二話 四月二十三日 昼 砌駅にて
歩いて十分ほどで問題の砌駅に着いた。駅は小さく、ところどころ錆びていて古い。山にほど近いというよりも、ほとんど山の中にあるような場所だ。駅の周りは住宅地で、厳しい斜面に家が連なって建っている。駅と同じく家々は古く、新しい建物はマンションくらいだ。
しかし古くても寂れているというわけではなく、改札口には若者が多い。それぞれ片手に握ったスマートフォンを食い入るように見つめている。待ち合わせをしているのだろう。
その若者に紛れて、八尋は駅前の案内板と相談所から持ってきた地図とを見比べる。
「前みたいに、紙にふって息を吹きかけて探さないんですか?」
両手に地図を持ち、今にも歩き出そうとした八尋に桃太が声をかけた。
ひどく落胆した様子の桃太。それもそのはず、桃太の楽しみは八尋の摩訶不思議な力を見ることだからだ。自分にはよくわからない力を使って、颯爽と鬼を探し出して退治することを期待している。それなのに八尋は今、鬼の手がかりを足で探そうとしている。
桃太が言わんとしていることがわかった八尋だが、肩をすくめて周りを指差した。
「ここには人が多いから、
「霊符?」
奏が小首をかしげた。
「あの和紙のことさ。護符とか呪符とも言うけど僕は霊符って呼んでいる」
続けて八尋は桃太に笑いかける。
「ある程度下調べしたら使うよ」
桃太は、わあっと破顔した。
横で見ていた奏は、桃太を肘でこついて「ちょっと、八尋さんに失礼でしょ」とジト目で睨む。
「な、なにが?」
「八尋さんには八尋さんのやり方があるんだから、桃太郎君のわがままで霊符を使わせちゃダメでしょ」
「で、でも奏ちゃんも八尋さんが霊符使っているところ見たでしょ?」
「そりゃあ見られたら嬉しいけど、私は『霊符使わないんですか~?』なんて聞かないわよ」
こそこそと言い合いを始める二人の会話は八尋に丸聞こえだった。
小声だから周りの迷惑にはなっていないが、あまりここで時間を取られるのは後々困りそうだ。それに八尋は桃太のことを迷惑とは思っていない。
奏を落ち着けるように肩をそっと触れた。そして「事件の場所を知りませんか?」と優しく聞く。
ハッとした奏は、桃太と言い争っている場合ではないと気づき表情を明るく変え手帳を開いた。
「三月十二日の一人目の女性は砌駅に来るまでに通った駐車場で見つかったらしいです」
言いながら奏は振り返ってわずかに見えるコインパーキングの看板を指差した。
そしてそのまま動かし、改札口と向かい合うように建っているスーパーに向ける。スーパーといってもコンビニ程度の大きさしかない。
「二人目の三月二十二日の女性は、そこにあるスーパーの裏で見つかったそうです。三人目の二十九日の男性は線路の向こうにある公園で発見されました。朝、近くの小学生が発見したそうで……。それから先週、十七日に四人目の女性は喫茶店の近くで発見されました」
線路の反対側の公園は、ここからでは確認できなかったが他のコインパーキング、スーパー、喫茶店はすべて目視することができた。
「結構近い距離で起きているんだね」
「はい。だからすぐに犯人が見つかるかと思ったんですけど、警察がパトロールしても見つからないみたいです」
八尋は地図でそれぞれの場所を確認し、指でなにかを測った。
「ふむ。その中だと喫茶店が一番いいかな」
「え?」
「喫茶店?」
なんのことかさっぱりわからずに、きょとんとする奏と桃太に八尋はにっこりと笑う。
「喫茶店に行ってみようか」
八尋の指差す先は、事件の起きた喫茶店。
桃太は刑事ドラマや探偵ドラマのような、現場検証や聞き込みが始まるのかと期待に胸を膨らませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます