「 蓮華の花守 - 蘇えるナジュム 」(十三)

 

―――――― 未の上刻( 十三時 )


「 ナジュムさん!! そろそろ、王が御帰りになられるのでお見送りを…―――! 」と、ナジュムの臣下仲間が宮中の医院に駆け込んで来ると、船酔いから回復したナジュムはお茶を呑みお菓子を頬張りながら、意気揚々とロータス国の話を語って医院の面々の中にすっかり馴染んでいた。


「 あ ――― やっべぇ、忘れてた! そうそう!俺 王子の付き添いだったわ。 」


「 それって、簡単に忘れられる物なのですか……? 」と、何時いつも通り 寡黙かもくを装っていた葵目アオメが思わず口を開くと、ナジュムは「 俺、見合いの時だけの臨時で王子に仕えてるんですよぉ! あの人の臣下、女ばっかりだから! ――― 連れて来れないでしょう!? 見合いの席に! 」と、やや怒り気味にぼやきながら 急ぎ足で医院から飛び出すと「 あ! どうもお世話になりました~!! 」と、遠くから医院へお礼を叫んだ。



「 女ばっかりだって…… 」東天光トウテンコウが " こりゃ、破談になるかもな " と自身の想いを顔に出しまくりながら呟くと「 その気持ち解るわぁ…! ――― 側室制度(?)復活するかしら!? 」と、姫鷹ヒメダカは もう一人の自分を肯定するかの様に恍惚の表情で頷きながらライル王子への期待に胸をふくらませた。


「 ――― 婿養子のほうの血筋を増やして どうするんです? 」

「 ダメよ、葵目アオメちゃん ――― 先生 聞いてない。 」



アスワド王が無事にリエン国を発つと、ライル王子とナジュムは宮中に戻ってロータス国の一行に用意された宮殿の棟の通路を歩きながら、至る所に設置されている鏡で 時折 自分の身嗜みだしなみを確認しながらリエン国と女王の印象について話を始める ――― 。


「 どうでしたか? もう結婚しちゃいます!? 」

船酔いから不死鳥のごとく復活を遂げたナジュムが 何時いつもの彼らしく軽めの調子で訊ねると「 それは無い!何としてでも結婚は避けたい。 」とライル王子は真顔で即答した。


「 でも、リエンって 涼しいし、良い国だと思いますよ? 波の音がちょっとうるさいけど……医院の人達も、やたら陽気で親切でしたし。 」


花蓮カレン女王は、体も含めて見た目は悪くは無い ――― しかし、まともに会話が出来ないし 行儀があまり良くない……簡潔に言うと、俺から見たら まだ子供ガキで興味が湧かん。 」


「 ロータス語 わかんないだけじゃないですか? 行儀っつっても文化の違いで ―――  」


一応、御目付け役らしくアスワド王の考えに添ってナジュムがライルを説得しようとすると、ライル王子は何時いつに無く真剣な表情で「 いや、そうじゃない ――― 俺は三男でも偉大なロータスの王子だ。つまり、違いが判る男だ! ――― あの女王は良くも悪くも 一国の女王らしく無い。 」と、言い切ると「 花蓮女王より、彼女に付いてた上品そうな女官のほうが俺の好みだった。 ――― 見合いの席で見合い相手の女官を一晩 貸してくれとは言っちゃ駄目だよな? 」と、真顔のまま ナジュムのほうへ顔を向けた。


「 駄目ですね! 」

ナジュムは( どっちが行儀の悪い子供だか…… )と、思いつつ 御目付け役らしく王子の言葉をバッサリ斬った。




花蓮カレン女王は、次の予定に合わせて 湯浴みと 着替えの為に私室に戻ると「 あなた達の中に 二十五歳の人は居る? ――― それか、お友達にいない? 」と、鏡に映る自身の姿を見つめながら女官達に告げた ――― 。


わたくしが二十五ではありますが……? 」と、女王と共に戻って来ている紅魚ホンユイいぶかし気な表情で名乗り出るが、女王は鏡を見ながら自身の脚・髪・顔などを入念に確認する事に夢中で聞いているのかいないのか分からない。


「 ライル王子殿下の歳ですわね……? 」と、珠鱗しゅりん紅魚ホンユイに耳打ちすると紅魚は声を出さずに納得した様子で ゆっくりと頷いた。


睡蓮スイレンちゃん、白夜ハクヤさんと もう一人の美形は何歳なの? 」

緋鮒ひぶなが小声で睡蓮に訊ねると「 !? ――― 知りません……私より年上だとは思います。 」と、睡蓮は何時いつもの落ち着いた様子で返事をした。


「 え? お兄様ですのに……!? 」余り驚く姿を見せる事が無い 珠鱗しゅりんが驚いたので、睡蓮スイレンは 何かおかしな事を言ったのではないかと心配の表情を浮かべて「 いえ、兄では…――― 」と誤解を解こうとしたのだが「 白夜ハクヤって、睡蓮スイレンと一緒に住んでるあの人? 」と、彼女達の会話を ちゃんと聞いていた女王がようやく反応を見せた。


