第23話

テキサス州南部、メキシコ国境に近いイーグルフォード鉱区では、土獏のなかで噴煙を上げる巨大な油井ポンプと採掘重機が林立し、その周辺には、工事車両と、現地作業員の仮設住居がみられた。

「あれが、これから掘られる一号井だ。この辺はシェールガスが潤沢に眠っており、周辺には既に幾つかのガス井が存在する」

この日は、豪田が渡米後に初めて製造した油井管を、現地の採掘業者に納める記念すべき日であった。

テリーの運転するピックアップに乗り、ガス採掘場へと向かった豪田。

慣れない言語環境やテキサス流の手荒い手解きに、仕事は辛いことの連続であったが、自分が携わった製品が客先に納入され、実際に使用される光景を見ることほど、やりがいを感じることはない。

「シェールガスの埋蔵量は豊富だが、在来型ガスと異なり採掘が難しく、ガス田開発には長期間を要する。しかし、クエート、イラン、サウジアラビアと、大小の油田を掘り続けた俺から言わせると、ここには必ずガスが埋蔵されており、そして世界のエネルギー中心は中東から北米へと移り変わると確信する」

何層にも重ねられた油井管が地中に埋め込まれていく様子は、豪田の想像を遥かに上回る迫力で、そのスケールの大きさに感動すら覚えた。

テキサス南部の猛熱とした荒野の地中奥深くに、今後のエネルギー事情を覆す資源が眠っており、またその採掘に自らが一手を加えていることを思うと、広大なアメリカ大陸を前に、なんとも言い表せない思いに浸った。

同鉱区の権益は既に安徳商事が獲得しており、今後、本格的に日本に輸出される。

僅かな時間であったが、大規模なガス田を見た豪田は、再びテリーの運転するピックアップトラックに乗り込むと、遠方に採掘場を眺めながら、人気のないテキサスの土獏を直走った。


―豪快に砂塵を巻き上げるピックアップ。

土獏を抜けると、右手に広大な綿花畑、左手には肥沃な玉蜀黍畑を見て、日本から遠く離れた不毛地帯で、かつて御嶽山寮で口にした淡い玉蜀黍粥の苦味を思い出した。

まるで家畜の餌のような食事であったが、外界の情報や誘惑を絶ち、禁欲的に野球に打ち込んだ経験が、今こうしてシェールガス採掘という大規模事業に結び付いていると思うと、世の中に無碍な事柄はひとつもないと実感した。

窓外では小型プロペラ機が低空飛行しながら、広大な玉蜀黍畠に農薬を撒く光景が見える。

テリーは、左手をカーラジオに差し伸ばすと、徐に地元局のチャンネルに合わせた。


「Deep within my heart lies a melody, a song of old SAN ANTONE」


ザアザアと波音のするステレオからは、古い曲が流れる。

爽快なバイオリンの音色と、アップテンポなベースライン、男声と女声の軽快なデュエットが、窓の外に広がる南部の景色と相まって、豪田の琴線に触れたが、テリーは仏頂面をしながら汚い言葉を吐いた。

「Fuckin' Bob Wills」

テリーはカーラジオを切ると、すぐにテープに切り替えた。

「俺はZZトップの方が好きだぜ」

先程までの長閑な雰囲気とは一変、ステレオからは耳を劈くような轟音が響いた。


「Rumor spreadin' around, in that Texas town」


テリーはご機嫌に鼻歌を歌うと、ふと、豪田にある提案をしてみせたのであった。

「よかったら、まだ時間が早いから、俺の家に寄って行かないか」

「いいんですか? しかし、まだ仕事が残っています」

豪田は猜疑心を込めた目で問うと、

「急を要す訳ではないだろう」

とテリーはハンドルを握る手を強めた。

イーグルフォード鉱区から車を飛ばすこと三時間、サンアントニオからヒューストン方面に走らす途中、ラ・グランジ(La Grange)という街に、テリーの自宅はある。

ラ・グランジは、格子状の道路が敷設された小さな田舎町で、カントリーサイドらしい広い路幅の道や、青々とした街路樹、宏闊な敷地の家々があり、長閑で落ち着いた雰囲気を感じさせた。ラ・グランジには、モニュメントヒルズに象徴されるように、十九世紀よりドイツ、チェコからの移民が移り住み、現在も至る所に当時の建造物が、歴史的な威厳を保ちながら佇んでいる。

