第12話

飛び石連休が開けた五月晴れのある日、春先まで薄っすら雪化粧を施した極寒の上俵山頂にも、漸く春らしい陽気が訪れた。温暖な気候からか、この日、豪田は朝から至極体調がよく、いつもより開放的な気分になっていた。

入学から一月が経ち、いよいよ学園生活にも慣れてきた頃合の豪田は、この日も授業と部活を終えると、いつものように風呂場で鮫島の横に座った。

洗体する鮫島の背中の筋肉は、やはり隆々と盛り上がっており、豪田の昂奮を掻き立てた。

「鮫島先輩、今日もお勤めご苦労様です」

「おう、豪田か―」

何気ない会話であるが、憧れの存在を前に、豪田の心は揺れ動くばかりである。

鮫島の気を引くため、豪田は、鮫島に対する称賛の言葉を並べた。

「今日の練習も、鮫島先輩の豪快なスイングは目を見張るものがありました。私もいつかは貴方のように鋭い打球を放てるようになりたい」

「そうか、褒めてもらって嬉しいよ。しかし、私はまだまだ成長の余地はあると考えている。豪田も、入部一ヶ月で、漸く部活にも慣れてきたではないか。今日は初の柵越えを見せてくれたな」

「い、いえ…、あれはまぐれでございます」

豪田は謙遜してみせたが、思わぬ言葉に、つい表情が綻んでしまった。

鮫島のような雲上人に目を掛けられるなど、これ以上に光栄な事はない。

そしてなにより豪田には、鮫島に対する特別な思いがあった。

「豪田はセンスがあるから、練習すればもっと伸びる。ワシの見たところ、体幹がまだ鍛え切れていないな。体幹をしっかりと鍛えれば、もっと強く安定した打球が飛ばせるようになる」

そう言うと鮫島は、豪田の腰元に触れた。

「筋力はあるようだが、これは見せかけだ。もっと内側の筋肉を鍛えないと…」

鮫島に体を触られた豪田は、まるで全身が硬直するような緊張に包まれた。

同時に、豪田の逸物は、みるみるうちに固化してしまうのであった。

咄嗟に勃起した逸物を泡で隠した豪田であるが、一方で頭中では、在らぬ事が浮かんだ。

何を思ったか豪田は、勃起させたフグリを、鮫島に見せつけたのだ。

もし鮫島にその気があるとすれば、きっと自分の逸物に、何らかの反応を示すであろう。

一か八か、豪田は気を集中させると、僅かに股を開いてみせた。

豪田は、恵まれた体躯をしているが、比較的温和な性格で、決して自己主張などする性格ではないのだが、思春期の過ちというべきか、勃起した逸物を片想いの先輩に見せつけ、豪田としては珍しく見栄を張ってみせたのだ。

石鹸の泡から見える巨大な豪田の愚息。

間違いない。鮫島は確実に、俺の隆々とした幹に、畏敬の眼差しを浮かべている。

そう信じた豪田であるが、しかし当の鮫島の反応は、当初の期待を裏切る冷ややかなものであった。

「豪田、貴様の股間に、雑念が垣間見えているぞ」

鮫島は豪田の逸物を横目で見ると、冷静に言い放った。

喜ばれると思い大胆な行動に出た豪田であるが、予想外に叱責を喰らったのだ。

「俺が男の勃起した逸物に現を抜かすとでも思っていたか」

「も、申し訳ございません、私としたことが…」

はっと我に返る豪田。

豪田の逸物は、みるみるうちに血の気を失い、巨幹は子犬のように萎んでしまった。

鮫島は、豪田が予想していた以上に禁欲的であったのだ。

「閉塞した学園生活の中で、恋心に狂う想いは分からぬでもないが、高校時代という大切な成長の時期に偏愛など、時間を溝に捨てるのも同様だ。心を悔い改め、翌日より、勉学や運動に勤しみたまえよ」

そういって鮫島は立ち上げると、豪田のもとを立ち去った。

やはり寮長たる者の人格は洗練されており、豪田は、欲求に耐え切れず横暴な行動に出た愚かな自身の行動を悔やんだ。

失意に暮れる豪田の目先には、鍛え上げられた立派な背筋と、尻の間からは、立派な前袋が、やはりずっしりと重量を伴ってぶら下がっていた。

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