睡蓮スイレン、聞いてきて! 他の見張りの人達の年齢としも ちゃんと聞いてね? 」と、睡蓮のほうに振り返った女王が 彼女に小さな使命を与えたので「 は…はい! 」と返事をすると、睡蓮スイレンは 早歩きで女王の部屋を退室した。


そんな中、蝶美チョウビは " 蒼狼せいろうくんが 睡蓮スイレンのお兄ちゃんなのかな~? " と小首を傾げたが、ぐに どうでも良くなって 次の女王の髪型をどのようするか考え始めていた ――― 。





「 ? ――― 二十五歳だけど、花蓮カレン様は どうして そんな事を聞くの? 」と、白夜ハクヤ睡蓮スイレンのほうを見つめた ――― うつむいてはいない。


「 俺は、二十二! ――― 他の人か…ちょっと聞いてきますね! 」と、再び 若く麗しい見張りのもと蒼狼せいろうは走って行った ――― 。


「 あの…珠鱗しゅりんさんと紅魚ホンユイさんが ライル王子殿下の年齢が二十五歳とおっしゃっていたので、その事に関係があるのではないかと…――― 」


「 ふーん…… 」


睡蓮スイレンの正確な年齢は判らないが " 自分と睡蓮と同じだな " と白夜ハクヤは判断した。


ところ睡蓮スイレン、少し 化粧してるよね? 」


「 あ…はい! 今日は御客様が来るからと蝶美チョウビさんがして下さいました。 」


素直に褒めたほうが良いのか、桔梗ききょうの為に何も言わないほうが良いのか白夜ハクヤが迷っている間に蒼狼せいろうが帰って来る。


「 早っ! 」


「 脚力と記憶力には自信があるんで! 」蒼狼せいろうは星が煌めく様に笑うと、睡蓮スイレンに武官達の年齢と名前を一人一人ゆっくりと丁寧に教え始め ――― なかなか覚えの良かった睡蓮スイレンが女王の私室へ戻ると、女王と女官達は 装束の準備を行っている蝶美チョウビを残して 湯殿のほうへ移動していた。



「 お帰り!みんなの年齢としわかった!? 」


「 はい…! 」


睡蓮スイレン白夜ハクヤさんと一緒に暮らしてるのに 年齢とし 知らなかったんだね? 」


「 はい……。 」


――― もしかして、それは変なのかな・・・と睡蓮スイレンの脳裏に不安がぎったのと同時に「 でも、そんなもんかもね? ――― アタシも女官のみんなの年齢としは 最近まで知らなかったもん! 」と、蝶美チョウビまでと同じ様に明るく笑ったので睡蓮も安心して蝶美に微笑んだ。


「 さ!睡蓮、女王さま ずっと待ってたから早く教えてきなよ? 」


「 はい! 」





「 ――― つまり、二十五は紅魚ホンユイ白夜ハクヤだけなのね? 」

花蓮女王は湯船の中で睡蓮スイレンの話を聞くと「 もう上がる! 」と、までと違って女官の手を借りずに烏の行水のごとく湯船から出ると、小走りで湯殿から出て行った ――― 。


「 お待ちください!!陛下、湯殿で走ってはいけません!! 」慌てて女王の後を追った紅魚ホンユイと「 晦冥カイメイ様の配下の人達って十代ばっかりかと思ってた…… ――― あのデカい金鎚を持ってる人なんか、絶対 アタシより年下だと思ってたのに……!! 」と、自分よりも年上だった桃簾トウレンに衝撃を受けながら緋鮒ひぶなも湯殿から出て行った。



睡蓮スイレンさん、白夜ハクヤさんは あなたのお兄様では無かったの!? 」

白夜の年齢を知らなかった睡蓮に困惑した様子で珠鱗しゅりんが問うと「 白夜さんは兄ではありません…! 私は家族がどこに居るのかも分からないので…… 」と淋し気な瞳で睡蓮は答えた。


「 では、お部屋が一緒なのは!? ――― どういう事ですの… 確認したい事は色々ありますが……まずは女王様のお手伝いに戻りましょう…! 」と困惑したままの珠鱗しゅりん睡蓮スイレンを連れて湯殿を後にした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る