「ここが俺の故郷さ」

メキシコ産の太い葉巻を咥えながら、テリーは言った。

サウス・ワシントン・ストリート沿いの白い二階建ての住宅がテリーの自宅であり、車を停めると、枝垂柳の枝の間から、ガレージに飾られたホジラ(Harley the hogzilla)が見えた。やはりテリーらしい、南部のこだわりが感じられた。

コロラド川の流れる豊かな自然と、古くから発展した国際都市。

一旦、自宅に寄って荷物を卸すと、再び車に戻ってきたテリーは、

「もう一か所、どうしてもお前に見せたい場所があるんだ」

と、なにやら含みをもたせて言った。

豪田は不審に思いながらも、テリーに身を任せ、その「見せたい場所」へと向かったのである。

街のエントランスにある「Welcome to La Grange」の看板を横目に、テリーが車を進めると、二人が訪れたのは、郊外にある食肉加工場であった。

なぜこんな場所に、と豪田が不可思議に思っていると、

「これから屠殺場(ABATTOIR)に行く、食の有り難みが分かるぞ」

と、テリーは豪田の手を引いた。

「屠殺場?」

聞き慣れない言葉に、そこがどんな場所かも想像が付かず、豪田は状況を静観していると、何やらテリーはバックヤードから一頭の牛を連れきた。牛は、体重七百キロはあろうかという巨大な体躯をしており、モウモウと低い声で鳴いていた。

陽光に照らされ黒々と光る毛並みと、引き締まった太腿は筋肉の筋が浮き上がり、どこか品位すら感じさせた。

テリーは、牛の体に巻き付けられた鉄鎖を片手に食肉加工場の中に入ると、目前にいた男に「へい、ボビー」と声を掛けた。

ボビーという男は、どうやらテリーの知り合いのようで、

「やあ、テリーじゃないか。今日も野太いビーフを連れて来たね」

と、陽気に答えた。

「彼は獣医のボビーだ。こいつはジャパニーズ・ファッキン・豪田、俺のビジネスパートナー兼フレンドだ」

男は獣医というが、ビリー・ギボンズのような長い髭にサングラスは、まさにテキサスの親父という風貌であった。

ボビーは、テリーが連れて寄越したアンガスビーフの太腿をバンバンと叩くと、

「こりゃ肉が締まって堪らんな、涎が出ちまいそうだ」

と垂涎の眼差しで微笑んだ。

「こいつは俺の従兄弟が育てたアンガスビーフだい、裏のヤードで採れた新鮮な穀物を食わせて育てた、身が締まっていて赤身が旨いぞ。今日は、豪田に食の有難味を教えてやりたくてな、こいつを食肉にする工程を見せてやりたいのだ。ボビー、悪いが後は頼むぜ」

どうやらテリーは、BBQ発祥の地でもあるテキサスにおいて、豪田に精肉の魅力を伝えようとしているようであった。

「なるほどな、俺に任せろ」

ボビーは、テリーの指示に従い、食肉加工場にビーフを入れると、奥からか電気ショックを持ち出した。

ボビーが牛の頭部に電気ショックを当てると、一瞬にして巨大な体躯は倒れ、地面に打ち付けられる豪快な音とともに地響きがした。

「ノッキング」と呼ばれる工程では、牛に脳震盪を与え気絶させ、その間にナイフを入れて命を途絶えさせるのだが、初めて目にする豪田にとっては目を覆いたがるような残忍な光景で、思わず口を手で押さえた。

「なんだ、貴様、屈強な体付きをしながら、見かけによらず女学生のような怯え方をしよって、がっはっは」

声高らかにテリーが笑うと、牛は次工程へと運ばれていった。

ボビーの指示で、作業員二人が手際よくビーフの後ろ足をチェーンで吊るすと、刃渡り四十センチはあろうかという巨大なナイフで動脈を切開し放血したあとに、頭を鉈で切り落とした。

