第5話
ゼン爺に促され、恐る恐るロッカーの中から出る。僕は大きくため息をついた。
「何をそんなところでかくれんぼしとるんじゃ? また副場長に怒られちまうぞ? 」
カッカッカとゼン爺は笑い、くるりと僕に背を向ける。
「戻るぞ。」
ゼン爺は、僕に何も聞かなかった。聡明なゼン爺の事だ。いつもであれば、何かしら問いただしてくるはずだ。それが、一言戻るぞとだけ言ってこの場を去ろうとしている。
「ゼン爺……。知ってるんだろ? あいつらの話を。」
「はてな。ケイト。わしは早よ仕事に戻れと言っておるんじゃ。これ以上手をかけさせるな。」
向こう側を向いたまま、ゼン爺は答える。止まることなく扉から出ていこうとしている。
きっと、ゼン爺は何も言わないのだろう。
……そうか、分かったよ。僕が言わなきゃいけないんだね。僕が、自分の口で、真実を語れってことだよね。
胸に手を当て大きく息を吸い込むと、叫んだ。
「待ってくれ! ゼン爺! 」
ゼン爺の歩みが止まる。
「俺、聞いたんだ! 俺たちの、皆んなの住むこの場所が、地上の奴らにぶっ壊されてなくなっちゃうんだよ!!」
掠れた声でやっと、言葉を絞り出す。自分の口で言って初めて、信じたくなかった現実を受け入れられたような気がした。
「顔をあげんか、ケイト。鼻水なぞ垂らしていい男が台無しじゃぞ。」
戻ってきたゼン爺が、俯いた僕の髪を、わしゃわしゃとしわくちゃな手でかき回す。
ああ、僕は泣いていたのか。全くこの程度のことで。大人だというのに情けないなあ。
「ガンバってよく言った。お前の言葉で言ってほしかったんじゃ。ひどいことをさせたのう。」
涙をぬぐい、ゼン爺の顔を見る。ゼン爺は、きっと僕よりたくさんのことを知っている。そう確信した瞬間だった。
「僕が爆破を阻止する。地下には逃げ場なんてないんだ。ゼン爺、知っていることがあるなら、教えて欲しい。」
ゼン爺は、うなずくと、ついて来いと手招きをした。
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