「 舞い上がる光昭 」



白夜ハクヤさんと晦冥カイメイと云う方が重なるなんて……… )


食事する台の椅子に腰掛け、白夜ハクヤに新しく貰った手紙を見つめながら、睡蓮スイレン白夜ハクヤに失礼をしてしまった様な気がして思い悩んでいた。

白夜ハクヤ晦冥カイメイは背丈は似ているが、他は似ても似つかない ――― 強いて言えば、二人共 " 華やかさ " を持った男性であると云う事くらいだ。

二人が どうして重なって見えたのか ――― 自分はそんなに晦冥カイメイが怖いのだろうかと、睡蓮スイレンは自分自信についても考えてもみるが答えは出て来ない。



『 ――― 睡蓮へ

父さんが料理を始めたら、近くに置いてある薬草を全部 隠してください。

あと、今日は紅炎の事をお願いします。 ――― 白夜 』



手紙を渡して以来、睡蓮スイレン白夜ハクヤは 他愛も無い内容や伝言の手紙のやり取りを続けている。

特に意味を持たない内容ばかりだが ――― 白夜ハクヤの心の中を覗いている様な気がして、睡蓮スイレン白夜ハクヤに親しみを抱き始めていた。



睡蓮スイレンさん、それお手紙? ――― 良いわね…!どなたに貰ったの? 」


桔梗ききょうが水屋(台所)で淹れて来たお茶を二人分持って、にこやかな表情で睡蓮スイレンの向かいに座る。

彼女は、睡蓮スイレンが見覚えのある書簡紙を眺めているので嫌な予感がしているのだ。



「 あ……はい! 今朝、白夜ハクヤさんが書き置きをされていて……」


白夜ハクヤ? ――― やっぱり、それ白夜が書いた手紙なのね!? 」


「 ? ――― はい。手紙と言うより伝言のような物ですが…… 」


桔梗ききょうの顔色が僅かに蒼白に変わったのを目にして、睡蓮スイレン秋陽しゅうよう白夜ハクヤが自身の部屋の前の廊下で交わした会話を思い出し、まま 桔梗の様子を見つめていた。


( 桔梗さんと白夜さんの空気……? )

――― 思い返してみれば、最初に桔梗に出会った時も白夜と桔梗の様子はおかしなものだったと睡蓮スイレンは思い始める。



「 私も彼に手紙を書こうかしら? 最近、思うように会えないし…… 」


「 でしたら、私が頂いた紙を使われますか? ――― 部屋にあるので、すぐにお持ちしますよ? 」


「 いえ、それは…… 」


全く 対抗意識を感じられない睡蓮スイレンの笑顔と言葉に、桔梗ききょうは嫉妬心から我に返るが睡蓮スイレンと同じ紙で白夜ハクヤに手紙を贈りたくは無かったので、ある行動に出る事となる ――― 。


秋陽しゅうよう様、ちょっとお買い物に行って来ても良いでしょうか? ――― 紙と筆が必要で…… 」


「 紙と筆…! ――― どこに売ってあるのですか? 私も付いて行っても宜しいでしょうか!? 」


「 え……!? ………良いけど、あなたお金は持っているの? 」


睡蓮スイレンの治療費と生活費などは、医者である秋陽しゅうようの手伝いや家事などで補う事になっている。

――― が、それは 睡蓮スイレンが家に居やすい様にと 秋陽しゅうよう白夜ハクヤが 睡蓮にそう言っているだけで、彼女の身体と唇の件から責任感と罪悪感から必要なお金は 白夜ハクヤが負担しており ――― 秋陽しゅうよう睡蓮スイレンの事は『 患者 』と『 息子の嫁 』の半々で考えており、親子は 余り本気で睡蓮スイレンにお金を払って貰おうとは考えてはいなかった。



「 先生、宜しいでしょうか……? 」


「 うむ、そりゃ構わぬが お主ら二人だけで行かせるのはな……この老いぼれでも居ないよりはマシじゃろ? ――― ちょっと待っててくれ、他に買う物が無いか確認して来る! 」




三人が王宮の近くにある店屋に足を運ぶと ――― 途中、周辺を警備していた る男が三人の姿を見つけ出し、大急ぎで駆け込んで来た。


桔梗ききょうさん!!お久しぶりです!!! 」


デカすぎる光昭こうしょうの身体と声に桔梗ききょうはうんざりした表情を浮かべたが、睡蓮スイレンは久方振りに見る知り合いの姿に喜びの笑顔を浮かべる。


光昭こうしょうさん! お久しぶりです!! 」


「 ああ! ――― お嬢さんもお元気そうで何より! 」


光昭こうしょうが握り拳を出して来たので、睡蓮スイレンも自身の握り拳で彼の拳を軽く突くと 二人は再会を微笑み合った。


「 お主、手はだいぶ治ったようじゃの? ――― 宮中の医院は暇そうじゃが腕は良さそうじゃったしな。 」


「 はい! 秋陽しゅうよう先生にも その節は大変お世話になりました!! ――― 皆さん、今日は桔梗ききょうさんをお連れしてお買い物ですか? 」


舞い上がっている様子の光昭こうしょうに、桔梗ききょう秋陽しゅうようは嫌な予感がして黙っていたのだが・・・何も気づいていない睡蓮スイレンが彼に真実を教えてしまう。


「 はい! ――― 紙と筆を買いに来たのです 」


「 おお…さすが!! 女性らしいお買い物だ!! 」


睡蓮スイレンさん!! この方に何でもお教えするのはやめて!! 」


「 え…!? ごめんなさい 桔梗ききょうさん…!」


「 でしたら、自分が皆さんを護衛しましょう!! ――― 先日みたいに何が起こるかわかりませんから!! 」



―――――― 案の定だった。



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