忽ち、大量の鮮血が血吹雪となって周囲に舞う。

同時に、脊椎反射で牛の足がビクビクと痙攣するのだが、あまりの悍ましさに、豪田は何度も嗚咽しかけた。


豪田の記憶の奥底では、かつて紫水学園野球部時代に、飼っていた犬を成長した段階で食べさせられるという残忍な体験が蘇った。

子犬の頃から大切に育てた愛犬「土佐五郎」を、皆の前で小刀で切り殺し、毛を剥ぎ血抜きをした後に、葱や薬味とともに沸騰した湯に入れ、獣独特の臭みを取り除き、丸々一頭胃に入れた。

紫水学園の食事は稗粟、玉蜀黍粥などの穀物が中心のため動物性蛋白質が少なく、野球部では伝統的に飼犬を食す訓練を行っていた。

「土佐五郎」という名前を付け、毎日欠かさず散歩に連れ出し、糞便の世話をして、愛着の湧いたペットを殺害し食すことで、栄養だけでなく精神をも鍛える。

今後の人生の中でも、愛犬を殺すほどに良心を痛まされる経験はないと思っていたが、屠殺場の牛は犬よりも数倍スケールが大きく、血肉の量も多いため、さすがの豪田でも辛抱堪らなかった。

豪田は、加工場全体が見渡せる高台へと上ると、各々の工程で施される処置について、テリーから逐一説明を受けた。

この時点で豪田は顔を蒼褪めさせていたが、テリーは構わず続けた。

「胃の内容物の逆流を防ぐため、先に食道を結紮しておく。次にナイフで胴体に切り込みを入れ、ビーフの皮を剥いていくのだ」

首の?がれた牛の皮を作業員が剥ぐと、脱脂綿のような白い皮下脂肪が明らかになった。

剥がれた黒い表皮は、蜥蜴の尻尾のように尚もピクピクと痙攣している。テリーの説明によると、これらの牛革は皮革工場に売却されるのだという。

「糞便による食肉の汚染を防ぐため、今度は肛門結紮を処す」

途中工程で頭や前足が剃がれ、皮が完全に剥がれると、それはもはや生物としての牛でなく、食糧としての牛に変貌を遂げるのだった。

延髄を取り、内蔵を抜く。巨大な内蔵がボタボタと落ちる様は、まるで仔牛が生まれるかのようであった。

黄色く濁った腸、赤黒い心臓、その他諸々の内蔵処理は、女性の作業者によって行われる。

牛は肉だけでなく、使える部位が多くあるため、複雑に絡みついた五臓六腑を、淡々とした手付きで選別していった。

さらに最初の工程で切り取られた頭部も、同じく女性作業者が、頬肉を削ぎ、顎を割り、舌を抜いて選別していく。

ほんの数十分前まで元気に鳴いていた牛が、見るも無残に解体される一連の所作を見つめ、それを可愛そうだと思うのか、それとも当然の所業と思うのか、豪田は生命の尊厳に直面し、複雑な思いに駆られた。

「これで一連の工程は終了だ。牛一頭を買ってきて、解体して二週間吊り下げておく。そうすると、旨いアンガスビーフになる」

僅か三十分ほどの滞在であったが、終始、醜悪な現場を見た豪田の顔面は血の気が抜け青白く変色していた。

「見学中、貴様は何度も嘔吐しかけたが、それは全く間違った行為で、貴様自身もここまでの体躯を得るために、何頭ものビーフを食してきたのだろう。牛を殺す行為は、魚を捌くのと何ら変わらんのだ」

屠殺場の見学が終わり外に出ると、辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていた。

ラ・グランジの街には高い建物がなく、また都市からも離れているため、見上げると満開の星空が広がっている。

朝からイーグルフォード鉱区で大地の鼓動を聞き、午後は食肉加工場で大柄な牛一頭の解体現場を目の当たりにした豪田は、これまでの人生経験を遥かに越えた光景の連続に、既に放心状態であった。


