人類有壁化プロジェクト

１・プロジェクトサンプル

「野上さんですねーお待たせしました。検査結果ですが、１５センチですね」

「え、そんなに？」

　――――――

　西暦２０２０年に行われた東京五輪をリアルタイムで知る世代がもういなくなった日本。

　歴史の教科書や図書館のアーカイブで見る当時の映像は、もはやこの国における旧暦と言っても過言ではなかった。

　医療分野における発展が著しく進み、先進国の中でも類を見ない進歩で莫大な利益を出せる輸出産業として確立された。

　その一方で、加速するばかりの少子化と、一向に下がる気配のない生涯未婚率は国の維持と、国益に関わる問題であると最重要視されるようになった。そこで、それらの問題に歯止めをかけるべく持ち上がった打開策が―――

【人類有壁化（じんるいゆうへきか）プロジェクト】

　遺伝子の組み換えによる繁殖機能の向上と『カベ』の構築。

『カベ』は男女ともに成人になるのと同時に身体全体に添うように構築され、医療系機関における特殊技術を除き、他人と直接触れ合う事はできない。

　要するに、二十歳を過ぎるとキスどころかセックスができなくなるのだ。

　学生だろうと社会人だろうと関係なく、それまでに繁殖相手を見つけて、子供を作らなければならない。

　僕たちは【触れ合う】事を奪われた０号試験（サンプリング）世代である。