「 睡る花のような少女 」(三)
少女の話から、
「 物理的な衝撃を受けたり、精神的な問題から記憶が消えてしまう事があると
噂には聞いておったが、この歳で初めてその症状のもんに遭遇したわい……」
少し前に、野菜などの煮汁で緑色に濁った吸い物(スープ)を持って部屋に戻って来ていた
「 …… 思い出す方法はないのでしょうか? 」
少女が不安そうな表情で尋ねると、
「 医者として 任せておけと言いたい所じゃが、正直、何とも言えぬ……。
一生 戻らぬ者もいれば、数日 安静にしていて戻った者もいるようじゃし
何かの衝撃で戻る場合もあると聞く。
お主の場合、かなり水を飲んでおったようじゃから
海の中を
流される途中、どこかで頭を強く打ったのが記憶喪失の原因かもしれぬな。」
それが記憶喪失の直接の原因ではないかと考えていた。
殴られたような跡は、他にも少女の身体に付いており、
それらの痣は全て最近できた物と思われる・・・・。
本当は先程、その痣が どのような状況で付いたのかを聞き出すつもりで
――― 時には、忘れていたほうが幸せなこともあるからだ。
「 まあ、心配はいらぬよ。お主は、記憶能力以外は 正常で健康なのだから
思い出せぬとも生きては行けるし、明日には ひょっこり思い出すかもしれぬ。
症状の経過も診たいし、
残酷な記憶なら忘れたままのほうが良いと
医者としての
「 さあ、お飲み!冷めちまうよ!? 」
少女は、黙ったまま 目の前に置かれた緑色の吸い物料理を、
「 先生の言う通り、生きてるだけで
いざとなりゃあ、あたしの妹か 養子になったって良いんだ!
あんたとあたしなら、きっと 美人姉妹って噂されて
男に不自由しない人生になるだろうから大歓迎だよ! 」
―――
渡された吸い物を飲みながら、少女は自分が汁料理の飲み方は覚えている事に気づく。
( だけど、いつ口にしたのか……
そもそも、最後に食事をしたのはいつなのかしら…? )
自分に関する記憶が無い事も、戻せないかもしれない事も平気なわけでは無いが
不思議と あまり動揺はしていないなかった。
( 二人が言うように、思い出せなくても大丈夫なような気がする。どうしてかしら……?)
何も食べていなかったせいなのか、口に入れた緑の液体は不思議な味に思えたが
その温かさは 心にまで
( おいしい……ような気がする……。)
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