2・診断結果
二十歳になったその日、僕は有休を使って会社を休み、
「野上さん、野上さーん、終わりましたよ」
長い検査でいつの間にか眠ってしまっていた僕は笑顔の看護師に起こされ検査が終わった事を知る。
「先生から検査結果の説明があるので着替えが済んだら待合室で待っててくださいねー」
検査着から着替えて部屋を出ると、言われた通りに待合室の長椅子に腰掛ける。
カバンから文庫本を取り出して、栞をたよりに読みかけのページをめくる。当たり前に普及している電子書籍はかさばらないし便利だが、紙媒体の本が好きなのだ。めくる時の乾いた音、指のはらを撫でる紙の感触、不便さすら愛でる事ができる程度には本が好きだった。
子供の頃から人付き合いというものが得意ではない僕はごく自然に本を読むようになった。同じ趣味を持ち、気の合う友人はいるが、学生時代のただのクラスメイトを「友達」と呼べるほど器用な性格ではない。
中世ヨーロッパを舞台に魅力的なキャラクターが登場する物語に没頭していると、扉が開き名前を呼ばれる。
座るなり医師から検査の結果が伝えられた。
「お待たせいたしました。検査結果ですが、15センチですね」
「え、そんなに?」
聞いたことのない数値にさすがに戸惑った僕は思わずそう口にしていた。
「平均値は3センチから5センチですから、数字としては少し異常値ではありますね。体や脳に異常や腫瘍などはないので大丈夫だと思いますが。ただ、万が一体調などに変化があった場合はなるべく早く診察に来て下さい」
平均値の3倍以上にもなる自分の『カベ』の厚さに戸惑う僕を特に気にする事もなく、目の前の医師は手元の書類になにやら書き込んでいる。
「国への報告も同時に行いますので、何かあれば連絡がいくと思います。会計カウンターで認定証明書もらってくださいね。あと、お仕事の都合もあると思いますが、カウンセリングの予約も取って帰って下さいね」
「わかりました」
壮大な国家プロジェクトゆえ守秘義務や個人情報などというものは僕たちにはなく、認定証明書の携帯と定期的なカウンセリングが義務付けられている。
窓口で会計とカウンセリングの予約を済ませた僕は本屋に寄って帰る事にした。
「あ、やっぱ自転車乗って来れば良かった…」
今朝、家を出るときにぶらぶら歩くのも良いかと思った自分を少しだけ恨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます