第7話

夜は不思議とよく眠れた。地上へ行くことを思うと、昂ぶって寝られないんじゃないかと思っていた。きっとそれ以上に疲れていたんだろう。


6時。起床。地上へ行くまでは、目立つようなことは極力避ける必要がある。昨日みたいな遅刻は無しだ。


6時30分。仕事場で、掘削作業をする。ゼン爺の指定した時間まで普段通り振る舞う。



9時。チナツが現場を見回りに来る。看護士のチナツは、労働者の健康を管理する仕事を任されている。男くさい職場に可愛いチナツがくると、仲間のテンションもあがる。今はまあ、そんなことをいってる場合じゃあないけど。



11時15分。仲間に悟られないよう仕事場を抜ける。予定時刻ちょうどに、査察官たちの会話をきいた部屋に着いた。中は相変わらず人気がなく、昨日の査察官たちの会話も嘘だったんじゃと感じるほどだ。ロッカーを開け、ゼン爺が用意した査察官用の制服に着替える。髪を整え背筋を伸ばす。 ポケットにゲートキーもちゃんとある。


うん、悪くない。見た目だけならバレないはずだ。


11時45分。モノレール駅の改札口前にやってきた。改札口を通る時に、両側に立つ警備員に感づかれないことを祈ろう。


当初は、警備員の注意をそらす策を考えていた。改札口の近くで仲間たちにケンカするふりをしてもらい、警備員に止めに入らせる。結果このやり方は採用しなかった。思い返せば、仲間たちがケンカをしているところを見たことがない。僕ならブチ切れるようなことがあっても、すぐ何事もなかったように打ち解け合う。急に彼らがケンカをはじめたら、警備員も不審がるだろう。


ストレートに勝負する。なんの策もない。投げやりと言われればそうかもしれないが、変に行動するとかえってまずい。ゲートキーを改札口のパネルにかざして通るのみだ。


よし、行く。


腹を据えて、僕は改札口に向かい歩き出した。堂々と胸をはって歩く。頼む、気づかないでくれ。


警備員の一人が、僕の方を向いた、警備員は、僕に目があっだかと思うと、眼を見開き、突如携帯していた銃を構え叫んだ。


「貴様ー、止まれ!!」


ば、ばれた……!?。無理やり突破するか?


ダメだ。

そんなことをしたら、モノレールは出発しない。どうする?


構えていた銃から、弾丸が放たれた。反射的に目を瞑る。しかし、弾丸は、僕の顔の横を掠めていった。かすったせいで、ほおが少し熱い。


「ぐあああー! 痛え! 殺してやる! 」


背後で男が呻く声が響いた。後ろを向くと、見たことがある男が肩を抑えて血を流し倒れていた。別の仕事場で働いている地下の住人だ。銃を撃った警備員が、僕に近づいてきて口を開く。


「査察官の方ですね。こいつが背後から貴方を刃物で狙っていたのです。」


倒れた男は恨み節を僕に向かってののしる。


おかしい。地下の仲間たちは、暴力なんてしたことがないのに。どうしてこの男は刃物で殺人を実行しようとしているのか。考えたくとも今は考えている時間がない。凄く大事なことのような気がするのに。


「さあ、モノレールにお乗りください。まもなく出発します。」


警備員に促され、再び改札口へ歩き出す。撃たれた男には申し訳ないが、これで地上へ行ける。


気を抜いていた。まだ、改札口を通過していないのに油断していた。ふいに横から声をかけられる。


「ケイト? ケイトだよね? なんでそんな査察官みたいな格好してるの。コスプレ? 」


顔を見ないでもわかる。チナツだった。


「モノレールに乗るの? いーなー、私も乗せてよー。」


チナツは、天然だった。前からうすうす思ってはいた。大事な場面で天然が花火のように炸裂した。


警備員が怪訝な顔をする。


「査察官さま? どういうことですか。説明していただきたい。まさかあなた、偽物じゃないでしょうね? 」


「うむ。説明してやる。こういうことだ。」


警備員が手に持っていた銃を奪う。驚いた警備員のこめかみに銃を突きつけた。


「私に無礼は許さんぞ。よく覚えておけ。」


トリガーを引く。銃声がして、撃たれた相手は地面に倒れた。


僕は、チナツを、撃った。













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