第13話プライバシー、リリィの正体、商店屋の悪魔。

チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえ、朝の日差しが起きろと言わんばかりに窓から照らされる。ふぁ〜。もう朝か。もう少し寝たいところだ。横を振り返るとカーテンみたいな布が掛かっている。

昨晩、リリィが用意してくれたものだ。


「男女一緒に部屋で寝ているのに、存在(プライバシー)を隠す布が一つも無いとか不潔だ。」


その一言から天使も同調してつけることになった。くそ。リリィを連れて帰るんじゃなかった。


布の中から声が聞こえてくる。


「おはよう」


噂をすればリリィの声だ。天使のミキエルの声はしない。まだ寝ているらしい。


「おはよう、リリィ。商店街に最近魔道具のお店が出来たらしいから今日一緒に行くかい?」


僕は鍛治仲間からの情報で、最近オープンしたらしい。この辺ではお目にかかれない魔道具がたくさんあるらしい。


「私を連れて行くだと。その代価はなんだ。何かしらの生贄が必要だ。これも等価交換……、おい聞いているのか?」


リリィの言葉を無視し、僕はミキエルに話しかける。


「おーい。ミキエル?起きてるか?おーい。」


「うーん。眠い。むにゃむにゃ。」


完全に寝てるな。これは今すぐは起きそうもない。


「それじゃリリィと一緒に街の商店街まで行ってくるから、起きたらお前も来いよ。」


カーテンの間から手が出てきた。手を振っている。了解した合図だろう。……なのか?


ミキエルと部屋を後にして、リリィと商店街に向かうことにした。


僕はリリィのことはあまり知らない。ここ数日前に出会ったばかりだしな。目的地まで時間もある。色々と聞いて見るか。


「それはそうとリリィはどこから来たんだ。この街出身なのか。」


「私はローズブルー出身だ。ここから、北に向かって遠い彼方にある地方だ。周辺からはレッドペリー族とも言われている。皆、神の祝福を浴びていくつもの奇跡を起こしてきた種族だ。軍人のように皆強靭な肉体と精神を持っている。」


この街出身ではないのか。確かに、ここの村人とはどこか違う……、いやかなり違うと思っていたが、レッドペリー族か。この種族は中二病が多いのだろうか。

様々な疑問を思い浮かべたが、気にするときりがない。


「私は魔法銃を極めにこの地に来たんだ。私の直感ではここで新たな出会いがあると感づいてね。

この出会いには感謝している。神に誓ってもね。」

リリィが僕に向かってウインクしながら手を後ろに向けている。


うーん。可愛いところもあるじゃねーか。昨日は散々だったけど、これは昨日のことは水に流して……、おい、それは買わないぞ。


屋台の近くで、マンガ肉みたいな肉の塊をリリィが指差していた。


「なんだよ。けちー。良いじゃないか、仲間記念だし、軍人のよしみでさ。」

リリィは駄々をこね出した。寝そべって一歩も動かない。


「買ってくれてら動くよ。」


こいつは本当に軍人という言葉を理解しているのだろうか?

本当に色々と感動して損した気分だ。チキショウ、感動した時間を返せ。


一向にラチがあかないので、肉の塊を買いリリィに渡した。


「ありがとう。感謝する。」


ぺこりと頭を下げ、上げた瞬間リリィは、ウインクした。


チキショウ。覚えてやがれよ。しかしながら見てくれだけは良い仲間だ。


リリィと一緒に歩きながら、商店街に向かっていると2人組の村人の話が聞こえてくる。


「おい、聞いたか?最近噂になっていたドラゴンが退治されたらしいぞ。」


「なんだって?、もしかして聖騎士様かい?」


「そのようだ。そのドラゴンを倒したから今日帝都に帰るらしいぞ。」


「ついにか、ようやくこの街に束の間の平和が訪れることだ。良かった。良かった。」




村人の会話が聞こえて来た。

……、こんな始まりの街にドラゴンなんていたのか?

物騒だな。この装備で出会いたくないものだな。


「聖騎士様が倒したらしいなら大丈夫だろう。この世では存在しないような剣術を使うらしいと噂があるぐらいだからな。」


リリィすら知っているのだから、相当な腕前の持ち主なのだろう。ドラゴンか。こっちの世界のドラゴンは強いのだろうか。


少し歩くと商店街に着き、街の中心街に入る。するとオープン記念セールという張り紙が貼ってある。ここだ。


いかにも雑貨屋さんみたいな感じだ。ガラスには服を来たマネキンが置いてある。おしゃれな感じだが、物が溢れている感じになっている。ここは服屋なのか?雑貨屋なのか?場所はあっているのだが……。


店内に入ると、1人の女性の声が聞こえてくる。


「いらっしゃいませーーー。」


元気な女の子という感じだ。実に気持ちがいい。

周りを見渡すと魔道具が所々に置いてある。


「これは悪魔の力を強める魔道具だな。こんなものこの街で見かけるとは驚きだ。悪魔なんてこの街周辺にはいないはずだがな。」


リリィは色々と知っているらしい。


「こっちの指輪はどんな効力があるんだ?それとこれはなんの杖はなんなんだ?」


「こっちは負の力を高めて攻撃力を底上げする指輪で、この杖は召喚獣の力を借りれる効力があるな。しかし悪魔と契約してないとどれも使えない代物だ。」


なんでそういったものが置いてある。このお店なんだか怪しい予感がするな。


「いらっしゃいませ。なにかお探しですか?」

先ほどの女の子が話しかけて来た。髪は赤色ショートで、頭にリボンをしている。首には黒のドクロマークがついてある首輪をつけており、ドクロ型の水晶を手に持っている。


なんなんだ。リリィといい、この世界は中二病が蔓延しているのだろうか?


