴーにゅーいやー。私がこの世界を救いにきました。幸せの鐘をならすのは私です。救ってもいいですか。」


急に天使の輪っかと羽根を出し、1人で何かをボソボソと唱え出した。



「お!世界を破滅においやる呪文じゃないか。これは究極魔法だぞ。初めて見た。もっとやれー。」


リリィがとんでもない発言をした。酔っ払っているようだ。


「まてーーっっっぃ。」


僕は速攻でミキエルを止めた。止めた瞬間、匂いで酔っ払ったミキエルは眠ってしまった。


こいつはヤバい。お酒自体、見せてはいけないタイプだ。世界を破滅?こいつは本当に天使なのだろうかと疑問を思ってしまった。ちょっとだからは信用できないな。全く。


その横に気持ち悪くなっているリリィがいた。


「マサル〜。飲みすぎた。気持ち悪いよ。」



「お前もかーーーーーーー。」




・・・




チュンチュン。次第に夜も明け、もう太陽の陽が眩しい。ミキエルとエミリーはまだ寝ている。当分起きそうもない。1人は2日酔いだ。


「うー。気持ち悪い。」



「……。そうか。水持ってきてやったぞ。」


僕は何をやっているんだ……。こいつらにお酒はダメだ。もともと頭に堕がつくメンバーだ。このままじゃいけない。僕が何とかして抑制しないと……、とそう誓った夜の出来事だった。

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