「 蓮華の花守 - 好きな色 」(一)

 


―――――― 翌朝、辰の上刻( 七時 )




「 気を付けて行くのじゃぞ…! 」


睡蓮スイレン、また会いに来るからね! ――― 頑張るんだよ!? 」


秋陽しゅうよう日葵ひまりに玄関先で見送られ、睡蓮スイレン白夜ハクヤ春光しゅんこう紅炎コウエンは宮中に向かった。


紅炎コウエンは七日間の中で馬が必要になるかもしれないので同行させられている。

れは 白夜ハクヤの考えと言うより、宮廷からの令と言ったほうが正しい。

つまり、紅炎コウエンには選択権は無い ――― 。




「 僕の事は気にしなくて良いから、二人共 紅炎コウエンに乗って行けば? 」と、春光しゅんこうが口にしたが睡蓮スイレン白夜ハクヤも却下した。


睡蓮スイレンは乗ってけば? 俺が引くから。」

――― " でも、また矢が飛んで来たら危ないな " と、白夜ハクヤが考え直した言葉を口にする前に、一人で乗る自信も無ければ、白夜ハクヤに そんな事はさせられないと遠慮した睡蓮スイレンのほうが蒼褪あおざめた表情で両手を前にして首を左右に振りながら全力で拒否した。

「 む…む…無理です!! 」



ところで、鍵を増やしたり作り直すって 具体的にはどの辺りの鍵なんですか? 」


白夜ハクヤの問いに、春光しゅんこうは「 ……何処どこの鍵なのか場所が分かっている所と、何処どこに使うのか分からない鍵がある。 」と答える。


彼と仲間の鍵師達は、鍵を作る為に宮中へ下見に来てはいるが、全てのむねに入れる訳では無い。

中には、ただ指定された通りに作れば良い鍵もある ――― 。


「 まあ、何か気付いた事があれば 次に会う時に話せる範囲で話すよ ―――……鍵の構造以外の事はね。 」と、何時いつも通りに穏やかな笑顔を白夜ハクヤ睡蓮スイレンに見せると、春光しゅんこうも白夜に質問を投げかけた。


ところで、花蓮カレン様のお見合相手って誰なの? 」


「 ――― ロータス国の第三王子だったかな? 」と、余り興味無いので白夜ハクヤはうろ覚えのままに ――― 睡蓮スイレンは女王の女官らしく、バッチリ記憶して答えた。


「 そうですよ! ――― お名前は『 ライル 』様です。 」


「 あー…なるほど! ロータスね 」春光しゅんこうは納得した様に頷くと、少し雑談を続けて白夜ハクヤ睡蓮スイレンとは別れ、鍵師仲間達との合流地点に向かった ――― 。




春光しゅんこうさんや日葵ひまりさんと、もっとお話ししたかったです……。 」と、春光の後ろ姿を見つめながら ――― 珍しく 睡蓮スイレンが自分の気持ちを呟き、何時いつもの様にどこか寂しそうにしている姿を見て、白夜ハクヤは気を引締めながら「 また会えるよ 」と彼女には微笑んだ表情で声を掛けた。


( 七日間 ――― 睡蓮スイレンを必ず守らなければ……! )




七日間の内、最初の三日間は準備期間となる。

四日目にライル王子が到着する予定となっており、彼がリエン国を発つまでの残りの期間は客人として花蓮カレン女王同等に彼を持て成しつつ、何時いつも通り 花蓮女王にも仕え、護衛しなければならない。

白夜ハクヤ蒼狼せいろうは護衛と警備を ――― 睡蓮スイレンは、他の女官達と共に花蓮女王のかたわらに ――― 各々の一日目が始まる。




睡蓮スイレンの一日目は、までと同じ様に女王の湯浴みと着替えの手伝いから始まった。

までと同じ様に、蝶美チョウビ花蓮カレン女王の美しい黒髪を櫛や髪飾りでご機嫌な様子で整えている。

「 女王さま、今日はこれからアタシ達と 装束しょうぞくの確認をしましょうね♪ 」

――― 蝶美チョウビの言葉に、までと同じ様に花蓮カレンが無言で頷く。



までと同じ様に、女官達が女王の装束部屋に入ると、黒だらけのころもの中にさらに新しい黒い衣が増えており、「 朝一番で仕立師の人たちから届いたんだよ♪ 」と、蝶美チョウビは心弾ませながら装束を手にしたが、他の四名には何がどれなのか一見いっけんしただけでは サッパリ区別がつかなかった。




「 女王様は黒がお好きなのですね? 」 ――― と、女王の着替えを手伝いながら睡蓮スイレンが笑顔で女王に声を掛けると「 くろ? 」と、女王は意味が解らない様子で眉をひそめた。


「 色の話ですよ、陛下 ――― 因みに、わたくしは 自分の名にもある" 紅 "が好きです。 」と紅魚ホンユイが女王に微笑みながら話を繋げる。


「 好きな色……? 」と、花蓮カレン女王は何かを考え込んだ様な表情で顔をうつむかせて行く ――― 。


蝶美チョウビは桃色が大好き! 」「 アタシは橙…――― 黄色かな? 」と蝶美チョウビ緋鮒ひぶなも楽し気に自分の好きな色を主張するので「 わたくしも名前に入ってる白かしら? ――― 睡蓮スイレンさんは? 」と、珠鱗しゅりんも笑顔で好きな色を挙げると睡蓮に質問を返した。


「 え……? 私 ――― ? 」





睡蓮スイレンは、花蓮女王と同じ様に少し考え込むと「 白……? 」 ――― と、首を傾げながら答えた。


( ??? ――― 青……も好きかな? ――― 桃も……? )と、自分の好きな色を頭の中で追究し始めた睡蓮スイレンと同じ様に、花蓮カレンも俯いたまま何かをずっと考え込んでいた。



 

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