「今日は色々とありがとうございました、お蔭で貴重な経験ができた。ガス採掘場に行くのも、屠殺場を見学するのも、私にとっては初めての経験ばかりであった」

豪田は何度も頭を下げると、別れを告げ家路につく準備を始めた。

「もう帰るのか、水臭いな、一杯飲んでいかないか」

「しかし、もう夜も遅いですし…」

テリーと酒を飲めることは本望であったが、忙しい工場監督者が自分の為に一日を棒に振るって、彼方此方に案内してくれたことを思うと、さらに食事まで御馳走になるなど、さすがに気が引けてしまう。

遠慮がちに豪田が言ったが、尚もテリーは首を横に振った。

「気にするな、実はワイフと子供達がアリゾナの実家に帰省中でな、家に誰もおらんのだよ。ベッドルームも空いているし、テキサスビーフが残っているから、一緒に食おう」

「ワイフ、ですか…」

テリーの粋な計らいは喜ばしかったが、一方でテリーに妻子供がいることを知り、豪田は落胆した表情を見せた。

テリーはこの日、屈強な体格の割に体のラインが浮き出るピチピチとしたタンクトップを着ており、これはホモっぽい恰好だな、と俄かに期待していたのだが、どうやら男には気がないと知り、テリーに対して半ば興味を失っていた。

テリーは豪田を家に誘うと、嬉々とした様子で、業務用冷蔵庫から、二十オンス、厚さ五センチの骨付きサーロインを取り出した。

「こいつは上物だ、貴様のために取っておいてやったのさ、赤味が最高に旨いぜ」

ガレージから鋳物のコンロを取り出し、煙草を咥えたまま豪快に炭火で焼き始めたテリー。

ブロック状の肉塊は、表面がこんがりと網目状の焦げ目がついたが、内部まで火が通るには時間を要すため、テリーはその間、他の食材の準備を始めた。

「豪田、お前は肉当番だ。絶対に肉から目を離すなよ。自慢のアンガスビーフも、焼き方を間違えたら味が死んでしまう。適度にひっくり返して、満遍なく火を通してくれ」

テキサスはメキシコと隣接しているため、テクスメックスと呼ばれる、テキサス風メキシコ料理が有名である。

至る所にメキシコ料理の看板があり、ここテリーの家でも、ビーフにはチリソースをかけて、サラダはタコス生地で巻いて食べるのが習慣となっていた。

「生粋のテキサス人は、トルティージャチップスにハラペーニョソースをつけ、それをローンスタービールで流し込むのだ」

金曜夜、夕方五時から始まったテリーとの晩酌は、延々と続いた。

食卓には、存在感のある巨大な肉塊が鎮座し、テリーがナイフを刺すと、大量の脂が漏れ出す。

そのほか、テリーの従兄弟が営む農場で採れた玉蜀黍と、蒸かしたポテトが、チリソースと共に並んだ。

どれもこれもボリュームが多く、日本の焼肉店でいえば五人前以上はあろうかという量の肉を、二人で平らげた。

「―がっはっは、ジョージ・ブッシュはテキサスの英雄だ」

晩酌中、二人は談笑したり、アメリカのバラエティ番組を見たりして、実に有意義な時間を過ごした。

二時間に渡る巨大なアンガスビーフとの格闘の後には、息が出来ないほどに腹が膨れ、豪田はソファに横たわった。卓上には牛骨と、空になったビール瓶が無数に並んでいる。

「いやあ、腹が膨れたら眠くなったよ。シャワーを浴びてもいいかな」

夜十一時、シャワーを浴びようと席を立つと、

「シャワールームは部屋を出て左奥、君のベッドルームは二階の南西の部屋だ。壁面に南部旗が掲げられているファンキーな部屋だぜ」

と、テリーは親指を立てて見送った。

豪田はそのまま衣類を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。

長い一日であった。

この日、仕事をしたのは正味二時間程で、その後はガス田の視察、屠殺場の見学、また長時間の移動と、充実した時間を過ごした豪田は、一日の労を労うように洗体すると、身体を拭き、バスローブに着替えた。

