「 蓮の池 」

 

 

白夜ハクヤ達が出発した後、睡蓮スイレン日葵ひまりは診療所の出入り口の脇にある池堀いけぼり

日葵ひまりの家の睡蓮鉢すいれんばちから株分けした睡蓮の花を鉢に植えて 水の中に沈めていた。


池には、秋陽しゅうようが食用や薬のために蓮の花(花粉と蓮根)を育てており、開花を控えて 葉やつぼみが生い茂っており、なかなかおもむきる ――― 。



「 本当だ……葉っぱの形が違う! 」



睡蓮スイレンは、はすの葉と睡蓮すいれんの葉を見比べてみて、白夜ハクヤの言っていた言葉の意味をようやく理解する事が出来た。

――― 蓮の葉は真ん丸だが、睡蓮の葉には切り込みが入っている。



「 そうだよ!二つの花は似ているようで違うのさ!

  咲き姿も全く違うから、咲いた時に また見比べてごらんよ! 」


「 はい!楽しみです。 」



―――ふと、水面に映った自分の姿に目が留まる。

日葵ひまりせていた頃に着ていたと云うころもまとい、少し やつれている様にも見える自分の姿を睡蓮スイレンは見つめた。


(  あなたは誰なの? ――― " 睡蓮スイレン "……。  )






「 どうしたんだい? ぼーっとして……気分でも悪いの? 」


「 はっ! ――― いいえ! ちょっと考え事を…… 」



「 に、しても 植えつけに ちょうど良い時期で良かったねぇ~!

  あとは太陽次第だけど、蓮がこんなに育ってるし

 ちゃんと離した所に沈めたから睡蓮のほうも育つと思うよ。」


「 あの…ほとんど、手伝えてなくてごめんなさい。 」


「 いいって!あんた病み上がりなんだから泥まみれになるんじゃないよ!

それに、あんたに着せたその服は痩せたら また着るつもりでいるから、

あんまり汚して欲しくないしね♪ 」と、日葵ひまり睡蓮スイレンのほうに顔を向け、片目を閉じて笑った。




「 さ~て、さてさて♪ 次は玄関前と大通おおどおりの掃除だね!

 悪いけど、それも手伝ってよ? あんた 日に当たったほうが良いし、 塵取ちりとり持つだけで良いからさ。 」


「 はい、もちろんです! 」



「 それが終わったら、明日の準備も手伝わないと…!ちょっと 手と足 洗って来るから待ってて! 」

――― そう言い残し、池の中から出ると、日葵ひまりは診療所の隣に建つ自分の家屋へ駆けて行った。


その後、睡蓮スイレンは戻って来た日葵ひまりに連れられて

診療所がある通りから 少し歩いた所にある、他の道よりも造りが 整っている

花茎カケイ通り 』――― 通称 " 大通おおどおり " と 呼ばれる通りに向かった。



大通りに到着すると、他にもほうきや塵取りを持った女性や子供などが大勢来ており、皆で道の掃除をしていたり、花を飾ったり、何かを組み立てたりしている。

どの光景も初めて目にしたような気がして、睡蓮スイレンは不思議そうな表情で大通りの様子を眺めた。




「 明日、即位式そくいしきの後に花蓮カレン姫を乗せた御輿おこしがこの道を通るんだよ!

  だから、皆で掃除してお出迎えの準備してるってわけ♪ 」



花蓮カレン姫……新しい王様の事でしたよね? 」


「 そう!明日 初めて国民私達の前にお姿をお見せになられるんだよ!!

  明日の この道は 人でごった返すだろうけど、体調が良かったら あんたも一緒に見に行こうね♪ 」


「 はい!……でも、先生と日葵ひまりさんは即位式で救護のお仕事をなさるはずでは…? 」


「 まあね、この辺りの医者は先生ぐらいしかいないから

 この辺で 即位式の途中に怪我人とかが出たら、あたしらが治療するってわけ!

  だから、後からあの辺にウチの旦那とシノちゃんに手伝ってもらって天幕てんまくも張らなくちゃいけないのさ! 」


「 天幕…ですか? 」



日葵ひまりは組み立てて作る天幕の事を言ったのだが、

『 天幕 』と聞いて、睡蓮スイレンは 自分の記憶の中にあった ” 天井から張られている幕 ” を 想像しており

天井も無い所で どうやって張るのかと疑問に思いながら、見よう見まねで通りの掃除を始めた。


出会った人物の中で 日葵ひまりが一番 彼女に何でも親切に教えてくれるが

日葵ひまりの発する言葉には睡蓮スイレンの知らない言葉が混ざっている事も多く、

尋ねる前に 日葵ひまりが次の会話を始めてしまうので

意味がわからずじまいになる事も少なくないが、新しく覚えた言葉も多い。


白夜ハクヤさんが " ハクちゃん" だから、" シノちゃん " は 東雲シノノメさんの事かな…? )




―――道を箒で掃きながら睡蓮スイレンは大通りを見渡した。


これまでに見た他の道よりも道幅が広く、

道の左右には、診療所と同じ様に石造りの建物がまばらに並んでいる。

長く真っ直ぐに伸びた道を目で追って行くと、遠く奥のほうに屋根の付いた大きな門のような建物がり、

の扉の奥に白夜ハクヤが言っていた階段らしき物が見えていた。


途中、踊場もあるようだが 上へ上へと高く長く伸びており、

霧がかっていて、 まるで、雲の上へと続いてる様にも見えた。



「 あれを上るのは……確かに、大変そう……! 」




「 え? ――― なんだって? 睡蓮スイレン、なんか言った? 」


「  あ…いいえ!思わず口に出してしまっただけです!  」


「 やだねぇ、霧が出て来たよ!? 明日までには引いて欲しいねぇ… 」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!