「 睡る花のような少女 」(五)
外が薄明りに照らされ始めた頃、
助けて貰ったお礼を言おうと、
( 自分のお
先程と違い、体が軽く感じたので 寝台から立ち上がってみると
少し、ふらついたが 歩けるまでに回復していた。
嬉しさから明るい気分で 部屋の扉を
目の前にある通路は真っ暗で、塀のような壁にある透かし―――窓のような隙間から差し込む薄明りだけが頼りだった。
( 鳥が鳴いてる…――― 朝なのね。 )
寝ているのなら起こしたく無いので、
――― 隙間の向こうには、ちょうど 一人の男と 一頭の馬が立っていた。
声をかければ聞こえるであろう距離だったが
知らない人物だったので 少女はその様子を 静かに見守る事にした。
( まだ薄暗いのに、早起きして何をしているのかしら? )
「 あ… おはよう。」
少しだけ 驚いた様子で、
少女は気づいていないが、少女が見つけた男性は
少女がいるとは思わなかったので
( ……全く気配を感じなかったのは、俺の修行不足なんだろうか? )
「 おはよう ――― 勝手に見ててごめんなさい。邪魔したらいけないと思って……
あなたは ここに住んでる
「 そう、
「 あなたが
――― 名乗ろうとしたが、自分が名前を思い出せない事を 少女は思い出す。
これから、人と会う度に こんな事を繰り返さなければならないのだろうかと一抹の不安も感じた。
「 大丈夫、聞いてるよ。記憶が無いんだってね? 」
「 はい…。 」
遠目には気づかなかったが、自分のほうへ近づいて来た
見上げるほどに背が高く、細く見えたが筋肉がついた自分より大きな身体だと気づいた少女は
「 あの… あなたが助けてくれたと聞きました。だから…ありがとうございます。 」
――― 少女は
「 うん、お礼は受け取るけど頭は下げなくてもいいよ? 顔をあげて?
助けたと言うか、たまたま 通りがかったんだ。
父が医者だから
俺は何も………――― あまり何もしてはいないよ? 」
何もしていないと言いかけて、自分が彼女に何をしたのか
自分が少女に施した処置について切り出すべきか迷ったが
会って
何より 見知らぬ少女と結婚する気が無いので、できれば その話題は避けたい。
( この
とりあえず、謝ったほうが良いのか? う~ん…… どうすれば…… )
空に明るさが増して、お互いの顔がわかる程度になると
顔をあげた少女の照れたような表情と仕草が愛らしく見え始め、
「 あの… 本当は昨日 お礼が言えたらって思っていたのですけど…… 」
「 ああ、ごめん。待っててくれたんだってね? 」
「 いいえ!謝らないでください…!私がいつの間にか 眠ってしまって… 」
――― 言いながら、少女は
薄明りのせいなのか、記憶喪失のせいなのか・・・・
儚げでもある彼女の様子に
口づけをした事を 無効にしようと考えている事に少し罪悪感を覚え始めていた。
( 悪い
「 あの、遅くに帰られたみたいなのに早起きですね。もうお仕事に向かわれるのですか? 」
――― 少女は
「 いや、ちょっと 散歩がてら海に行こうかなと 」と、
本当は、いつものように
「 海… ――― 私がいた所…ですか? 」
はにかんだような笑顔を見せていた少女が、暗い表情に変わったので
「 ごめん、嫌なことを思い出させてしまったようだね……? 」
「 いいえ… 海にいた事も覚えていないから大丈夫です。
ただ、どうして 私は海にいたのかと気になっていて…… 」
そう言いながら、また 少女が俯いてしまったので
「 一緒に来る? 何か思い出すかも? 」
「 え? 」
「 待ってて、今 そっちに行くから! 」
「 あ…
返事をする前に、
彼が言う通り、何か思い出せるかもしれない ――― 。
「 はい ――― 外は寒いから これを着て。 」
「 !? 」
ぼんやりしている間に、
手渡された羽織着を どう着たら良いのか
それに気づいた
「 …… ありがとうございます。 」
「 どういたしまして ――― 」と、華やかさのある
少女は 何となく恥ずかしくなり、頬を赤く染めて
彼女の その様子が愛らしく思え、
( 朝の鍛えは できそうにないけど… まぁ、いっか ――― 。 )
最初の頃より 少女の事を前向きに受け入れつつあったが、
助けた時の状況を どう切り出すべきかで 再び 頭を抱え込み始める ――― 。
慎重に言葉を選んで話さないと、軽蔑されかねない・・・・。
「 顔とか洗う? あっちに水があるから、ついてきて。 」
「 あ… ――― はい…! 」
照れもあってか、
( 私より 大きくて、ちょっと怖いけど…… 優しい
!? ―――
少女は 一瞬、
頭の中が霧が かかっているかのように、
救いを求めるかのような表情で、もう一度
考えても考えても 何も思い出す事は無かった――― 。
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