「 東雲 」

 

 

 

睡蓮スイレン ――― 本当にごめん!! 」



「 あの、お気になさらないでください…!この通り、私はもう回復しておりますから ――― 」



帰って来た白夜ハクヤ睡蓮スイレンに深々と頭を下げる様子を見て、

東雲シノノメ秋陽しゅうよう日葵ひまりがお茶を飲みながら野次やじを飛ばし始める。



睡蓮スイレン 、もっと怒っても良いんだよ? 」


「 そうじゃ、睡蓮スイレン! 問題は其処そこでは無いぞ睡蓮スイレン! 」


「 に、しても " 睡蓮スイレン " なんて いきな事するようになったじゃない ハクちゃん! 」



全員、睡蓮スイレンの名前の事で自分をからかっているなと 白夜ハクヤは薄々気づいていたが

( ※特に無駄に二回言った親父で。 )今は目の前の睡蓮スイレンに 集中する事にした。




「 あの…白夜ハクヤさん、本当に私 怒ってなんかいません。

  どうか、顔を上げてください…!

  紅炎コウエンの賢い所と、お部屋が見れて なんだか得した気分ですから大丈夫ですよ! 」


睡蓮スイレン…――― そう言ってくれると助かるんだけど、その理由は ちょっと苦しい物が…… 」


「 え…? 」


「 え? 本気で言ってたの!? 」



頭を上げた白夜ハクヤが見た睡蓮スイレンの顔は、きょとんとした表情をしており、思わず白夜ハクヤは吹き出してしまった。

笑顔の白夜ハクヤを見て、睡蓮スイレンが嬉しそうに微笑んだので日葵ひまり以外の二人は白け始める。




桔梗ききょうさんには追いつけましたか? 」


「 ! ! ! ! 」


――― 睡蓮スイレンの口から 桔梗ききょうの名が出た瞬間、睡蓮スイレン以外の全員が同時に固まる。




現在、此処ここに居合わせている睡蓮スイレン以外の全員が白夜ハクヤ睡蓮スイレンを助けた時の状況を知っている。

誰も その事を睡蓮スイレンに言わないでいるのは、白夜ハクヤに" 自分で伝える "と言われたのと

言ってしまう事で、睡蓮スイレンが傷ついてしまったり 結婚を嫌がったり、白夜ハクヤ桔梗ききょうが引き裂かれてしまうという

三者とも得しない最悪の結末になるのを恐れているからでもあった。




「 う…うん、おかげで桔梗ききょうと話せたよ。 」


「 そうですか! それは良かったです。

 桔梗ききょうさんが作られた朝食お料理も とてもおいしかったですし

 私も あのかたにまたお会いできるといのですが…… 」





ちまたで噂の " 修羅場 " ってやつか……

三人には悪いけど、本物をちょっと見てみたいな。 )


( うちの息子は どうしてこんなにモテるのじゃろう? )


( 両方 嫁にもらえば良いのに。ハクちゃんならできると思うんだよね…… )


――― 東雲シノノメ秋陽しゅうよう日葵ひまりは心の中で野次を飛ばした。





睡蓮スイレン。 」


「 はい ――― 何でしょう? 」


「 俺は 君に話さなくてはならない事があるんだ。 」


「 ? 」



白夜ハクヤがチラッと野次馬三名のほうを見ると、

東雲シノノメ秋陽しゅうよう日葵ひまりが瞳をキラキラと輝かせて自分と睡蓮スイレンのほうを見ていたので

( 皆、他人事だと思って……――― )と、げんなりとした表情で白夜ハクヤは深い溜息ためいきを吐いた。




「 ……でも、ここじゃなんだし、それに俺 今日は帰れないから

 花蓮カレン様の即位式そくいしきが終わってからにしようかと思う。」


「 ? ――― わかりました。 」





「 宮廷に行くの? じゃあ、俺も行かないと! 」――― 東雲シノノメが慌てた様子で椅子から立ち上がる。



の 『 東雲シノノメ 』と云う男は墓守はかもりの家系に生まれ、年は二十六歳。

リエン国の墓守は、葬儀式の進行や葬儀に必要なひつぎや 花や香の手配など死者に関する事を専門的に何でもおこなっている。


秋陽しゅうようの診療所では滅多に死者は出ないが、それでも東雲シノノメ達 親子に世話になる機会は多く

白夜ハクヤ東雲シノノメ幼馴染おさななじみか 親戚 と 言っても良い程、昔から 家ぐるみで 付き合いがあるのだ。


東雲シノノメは、先日の ハチス 王の葬儀にもたずさわっており、今日も ハチス 王の法要の件で宮廷に呼ばれているので

白夜ハクヤと一緒に行こうと思ってやって来ていた所、紅炎コウエンに引き摺られて行く 睡蓮スイレンの声に気づいて家屋の外に出て来たのだった。




「 何で 東雲お前と一緒に行かなきゃいけないんだよ……子供ガキかよ! 」


「 だってさ~、あの階段 一人でのぼるのしんどいじゃん? 」


「 ……言っとくけど、しゃべりながら行くほうが疲れるぞ? 」


「 じゃあね!睡蓮スイレン ――― 俺は帰って来るから後でまた会おうね。先生も日葵ひまりも 行ってきま~す! 」



東雲シノノメはニコニコと笑って、手を振りながら外に出て行った。

二人を見送るために睡蓮スイレン日葵ひまりも続く――― 。





白夜ハクヤ ――― ちょっと待て。 」


「 何? ――― 父さん 」


「 家移り( 引っ越し )の件じゃが、わしの分も申請しておけ ――― 。 」


「 え?何で!? ここはどうするんだ?睡蓮彼女の治療も…… 」



此処ここしばらく、日葵ひまり達 夫婦に任せて残すつもりじゃから安心せい!

  宮廷には書院もあるし、医官いかんもおるじゃろ?

  あのむすめの記憶を取り戻すための情報を集めたいんじゃ。

  おっと、そうそう あの睡蓮あの子の分も申請したほうが良かろう ――― 頼んだぞ!」



睡蓮あの娘も一緒に……? 」


桔梗ききょうは…どうしようかの?わしも助手が欲しいし、あのの分も申請しとくか?

  桔梗ききょうが来れない時は…――― その分、住まいが広くなるだけじゃし別に良かろう? 」


「 ――― 俺に 桔梗と睡蓮その状況の中で暮らせと……? 」


「 なんじゃ?男なら喜ぶ所じゃろ!? 儂ゃ、どっちが嫁に来ても構わぬぞ?

 ほれ、東雲シノノメが待ってるぞ!良いからさっさと行け! 」



――― 白夜ハクヤは蒼白の表情で東雲シノノメ紅炎コウエンと宮廷に向かった。




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