時刻はそろそろ日付を越えようとしている。さすがに睡魔が襲った豪田は寝室へと向かい、バスローブ姿でベッドに横たわりながらテレビを見ていると、ものの数分後にドアをノックする音が鳴り、イエローローズの瓶を片手に持ったテリーが入室してきた。

「君と飲むのが楽しくてな、良かったらもう一杯だけ付き合ってくれ」

本音を言えばもう寝てしまいたい気分であったが、テリーの好意を断るはずもなく、

「勿論だとも」

と、テリーを迎え入れた。

テリーは、八年物のイエローローズ二本を、片方を豪田に、もう片方を自分で持ち、乾杯して、大きな口の中に流し込んだ。

まるでドクターペッパーのような勢いでテリーは平らげたが、四十度のウィスキーは胃を焼き、顔から胸元に掛けて肌を赤らめると、然も暑そうにバスローブを開けさせた。

それを見た豪田は、昂奮のあまり眠気など吹っ飛び、もう辛抱堪らないといった様子でテリーの胸元に視線をやった。

「おう貴様、昼に屠殺場に行った時のことを覚えているか」

テリーは、急に神妙な面持ちで、豪田に語り掛けた。

屠殺場では、大柄な牛が血吹雪を出しながら死んでいく姿を目の当たりにした。豪田にとっては些かならずショッキングな光景であったが、同時に食に対する考え方を改めさせる貴重な体験でもあった。

「ええ、勿論、とても衝撃的で、食肉に有り難みを感じました」

「そうか、そう思ってもらって本望だ」

テリーは納得したように頷くと、さらに続けた。

「貴様、牛をノッキングさせた時、まるで女学生のように怯えていただろう」

「ええ、あれだけの血肉を見るのは初めての経験でしたので、つい…」

「まるで女のような仕草で怯えていた、その時ワシは勘付いてしまったのだが、まさか貴様、ホモじゃないのか」

「い、いえ、まさか…」

「隠さなくてもいいぜ」

テリーは、豪田の手を握ると、

「実は俺もホモなのさ」

と微笑みかけた。

「しかし、テリーは妻子がいる身ではないですか」

「俺のファミリーは、代々、農場を営んでいるから、後継が必要だったのさ。妻のことは当然、リスペクトしているが、恋愛感情とはまた別だ」

「なるほど…」

豪田は、テリーの複雑な心境を思うと、居た堪れない気分に陥ったが、一方でテリーがホモであるという事実に、俄かな下心が膨れ上がるのも、また真であった。

テリーは思い付いたようにひとつ咳払いをすると、声調を整え、さらに続けた。

「それより貴様、昔ベースボールをやっていたそうで、意外と屈強な体躯をしてやがる、どうだ、俺と一戦交えないか」

「い、いいんですが?」

思いも寄らない誘いに、豪田は恍惚と目を輝かせた。

「おう、見ろ、これがオイラのテキサスマシンガンさ」

テリーがバスローブを脱ぐと、そこには願っても無い、目にしたことのないような巨大な犬ふぐりがそそり立っていたのだ。

テリーは機関銃の先端を優しく撫でながら弾薬を詰め込むと、戦闘の準備をした。

それを見た豪田は、自らもバスローブを脱ぎ捨て、小型のコルトを取り出すと、逸物の大きさをつい比べてしまった。

テリーの屈強な逸物は、日本産の拳銃では、とても勝てない。

あまりの力の差に、こりゃあ戦争に負ける訳だ、と豪田は実感したのであった。

「がっはっは、貴様はイエローローズより、イエローモンキーがお似合いさ、ファックユー」

悔しさのあまり咽び泣いた豪田だが、開き直ってこう懇願した。

「しかしその立派なテキサスマシンガンを僕の菊門にぶち込んでみてくれないか」

「もちろんだぜ、ブラザー」

豪田の要求を快諾すると、テリーはその背後に回り、荒々しく豪田の尻を掘り始めた。その屈強な銃口から放たれる絶え間ない銃弾に、忽ち豪田は背筋を仰け反ったのであった。

「ぐおおお、痛い痛い!」

渡米一ヶ月。これまでに味わったことのない激辛のテクスメクスの刺激に、悲鳴とも歓声とも取れる声が漏れると、興奮したテキサス親父は更にいきり立ってペースを高めた。それはまるで本物のマシンガンの如く、パンッ、パンッと、小気味よく乾いた肉弾の音色を奏でた。