「素晴らしい格好だな。このドクロはどこで購入したものなのだ。」


「ここで売ってるわよ。これは自分の魔力を最大まで高めて、より強い魔法が打てるようになるわ。

ただし、代償は悪魔に忠誠を捧げることよ。捧げた瞬間このドクロは効力を発揮するわ。」


「素晴らしい。これは欲しい……。」


おいおい、お前の出身は神の祝福を浴びている地方出身なのだろう。

ジトーとした目でリリィを見ていると、リリィは察したようだ。


「そうだった。危ない。そんなのは要らない。」


「ちぃ、もう少しで購入してくれる感じだったのに商売の邪魔しないでよね。全く。」


彼女は手を上げてやれやれといった感じを見せている。

そのような態度には気にせず、僕は話しかけていた。


「しかしながら、珍しい商品ばっかりだな。魔道具ばっかりなのか?」


「魔道具のみよ。私が仕入れをしているわ。」


「そうか。この魔道具と指輪同時に使うと良いかもな。」


「?。何が言いたいのよ。」


「いや、単体で売るよりも組み合わせで売った方がいいんじゃないかと思ってな。」


「なるほと。ふーん。やるじゃない。」


彼女はニコッと笑みを見せた。


「僕は田中マサル。鍛冶屋をやっている。」


「私はやくっしー。この商店で店長をやっているわ。」


「あなたとは気が合いそうわね。悪魔の血がそう言ってるわ。」


うーん。こいつも中二病か。この世界は中二病が蔓延してるに違いない。


話していると急に扉がバタンと開く。ミキエルだ。

「マサル。ずるいじゃない。私も何か欲しい!!」


「……、マサル、そいつから離れなさい。なぜあなたがいるの?」


来て早々、忙しいやつだ。恥ずかしいからその辺でやめてけ。


「こっちのセリフよ。なぜあなたがここにいるの?天使ふぜいが!!」


「お黙りなさい。この悪魔ふぜいが、成敗してやるわ。天使と悪魔の伝統の一戦よ」


悪魔だと?まさか、やくっしーが言っていた事は本当のことだったのか?」


「マサルは信じてなかったけど、実は本当に悪魔なのよ。悪魔の羽と尻尾もあるよ。」


本当だ。天使と違って白くない、むしろ黒に近い羽根だ。

この世界にはいろんな種族がいるんだな。うーん。あんまり驚かなくなってきた自分が怖い。


「あんまり反応が良くないわね。それはそれでショックなんだけど。まぁいいわ。マサルはもう悪魔の手に落ちているわ。」


「いや、落ちてません。いつ落ちましたか?」


「次はあなた。天使をやめさせて、堕天させてやるわ。私の力を見てなさい。」


こいつ話聞いていない。勝手に話を進めやがった。


「なんだって!!マサル、戻って来なさい。今なら悪の道に染まる前に戻れるわ。」


だから悪魔の手には落ちてねーよ。てかお前らコントかと、僕の話を聞きやがれ!!


「覚悟しなさい。天使が、デビルウインク!!」


「くっ、悪魔が、エンジェルウインク!!」


「ぐわーーー。く、今日のところはこのぐらいにしてやるわ。次は覚悟しなさい。」


うーん。これはコントかな、一種のノリなのかな?知らない間に決着がついたみたいだ。


「それじゃ帰るわよ。マサル。」


まだ見たいところだったが、また天使と悪魔が対立するのはめんどくさい。


「それじゃまた来るよ。今日はありがとう。」


「ちょっと待ちなさいよ。あなたには今後お世話になりそうだから、これ入店記念にあげるわ。」


やくっしーは店の奥側から鉄の棒みたいなのを出して来た。

見た目はダウジングみたいな機器だ。


「これはダウジングマシーン。けど、ただのダウジングマシーンじゃないの。これを使って反応すれば普通では絶対手に入らない何かが手に入るわ。反応すればね。ほとんどは反応しないから、売れても返品で返ってくるの。特別にあなたにプレゼントしてあげる。

これは悪魔の契約は要らないわ。あなたとは何か感じるものがあるの。次もよろしくね。」


やくっしーは僕にウインクをして店内に戻って行った。

やめてくれ。童貞の僕にはときめくものがあったぞ。これぞ、悪魔のささやきなのか。


「マサル?変なこと考えてない?顔真っ赤だよ。」


「考えてない。」


ミキエルの質問に、僕は顔を横に向きながら答えた。


帰りの道中にミキエルには巨大飴、リリィにはミルクタンというモンスターの濃厚ソフトクリームを買わされ、今帰りの途中だ。


「そうだ。さっきやくっしーからくれたこのダウジングマシーン使ってみないか?」


「面白そうだな。使ってみようよ。」

リリィは賛成派だ。


「は?悪魔から渡された道具を使うなんて私が許さないわ!!」

ミキエルは反対派だ。


「賛成2人、反対1人で、このダウジングを使おう!!」


「ぷー。勝手にしなさい。」

天使の羽根を広げ、空を飛びながら頭に手を置き、すねているミキエルは放置しながらダウジングは始まった。

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