テリーに凌辱されている間、豪田の頭には、日の丸旭日旗と南軍旗がバチバチと火花を散らして揉み合う構図が浮かんだ。

日本人は頭脳戦を得手とするが、実際に生身の戦いとなると、体格の不利からとても敵わない。

テリーは豪田を耳元で愛撫しながら、淫猥に囁いてみせた。

「野球も同じさ、日本人はスモールベースボールは得意だが、本場テキサスの巨幹なバットには勝てんだろう」

豪田の口からは、吐息とともに、テリーを称賛する言葉が漏れる。

「ええ、まるで内臓が一つ吹き飛ぶような衝撃です」

「ダメ押しのグランドスラムだ!」

豪田は、テリーの熟練したテクニックに骨髄まで抜き取られると、腰が砕け立ち上がることも出来ず、そのままテリーの太い腕き包まれ、余韻を楽しんだ。

こうして日米戦争は、一方的な情勢で日本国に惨状をもたらしたまま終焉した。

ひ弱な日本男児は、屈強なテキサスの親父に適う訳もなく、無条件降伏を受け入れ、余韻の中、テリーとの枕会話を楽しんだ。

「ちなみにテリーは他にゲイ友はいるのかい」

「ああ、もちろん。ダラスのオークローンという街に行くと、ゲイの集まるバーが林立しているぜ」

ダラス中心部、オークローン(oak-lawn)は、かつては多くのメキシコ人が流入しリトルメキシコと呼ばれ、八十年代以降は富裕層の集まる高級住宅地と知られるが、一方で最近はゲイの聖地としても有名である。

オークローンで石礫を投げればゲイか金持ちに当たる、という諺もあるほどで、テリーは週末ともなると、会社関係者との会合と偽って家を抜け出し、夜な夜な女装パーティに明け暮れるのであった。

「僕はアメリカ生活に詳しくなくて、良かったらゲイ友の集まるバーを紹介して欲しいのさ」

「いいよ、たしかに異国の地で色恋のない生活というのも味気ないからね」

テリーは二つ返事で云ってみせたが、

「でも今夜、君は僕だけのものだ」

と、一度、無条件降伏を告げた豪田に対し、もう一度激しく陵辱するのであった。


翌朝起きると、既にテリーはいなかった。

灼熱のテキサスといえど、早朝に裸ではさすがに肌寒く、豪田はひとつ身震いをした。ベッドから下りた豪田は、昨晩、何度も凌辱された肛門に違和感を覚えながらバスローブを羽織ると、外に出て、バッグヤードでトラクタを乗り回すテリーを見つけた。

薄暗いベッドルームでは気が付かなかったが、テリーの屈強な胸板には、黄金色の胸毛が生え茂っており、とても野生的で逞しく映った。

「ヘイ、テリー、朝から元気ですな」

肌蹴たバスローブの褄下から逸物を垣間見せながら豪田が言うと、

「少し早いが玉蜀黍を収穫しているとこだ。手土産に渡してやろうと思ってな」

と、思い掛けない答えが返ってきた。

テリーは大切に育てた玉蜀黍とアンガスビーフの肉塊を、土産として豪田に手渡した。

「それは旨い玉蜀黍だから、間違っても尻穴になど入れるなよ。それを食って一杯トレーニングをして、一回りも二回りも大きくなってくれ」

「ありがとう、感謝するよ、テリー」

別れ際、テリーは豪田にキスすると、その屈強な腕で豪田の身体を抱きしめた。

自宅に帰りスイートコーンを食べると、かつて紫水学園で口にした玉蜀黍粥の苦味が蘇ったが、テキサスの肥沃な大地と陽光に燦々と照らされ、そしてテリーの愛情の詰まった玉蜀黍は、当時とは全く違った味わいを伴っていた。

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